第49話 摩天楼の邂逅
キリンさんに連れられてパーティー会場のあるフロアにやってきた。名だたる大企業のオフィスのある中層からさらに上にある高僧フロアがその会場だった。
「すごいねー。ここあれだよ!あれ!お金持ちのお家だ!その部屋を使ってるんだ!すごい!すごい!きゃー!」
「上級国民様の住処ですか。てかこういうとこでパーティーやってんだ…。世界は広い…!」
ここはお金持ちの住むフロアになっているようだ。そのうちの一部を会場にしているようだ。半端ない。そしてキリンさんのお友達の受付係が俺たちの事をタダで通してくれた。その先の風景は圧巻だった。
「ふぁ…ステキ…」
キリンさんが感嘆の声を出した。広いフロアは多くの人で賑わっている。そして高い天井と壁一面がガラス張りになっていて、東京の摩天楼の明かりが延々と広がって見える。
「とりあえずセルフィ―します?」
「します!しまくります!ハリウッドくん!一緒に撮ろう!」
俺とキリンさんはガラス張りの壁を背にセルフィ―を撮りまくった。
「いい感じだね!あとでアップしよう。東京摩天楼withカルテルのボスみたいな?」
「キリンさん、俺を反社に例えるのはやめて?ね?お願いだからね?ね?」
「えーすごく強そうなのにぃ。さ!芸人さん探しながら、ただ飯ただ酒たかろうよ!」
キリンさんに引っ張られるままに、バーカウンターから適当にカクテルを貰い、テーブルから肉とかサラダとかを取ってきた。立食形式の適当なテーブルについて、それらを並べていただきますした。
「凄く美味い!ただでいいのこれ?」
「ほんとおいしい!いままで色んなパーティー出入りしてきたけど、此処まで美味しい御飯ははじめてだよぅ!」
満面の笑みになるキリンさんがとても可愛く見えた。合コン後にこうやって打ち上げするのも悪くないって思った。
「ねぇねぇハリウッドくんはカノジョいるの?」
「いませんよ」
「そうなんだーねぇねぇ。もしかしてハリウッドくんって、なんか恋愛とか苦手なの?」
ゆるふわボイスなのに、俺の弱点みたいなところを刺してきた。
「あれだよね。ハリウッドくん女の子の事、あんまり信用してないよね。なのに軽蔑してるでもない。不思議。まだ若いのになんでか既婚者みたいな落ち着きもあるし」
「そうですね。…そうかも知れません。信じたいのかも。だけど…まだ無理そう」
「なら遊べばいいのに。責任なんて取らなくていい軽い子なんていっぱいいるよ。私みたいな。ふふふ」
キリンさんの瞳はどことなく妖しく輝いているように見えた。悪い道へ人を突き落としたがってる魔女みたいな。
「キリンさんは…なんでそんなにフワフワなんですか?ほんとはしっかり者で面倒見もとてもいいのに。後輩さんたちあなたのこと慕ってましたよね」
この人と出会ったのはケーカイ先輩がこの人をお持ち帰りしてきたからだ。考えてみたらひどい出会いだ。ビッチの称号が良く似合う。そういう子って大抵同じ女にひどく嫌われがちなのに、この人は後輩にすごく慕われていた。なんかつじつまが合わない。
「いやー流石コーダイ生だねー。ろんりてきかつろじかるに人の事を分析しちゃうんだね。あはは!私はそんなに深い人間じゃないよ。むしろすごく浅いよ。あさましすぎるくらいにはね」
濡れたカクテルグラスの淵を人差し指でキリンさんはこすっている。キーンと綺麗な音がグラスから響いて、彼女は笑った。
「知らなくていいことを知ると、人はおバカなことをして他人を傷つけるんだよ。とくに恋愛はそう。私は人を傷つけるのはいや。フワフワしていたい。軽ければ誰も傷つかない。そうでしょ?」
その話を聞いて思い出したの前の世界の俺と五十嵐の末路。
「…だけど傷ついたってことは、同じくらいその人の事を好きだってことですよね。その傷が無きゃ人を好きになって言えない」
「その傷がとっても痛くても?」
「ええ。痛くても…忘れられない。…まあどうにもできませんけど。その傷を舐めることくらいはできますよ」
「…そう。やっぱり変な男の子なんだね。いっそどれくらい変か試してみたいよ!そうだ!ケーくんとどっちがエッチうまくて変なプレイできるか試してみない?!あはは!」
「いやーあの人と穴兄弟はなんかいやだなぁ。ははは!」
流石に駒場キャンパスの時計塔でプレイするような人と穴兄弟はいやです。知ってるか?あの時計塔は全国の受験生の憧れなんだぜ?そう考えるとマジで冒涜的だな。飯を食べながら俺たちはお喋りを続ける。時たま近くを有名スポーツ選手とかが通ったりした。一緒に写真撮ってもらってすげぇ嬉しかった。だけど。
「個人的にはサッカー選手よりも野球選手の方が体の相性はいいかな?やっぱりバットを普段から振ってるからね。あっちのバットもすごいよ!」
「はは!エグイー!男の子のハートが傷つく―!」
さらには最近売り出し中の芸人さんも通りかかったので、一緒に写真を撮ってもらった。あと一月くらいでブレイクするその若手芸人さんは一緒に写真映ってくれた俺たちに逆に感謝してた。あとでSNSにアップして、『俺はこの人売れるって思ってたんだよねぇー』ってドヤ顔してやるんだ。
「私の持論だけど、バンドマンとのエッチは中毒性が高いんだよね。ライブ後にヤるとすごく燃える。で逆に芸人さんとのエッチはアレだね。なんか癒し系。和む」
「その感想、俺が聞いてもどうしようもないんですけど!ていうか女の人ってテクより愛とかじゃないんですか?」
「愛より雰囲気だね。エッチの良し悪しはね。私はそう思ってる。あとミュージカル俳優がいいよ!出待ち後にエッチするの!バックされながら耳元で囁かれるとそれだけでイケる!」
「雰囲気かぁ…ところであいつら大丈夫かな?ちゃんとそういう雰囲気作れるかな?」
「大丈夫大丈!処女童貞カップルでも平気平気!今度私が女子ーズたちには男の子からエッチを誘いたくなるような雰囲気づくりの方法をれくちゃーしておくから!GWが勝負だね!」
「あいつらが童貞卒業するのかぁ…よりウザさが増しそうだなぁ…」
数学絡めた下ネタ言ってきそうですごくヤダなぁ。そんなしょうもない未来を想像していた時だ。俺たちの横を二人の女がすれ違った。
「今度はあの野球選手さんたちとお話しない?一緒に写真撮ったら、絶対に皆に自慢できるんだけど!」
この声はよく知っている。自称サバサバ真柴の声だ。
「興味なイ。一人で行け。ワタシはタダで御飯が食べられるから来ただけだ。男と仕事以外で話す気はなイ」
向こうに気づかれないように、真柴の方を伺うと、隣にいたのは黒い髪に緑色の瞳の美女。あの日新宿で見たホステスだった。
「えーお願い!話しかけるの手伝ってよ!こういう場にはウチ慣れてないんだよぅ!」
「サバサバしていると自称しているのに、ワタシに頼るのか?スカート短くして媚びを売れば男なンて簡単に女に靡くぞ」
「そういうのじゃなくて!こうスマートに上手く繋がる感じがいいんだけど!ねぇお願い!また仕事の依頼があなたに入るようにひろに口添えするから!」
「…わかッた。恩を売ッてやる。アりがたく思エ」
女たちは近くにいた有名役者たちに近づく。黒髪に緑色の瞳の女はとても妖艶な笑顔を浮かべて、野球選手たちのグループに声をかけた。その笑顔に魅了された選手たちは女たちを丁重に輪の中に加えた。お喋りの中心は黒髪の女のようだ。凄く上手に選手たちの心をくすぐっているのがわかる。
「ほぇ。あの黒髪の子すごく美人だね!…ってどうしたの?なんか怖いよ顔」
キリンさんは俺の顔を見て、燻しがっている。ここに真柴がいる。その事実が俺に一つの可能性を想起させた。俺はフロアをあちらこちら見渡す。端の方にステップフロアがあった。そこには壁際にカウンターテーブルが設けられており、椅子に座り、摩天楼を眺めながらおしゃべりに興じる男女がいた。その女の方の髪の色は、灰が烟るような茶髪。よく知っているシンデレラの色!
「あっ!ちょっと!どこ行くの!」
キリンさんの声が後ろから響いてくるけど、俺は構わずそのステップフロアの方に向かう。その男女は楽し気に話していた。女はカウンターの上に左手を置いていた。その左手の上には、今は何も乗っていない。だが。男の右手が伸びていき、その上に今にも重なろうとしていた。だから俺は。
「やめろ。重ねるな」
男の手が女の手に重なる前に、俺は男の手首を掴んで止めた。俺に捕まれた男は酷く驚いた顔で俺を見上げている。
「常盤奏久?!なんでここに?!」
「それは俺のセリフだ。行く先々に出てきやがって、この野郎!お前は俺のストーカーかなんかなのか?葉桐くぅううん!」
そこにいたのはやはり葉桐だった。そしてその隣にいる女は五十嵐だった。いつもの如く、俺たちはまたも遭遇してしまったのだった。




