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嫁に浮気されたら、大学時代に戻ってきました!  作者: 万和彁了
シーズン・3 願いと祈りと分かち合いと

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第87話 番外編 同伴デートinキャンパス・前

 同伴なんて言葉があるそうだ。それはいわゆるお店の女の子と営業時間前にご飯なんかを食べてから一緒にお店に行くなんていう行為を指すそうだ。レンタル彼女と考えればわかりやすいのかもしれない。ぶっちゃけそういうのを前の世界も今の世界も利用したことないので、若干緊張してる。今日はその同伴デートの日である。俺は待ち合わせ場所である本郷キャンパス近くの喫茶店にやってきた。約束の時間の10分前にはたどり着いた。そしたらすでに喫茶店の中にスオウさんがいた。携帯ゲーム機を持っている。画面を緑色の綺麗な瞳でじーっと見ながら、真剣な表情でプレイしている。カウンターでコーヒーを頼み、カップをトレーに乗せて彼女の席に近づく。そして俺は気配と足音を消して彼女の前に座った。そのまま気配を消し続けて俺は彼女がゲームをする顔をコーヒーを見ながら眺めていた。とても美しい顔をしている。夜の街で見たときは大人の艶めいた色気に満ちていたのに、今は逆にまるで子供のような幼げな愛らしさを感じる。若いと思っていたけど、もしかすると俺よりも若いのかもしれない。そして約束の時間になって。彼女はゲームの電源を落として、それをバックにしまった。そして目の前にいた俺のことを見て、目を見開いた。


「イつの間にそこに?!」


「ちょっとまえくらいからかな」


 スオウは怪訝な顔をして小さな声で呟く。


「気配を感じさせなかった?このワタシに?」


 俺をまるで不審者を見るかのような目で見てくるので、誤魔化そうと思い、おしゃべりの話題を出す。


「ずいぶん真剣な顔をしてゲームしてたね?好きなのかな?どんなジャンルが好み?」


「……エエ。ゲームは好きです。とくにRPGが好きです。かッこイイ主人公がヒロインヲ助けるのヲ見ると嬉しくなれますから」


 スオウは最初は警戒している感じだったが、ちゃんと質問に答えてくれた。


「そうなんだ。なんか意外だね。君はあの店でも人気ものだし、趣味はワインとかヨガとかそんなんだと思ってたよ。くくく」


「ふふふ。確かにそうイウ子もイます。でも店ヲ出れば大抵の子は普通の女の子に戻りますよ。ワタシもそウ。…そウ…普通の女なンです…」


 夜の街で優雅に舞う女たちも昼間は普通らしい。まあ、今ここにいるスオウさんには昼間のデート代も払ってるからここでは仕事モードでいるんだろうけどね!


「じゃあ行こうか」


「はイ。今日はよろしくオ願イします」


 今日の同伴デート。どこへ行くかかなり迷った。スオウという女が結局何が好きなのか、俺にはわからない。だってこの間は俺がずーっと喋りっぱなしだったわけだしね!だけどこの間弟を大学に入れたいなんて言っていたし、この際俺が得意なフィールドに連れ込んでしまうというのはどうだろうと思ったのだ。


『俺の通ってる大学に来てみない?』


 そう直球で誘ってみたら、あっさりとOKだった。そしてちょっと通りを歩いて、俺たちは皇都大学本郷キャンパスにたどり着いた。通ってるみんなは大好き、通ってないみんなは大嫌いな、通称『赫門(アカモン)』。それを見てスオウは目を丸くしていた。


「エ?ウそ?アなたの通ッてるのッて皇都大学なンですか?」


「そやで!ドヤァあああああ!」


 日本最大のマウントとは『赫門(アカモン)』に他ならない。大抵の場合合コンで『俺の大学って門が赤いんだぜ!』って通っている大学のヒントを出して女子に当てさせたがる奴はコーダイ生と相場が決まっているのである。


「本当に頭よかッたンですね!オ兄さんすごいです!」


 スオウさんがなんかキラキラした瞳で俺のことを見詰めてくれている。き、気持ちいい!周りは同じ大学の女子ばかりなので、大学名だけで褒めてくれるとかまずありえない。受験戦争頑張ってよかった。はじめて報われたような気がするよ。


「それほどでもあるぜ。さて、色々見学していこうか」


「はイ!楽しみです!」


 嘘臭さがない笑みをスオウは浮かべている。なんか本気で楽しそうな顔してるように見えた。まずはキャンパス内を適当に歩き回ることにした。


「ここら辺は文系学部が固まってるね」


「へー。そウなンですか。なんか建物が歴史アる落ち着いた感じでイイですね」

 

「そうだね。ここら辺の建物はかっこいいんだよね。やっぱりなんというか、ザ・大学って感じがあって趣深さがあるんだ」


 ふっと思いついたことがあったので、俺はスオウの手を引っ張って建物の中に連れ込む。そして空き教室を見つけてそこへ彼女を入れた。


「きゃ!すごい!すごい!広イし席が段々になッてる!」


 スオウは満面の笑みを浮かべて、黒板の方へ寄っていった。前に行われたであろう授業の板書がうっすらと残っていた。それをとても楽しそうにスオウは読んでいる。だからだろう。俺は少しふざけて見たくなった。


「はい!出席を取るよ!座って座って!」


 俺は教壇に立って、スオウにそう言う。するとスオウははっとしてすぐに最前列の席に座った。どことなく緊張しているような、だけど幸せそうな笑みを浮かべている。この子は本当に勉強が好きなんだ。そう思った。


「ではこれからぁ!ごほん!建築の文化論。都市構造とデザイン象徴解析学講座をはじめる!」


「よろしくオ願イします!!」


 俺はチョークを手に取って、黒板に本日の授業のタイトルを書く。わりと大学で建築を教えることにも憧れはある。教授になったつもりで、俺はガチで授業を開始した。


「すなわち!建築の中にはその建築を作ろうとしたものイデア、アイディア、イデオロギーが象徴的モチーフを取りながら…!」


 俺が建築について熱く語ると、スオウから同じくらいの熱量の質問や議論が返ってきた。


「はイ!先生!つまりモチーフの裏側にあるパッションが他者との間にセッションをおこしてそれがミッションとしての建築という文化行為そのものを現していて…!」


 大学とはかくあるべしだと思う。教授が授業し、学生はそれを聞いて自分で考えて討論し、議論し、考察を深めて、一歩一歩真理へと近づいていく。この世界の謎には果てがない。大学とはその謎へ挑む最前線。スオウとすごす授業ごっこは俺にとってとてもスリリングな時間でありとても楽しかった。だからいつぞや綾城が語っていたことを俺は思い出した。才があっても教育を受けられない人がいると。スオウは地頭がすごくいい。彼女のような人間こそ本来ならば大学に行くべきだ。なのに本人は大学へ行っている様子はない。弟さんを大学に送りたいと言っていた。それは嘘ではないような気がする。金がなくて進学できないという現実は日本でもよくあることなのかもしれない。俺なんかは実家が太いし、モチベーションに恵まれていたから大学へ行けた。だけどスオウはやる気があっても大学にはおそらく行けないような境遇なのだろう。憐れむというのは上から目線だろうか。だけど言えることが一つあった。スオウに対して俺は悲しみを覚えてしまうのだ。今だって彼女は俺から金を受け取るためにデートに応じているわけで。そこには理不尽しかないんだと俺は思った。せめていっぱい貢がなきゃ。俺はそう思ったのだった。








 授業ごっこが終わって、おなかが減った俺たちは学食にやってきた。この本郷キャンパスのシンボルともいえる講義棟の地下にある学食に俺たちはやってきた。


「好きな物頼みなよ」


「そウですねー。これがイイです!」


 スオウはどこの学食にでもありそうなコロッケ定食を選んだ。財布に優しいというよりは、きっと普通の大学生が食べているものを食べたかったのだろうと思う。俺は自分の分の焼肉定食を選んだ。そして二人でカウンターに並ぶ。


「本当に学食ッてみンなで食券持ッて並ンでカウンターから出てくるンですね!」


 大学生にとっては当たり前の風景だけど、スオウにとっては新鮮らしい。すごくワクワクしたような笑顔で楽しそうに食券を握っている。なんだろう。この健気さ…!もっと貢がなきゃな!そして定食を受け取って、テーブルに座る。食べる前に俺はバックから赤いパッケージの缶を取り出す。そしてそれをスオウに渡した。


「ン?なンですかこれ?」


「え?何って…ガラナジュースだけど。好きだって聞いたから差し入れ」


「エ?これが?缶が赤いのに?アッ、本当にガラナッて書イてある…」


 スオウはガラナジュースの缶を興味深げに見ている。あれ?おかしいな?俺が渡したのは北海道だとメジャーなガラナジュースの缶だ。北海道で売っているガラナジュースはたいていの場合、赤いパッケージが中心となっている。それを知らない?どういうことだ?スオウは缶を開けて口をつける。そしてちょっと飲んだあとに、懐かし気な笑みを浮かべて呟いた。


「アア、確かにガラナですね。美味しい。でも緑じゃなイガラナの缶がアるンですね。知らなかッた」


 緑のガラナ缶?俺は逆に首を傾げてしまった。北海道ではガラナは一種の文化になっている。メジャーなメーカーからは赤を中心にしたパッケージで売られているが、ご当地ガラナジュースもあって、それは様々な色のパッケージで売られているのは記憶にある。ただそれはあんまりメジャーではないというか北海道でもかなりローカルなはず。スオウってどこの出身なんだ?謎が深まってしまった。まあここら辺を聞いたところで答えてはくれないだろうから今は置いておこう。俺たちは適当にお喋りしながらランチを楽しんだのだった。





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