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Vivace! ―旅芸人の娘と、調べの止まった王国の物語―  作者: ゆかれっと
◆第1章「招かれざる娘」

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7/8

王妃候補生②

 そのときだ。

 このざわついた空気を切り裂くように、ひとつの声が響いた。

「静かにしろーーーッッ!」

 芯の通ったテノール。その声の主は――バルコニーの上で、後ろ手に手を組みながら仁王立ちしている男。左胸にたくさんの勲章を身に着け、燃えるような朱色の軍服を身にまとっている、ダンディな中年男だった。

「バーミリオン将軍さま……!やっぱり、今日も素敵だわぁ」

 隣では、チェルシーが、恋する乙女のようにうっとりした表情で見つめている。ていうか、あなた、さっきから様子がおかしいよ?どうしちゃったんだろう。こっそり変なものでも食べたかしら。

「おまえたち、全員、そこに並べーーーッ!!」

 バーミリオン将軍の合図で、わたしたち王妃候補は、とりあえず1列になるようにと並ばされる。軍隊の経験などないはずなのに、自然と身体が従ってしまう。将軍は、1列に並んだわたしたちを見ると、深く溜息を吐いた。

「なんだ、その並び順は……まったく美しくない!やり直しッ!登録された名簿順に並び直せッッ!!」

 名簿順……?と考えて、ふと、思い立つ。

 そういえば『召喚状』には、フルネームとともに、番号が振られていた。わたしの番号は、年齢の数字と同じ、19番。なんの番号かと思ったけれど、そうか、名簿順か。


「では、1番から順に、簡単な自己紹介をしろ」


「はい」

 一番右端にいた、チョコレート色のベルトにミントグリーンのマーメイドドレスを身にまとった少女が一歩前へ出た。

「……1番、ソルベ・アブソリュート(Absolute, Sorbet)。アブソリュート男爵の娘で、父は王立物理学研究所の所長をしております」

 ソルベ――先程の推し活令嬢たちの中にはいなかった顔だ。涼しげな目元に小ぶりな唇が、妙に大人っぽい。もしかしたら年上かも、と思っていたら、あっさりと期待を裏切られた。

としは16歳です。以上」

 と、年下……!?

 しかも、16歳といったら、ラルゴやリリコと同い年ではないか。待って。ほんとに16歳?

「次!」

「はーいっ!」

 その隣にいた、小柄な少女が一歩前へ出る。

 あ。

 この少女は……。

「第1回!シュピール王国第十七代国王妃選定試験~ッ!」

 そこまで言って、彼女は左隣の、ソルベとはまた別の少女に目配せをする。指名された彼女は嫌そうな雰囲気を隠そうともせずに「選定試験~」とオウム返しにした。

 小柄な少女は、ふたたび前を向いて、元気いっぱいに言い放つ。

「イエーイ!フゥー!!」

 何が楽しいのか、ひとりで盛り上がっている……。

 やがて、ひとりでは虚しいと感じたのか、ふたたび左隣の少女に絡み始めた。

「ねえ、あなたも、テンションあげなさいよ。わたしばっかり、バカみたいじゃない」

「はぁ!?」

 うん。わかる。至って当然の反応だ。

 しかし、小柄な少女は自分のペースを崩そうとはせず、つらつらと口上を述べ始めた。

「OK!西の外れのオスカーク領よりまいりました……名簿番号2番、ベリー牧場を営む牧場主の次女、14歳、カウラ・ベリー(Berry, Cowra)」

 カウラは言葉を切り、左隣の少女を見る。

「と?」

 左隣の少女が、渋々といった感じで一歩前に出た。

「……名簿番号3番、デイジー・カレンデュラ(Calendula, Daisy)、男爵家長女、21歳」

 デイジー。スラリと伸びた長い手足。そうだ、ついさっき、カウラに絡んでいた美脚自慢の令嬢だ。

「二人合わせて、デコボココンビです……これでいい?」

 デイジーが言うと、カウラは満足そうに頬を緩める。

「今日は、わたしたちの名前だけでも覚えて帰ってくださいねーっ」

 誰に言ってるのよ、まったく。

 デイジーはデイジーで、イライラしたように足を踏み鳴らしながら、大臣に向かって訊いた。

「……あの。この試験、何時に終わりますか?トレーニングの時間があるんで、巻き目で進行お願いします」

 この期に及んでトレーニングかよ!?

 余程、美脚に人生かけてるんだなぁと思っていたら、その次、サンゴのような淡いピンク色のドレスを着た少女が一歩前に出て挨拶をした。

「うふふ。4番、オクト・コーラル(Coral, Octo)と申しますです。男爵の娘ですー。歳は、17歳になりますですー。普段は海辺にあるお屋敷に住んでいますけど、本当のお城は、海の底にあるんですよう?もちろん、タコさんたちと一緒に!!」

 オクトがそう言った瞬間、並んだ令嬢たちの隙間から、にゅるっとブリキの人工腕が伸びるのが見えた。あ。さっきの8本腕!

「5番、フォルサ・ド・アルセ――」

「……フォルサ殿(Falsa)」

 ピシャリと、大臣の声が響く。またこの女か。

「コホン。わたくしの名はフォルサ。アルセーヌ大公国から参りましたの。王女ですわ!」

「歳は?」

「んまあ、レディに向かって何を……まあ、いいでしょう。教えて差し上げましょう。18歳ですわ」

 そんなにもったいぶって言うセリフか。

「なんだか胡散臭いお姫さまね?アルセーヌ大公国なんて地名も聞いたことないし……」

 チェルシーが言う。博識な彼女のことだから、その彼女が知らないということは、もしかしたら、地図にも乗らないような極小国なのかもしれない。それでいてあの態度。どっちが『井の中の蛙』かわからなくて笑ってしまう。

「ねえねえ、それって、本物のアメジスト?随分と大きな宝石ですー!」

 オクトが目を輝かせると、フォルサは、くるりと振り向いてキッと睨みつけた。

「アメジストですって?ご冗談を。これはパープルサファイアですわ!」

 パープルサファイア?

「サファイアは、あのダイヤモンドに次ぐ硬度を持つ『コランダム』という鉱物ですのよ。よくご覧になって?透き通るような、鮮やかな赤紫色をしておりますでしょう?価値だって、アメジストなんていう安物とは比べ物にならないくらいお高いんですのよ?」

 フォルサは、ふわりと見せつけるようにドレスの裾をひるがえしたかと思うと、片手に持った扇で優雅にあおぎ始めた。

「姫さまなら、当然ですわ~~!!」

 これまた絶妙な合いの手が入る。一体誰なのだろうと思っていたら、フォルサが自分の国から連れてきた侍女らしい。王女という立場上、侍女もなしで外国を旅するなんてことは『ありえない』ようで、それは、この国の人たちも重々承知していた。

「侍女のミミですわ。以後、お見知りおきを」

 ミミが下がり、隣の少女が前へ出る。次は、フォルサよりもだいぶ質素なドレスに身を包んだ、背の高い少女だった。

「6番、フィナ・フィッシャーマン(Fisherman, Fina)。23歳よ。平民としての参加だけれど、さかなを愛し、さかなに愛されている自覚だけは誰にも負けないわ!いつかは父のような漁師になることが夢なの。さかなだってさばけるんだから!!」

 ん?

 それって……端から王妃にはなるつもりはないってこと?それとも、王妃の座を狙いながら、漁師も目指しているの?兼業漁師的な?

 フィナが下がって、次の少女が一歩前に出ると、その厳かな雰囲気に、一瞬にして場が凍りつくような感覚を覚えた。氷。氷だ。

「……くだらないわ」

 少女は、熱弁をふるったフィナを、そしてほかの候補者たちをぐるりと見渡しながら言う。

 プラチナブロンドの髪に、透けるように白い肌。雪のような純白のドレスが、異質すぎるほどに彼女の美しさを引き立てていた。一体、何者……?

「さすが、グレイシア嬢。やはり、信用できるのはあなただけですね」

 大臣が言う。

「7番、ブランシェ・グレイシア(Glacier, Blanche)、22歳、侯爵の娘よ」

 侯爵といえば、マゼンタの公爵家より下で、チェルシーの伯爵家より上ということか。

「次!」

「8番、17歳、158センチ。体重……は秘密です」

 ん?

「8番、名前を!」

 苛立ったように、将軍が言う。

 少女は言った。

「――はじめてっ!!」

 いや、それ、絶対名前じゃないでしょう!?

 て、いうか、あれだ。

 とある規律正しい音楽学校の入学試験で見るやつだ、これ。

 大臣が、眉間にしわを寄せながら呟いた。

「……不条理だ」

 将軍は声を張り上げて、もう一度言う。

「8番、名前を!」

「あぁあ〜〜……わたしの〜名前は〜、そう!カペル・ゴート(Goat, Caper)男爵の娘っ!ゴート男爵令嬢よ〜〜〜♪」

 なぜか、歌いながら答えるカペル。リリコもなかなかの声の持ち主だったけど、彼女はそれ以上だった。

「王宮聖歌隊所属なの〜〜〜♪」

 なるほど。聖歌隊仕込か。道理でうまいはずだ。

 まあ、だからといって、王妃選定試験が始まるときにまでミュージカル調を持ち込まなくてもいいと思うけど……。

「次、9番は……」

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