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嫁に浮気されたら、大学時代に戻ってきました!  作者: 万和彁了
シーズン・4 混ざる世界と交わらないキミたち

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第90話 たまには火花を散らすのもいいよね!

 季節は夏に差し掛かっていた。蒸し暑さと講義棟の中の涼しさ。そして長期休みが刻一刻と近づいてくる空気感に浮足立つ学生たち。まさに学生の夏って感じである。


「ねぇねぇ常盤くん。このレポートの内容でいいかな?」


 駒場の図書館で俺と五十嵐は建築学の課題に取り組んでいた。近代建築のデザインについていろいろと論じるレポートはなかなかやりがいがある。俺はノリに乗ってレポートを書いていた。気がついたら規定枚数をはるかにオーバーしてしまいなくなく削る作業をやるはめになってしまった。


「うん?どれどれ?」


 五十嵐は俺にレポート用紙を差し出してきた。規定枚数ギリギリでそのうえなんと…。


「お前今の時代手書きなの?」


「え?だめ?その方が気持ち伝わると思うんだけど」


「その発想がなぁ…悪いけどダメかなぁ…気持ちじゃなくて課題について論じたものを伝えるんだから」


「えー。うーん。なんかレポートには慣れないかな。読書感想文みたいなもんじゃないのかな?違うの?」


「全然違うからな。まったくもう。いいか。まずはここのパラグラフだけど…」


 俺は五十嵐のレポートに赤ペンでツッコミを入れまくっていく。五十嵐はそのたびに顔をどんどん青くしていく。


「うう…私のレポートが真っ赤っかだぁ…ひどい…常盤くんのおにぃ…!」


 ぶー垂れた顔で俺の方をにらむ五十嵐だったが全然怖くなかった。むしろ可愛いと思えるようなものだった。こうやって二人でレポート課題に取り組むなんて思わなかった。前の世界じゃ大学内ではほぼ喋らなかったわけだし。不思議な気持ちだ。弾けて遊ぶことも大学生活だろうけど、こういう何気ない空間を共に過ごすことも大切な瞬間なんだ。今は不思議とそう思える。そして課題が終わったころには夕飯の時間になっていた。俺たちは自然と学食に向かった。夕飯の乗ったプレートを席まで運んで、向かい合って座る。


「大学入るまではこんな時間まで学校には残ってなかったのに、気がついたら慣れちゃった。不思議だよね。あれなんでしょ?四年生とかはキャンパスに泊まりこんだりするって話も聞いたけど」


「そういう人もいるみたいだね。俺は遠慮したいけどね。キャンパスの中は暗いしなんかおっかない」


「確かにそうだよね。夜の学校はちょっとこわいよね。うふふ」


「うそつけ。ホラーなんてちっとも怖がらないくせに」


「あはは。まあそうだね。あれ?ホラーが大丈夫って私言ったっけ?」


 あっと。久しぶりにやらかした。ホラー映画を一緒に見た前の世界のことを思い出してポロリと口にしてしまった。


「いや。なんとなくそう思っただけ」


「ふーん。そう?でも本当は怖がるタイプだとは思わない?私だって女の子だし」


 なんか不思議とこの話題に食いついてくる。そのときふっと気がついた。学食に置いてあるテレビをたまに五十嵐がチラ見していることに。俺もテレビに目を向ける。するとそこには。


『最強にして最狂にして最興にして最怖なホラーがいまここに誕生した!!あまりにもリアルな恐怖にあなたは絶対に耐えられない!!極上のお化け屋敷が君を待っている!!!富士興ウルトラランドに遊びに行こう!!』


 富士興ウルトラランド。富士山の近くにあるガチな遊園地だ。めちゃくちゃ早いジェットコースターとかめちゃくちゃ高いぶらんことか、そういうモノしかない遊園地である。


「私が本当に怖がらないか試してみたくない…?」


 どこか挑発的で甘い声で俺に問いかける。思わずドギマギしてしまう。これってつまり。


「常盤くん車持ってるんでしょ?」


「そうだね。うん。持ってる」


「私はあの遊園地にいったことないんだ。常盤くんは?」


「行ったことないね」


 前の世界でも行ったことはない。富士の樹海に男連れでそいつにブランコさせに行ったことならあるけど。あの時は大変だったな…てか富士山に碌な思い出がねぇ!これは上書きしないとだめかもしれないね。


「友達から聞いたけど日帰りで行けるんだって」


「そっか。それはいいね。うん。…行っちゃう?」


 俺は少し勇気を奮って五十嵐を誘ってみた。すると彼女は満面の笑みで頷いてくれた。女の子と二人で遊園地!なんかすごくドキドキしてきた!それは五十嵐も同じだったようで、どことなく俯きながら頬を赤らめてもじもじしているように見えた。俺たちの間にふわっとしてそれでいて曖昧で甘ったるい空気が流れた。そこはかとなく座りが悪い気がした。そんな時だ。


「あっ。綾城さん…」


 五十嵐がそうつぶやいたので、俺は後ろに振り向いた。するとそこには大人しそうな男女と一緒に食事の乗るプレートを持っている綾城がいた。


「あらあら。これはこれは…でもちょうどいいわね」


 綾城が一緒にいた連中を連れて、俺たちのいるテーブルについた。綾城が当然のように俺の隣に座り、一瞬五十嵐が渋そうな顔をしたが、綾城はにやにやした顔でそれを受け流していた。


「やあ綾城。そっちの方々は?」


「教育サークルの仲間よ。みんな紹介するわ。この反社面した男が例の常盤カナタよ」


「いや、カナタは綽名だからね。どう噂されてるのか知らないけど、常盤奏久です。よろしく」


 俺は軽く会釈をする。向こうの連中も気軽に会釈を返してくれた。


「で、ところでなんだけども。あんた明日の放課後暇でしょ?暇でなくても暇にしなさい」


「まあ特に予定はないけど。どうして?」


「うちの教育サークルが明日土曜日ボランティアをやるわ。あんた英語はできるでしょ?あとあたしが教えたスペイン語も」


 綾城からは最近スペイン語を強制的に教わっていた。旅行なら困らないくらいには話せるくらいにはマスターできている。


「まあできるけど。英語でも中高生に教えるの?」


「教えるのは英語じゃないわ。……まあ、できれば協力して頂戴。お願いよ」


 綾城はテーブルの下で、俺の手に彼女の手を重ねてきた。綾城は珍しく不安げというか悲し気な目をしている。どうやらこのお願い、ガチなやつらしい。


「わかった。いいよ」


「ありがとう常盤。というわけで、ピンチヒッターは確保できました。これでクオリティの高い授業ができるでしょう。できれば明日の成果でもって補助金の獲得ができるように頑張りましょう!!」


 綾城は立ち上がってサークルメンバーに向かって、そう力強く語りかけた。みんなは士気の高さそうな顔でしきりに頷いた。


「どういうこと?いったいなんなの?ねぇ綾城さん!私も英語できるよ!それに明日は暇だよ!」

 

 五十嵐が綾城にアピールをし始める。だけど明日は五十嵐は部活の日のはずだ。


「あら?そういえばそうね。それに度胸もあるし…見栄えもいいわね…ありね」


 綾城は少し考え込んでいたが、親指を立てた。


「いいわよ。あなたも参加して頂戴!うふふ。これはいろんな意味で面白くなってきたわね」


 何かよくわからないが、綾城が企画したなにかのボランティア活動に参加させられることが決まった。しかも補助金って言葉にすごく緊張感を覚える。これってガチで真面目なイベントっぽいな。気を引き締めよう。なにせ五十嵐というド級の爆弾娘が参加するのだ。覚悟はあるだけしておいた方がいいに決まっているそう思ったのだった。





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