第152話 カクヨムコン9特別賞受賞記念SS ヨメウワ・シーズン0
ヨメウワ・シーズン0
『灰被りの女神と円卓内戦』
今宵はようこそお越しいただきました。
ボクは語り部を務めさせていただきます、アルルカン・阿国。
時はすでに巻き戻りこの物語は”なかったこと”となってしまいましたが、是非ともその断片を楽しんでいただけるのであれば幸いであります。
では語らせてください。
何者でもなかった彼が女神に愛されて王になる悲劇の物語を。
/*これは彼が絶対主権を総覧し、かつての王にして未来の王になるまでの物語。
それは彼女の元カレたちが円卓の騎士として玉座を簒奪しに来る物語。
そして最後に必ずシンデレラが破滅する物語。*/
俺が理織世と付き合えたのは奇跡だったと思う。偶然飲み屋で合コン中の彼女を見つけて、何も考えずに彼女の手を引っ張ったことから始まったんだ。
大学を卒業以来久しぶりに彼女を見て俺は思わずその手を取って走った。ただ無我夢中で何も考えずに。
「ねぇ…どこまで行くつもり?」
「え?あ?!ご、ごめん!」
俺は彼女の手を放した。飲み屋から二人で飛び出して気がついたら代々木公園までやってきていた。
「久しぶりにヒールで走ったから疲れちゃった」
彼女はそう言って近くのベンチに座る。
「あなたも座ったら」
何の表情も伺えないお澄まし顔で彼女はそう言った。俺はその言葉に甘えて彼女の隣に少し離れて座る。
「男の人って私が隣に座っていいよって言ったらだいたいベタベタ触れそうなところに座りたがるのに。あなた変わってるね」
「え…。いや…別にそんなことは」
俺はドギマギしていた。何も考えずに連れ出した。だから会話の準備なんてない。女性とお付き合いしたこともないのでどんな話題を選んでいいかもわからない。
「なんで私を連れ出したの?」
彼女は俺のことをじっと見ている。灰色がかった瞳はどこか冷たい印象を覚える。だけど何にも変えられないほどに美しい。
「あ、あの…その…。久しぶりに会って。それで…その…」
「久しぶり?…え?あなたとどこかであったことあったかな?」
「お、同じ大学だし、同じ学科だった!」
俺がそう言っても彼女はまだ不思議そうにしていた。俺は彼女の視界に入っていなかった。そんなことはわかっているけど、それでも辛い。
「そうだったんだ。ふーん」
彼女はヒールをつま先に引っかけてひらひらと動かしている。退屈そうに見えた。こういう時は何か小粋なトークとかをしなきゃ?!
「そ、そう言えばフラミンゴも両足で立つらしいよ!」
「そう」
そこで話は止まった。気まずい沈黙が俺を覆い包む。だからだろうか彼女はバックを漁り始める。そして平たい瓶のようなものを取り出して蓋を開けて口をつけた。
「なにそれ?」
「知らない?スキットルだよ。なんか緊張してるみたいだし、あなたも飲む?」
そう言って彼女はスキットルを俺の方に差し出してきた。これって間接キスってやつじゃ?!恐る恐るスキットルを受け取って俺はそれに口をつけて中の物を飲む。
「ぶほぉ!!なにこれ?!」
喉が焼けるようなヒリヒリさを感じた。
「なにって。スピリタスだよ。すぐ酔えるからコスパいいんだ」
いやいやコスパなんてレベルじゃないでしょ。その言葉を俺は飲み込んだ。彼女は俺の手からスキットルを取って再びそれをごくごくと飲む。
「ふぅ。夜風は寒いからやっぱりアルコール入れて体温めないとだめだよね」
寒いと彼女は言った。だから俺はジャケットを脱いで彼女の肩にかける。
「へぇ。なんか気障なことするね。うぶい気がしたけど気のせいかな」
まあ童貞だしうぶいと言えばその通りだと思う。
「でも助かったかな。あの芸人さん好みじゃなかったし、素質もなさそうだから時間の無駄だしね。最近ブイブイ言わせてるって聞いたから期待したけどダメだったね」
俺は心のどこかでホッとしていた。合コンの相手は好きではなかったようだ。その時だった。彼女のバックから音が鳴った。彼女はスマホを取り出した。そこには今給黎律希と表示されてた。彼女はすぐに通話ボタンを押した。
「なに?え?でももう話ついたよね?私たち別れたでしょ。ちがうの?でも私アメリカ行くつもりないし。一人で行けばいいじゃない。めんどくさいかな。もう私新しい彼氏できたの。今写真送る」
そう言って彼女は電話を切った。そして俺の肩に手を回して頬にキスをしてきた。そしてそれをスマホで撮った。俺は頭が真っ白だった。そして彼女はその写真をポチポチと操作してトークアプリで送りつけたようだった。
「ごめんね。利用しちゃって。お詫びに帰りのタクシー代くらい出してあげる」
そう言って彼女はベンチから立ち上がる。そして俺に背を向けて歩き出す。俺の心臓は高鳴っていた。離れていく彼女の後姿に絶望を感じた。でも同時に頬にまだ覚える暖かくて甘い感触に希望だって感じたのだ。
「あの!!」
俺が叫ぶと彼女は振り向いた。
「なに?」
「デート!デートしてください!」
「え?」
彼女は少し驚いて首を傾げていた。
「タクシー代なんかいらない!今日の続きが欲しい!だからデートしてください!」
俺はただただ叫ぶ。みっともないしスマートさもないしダサいし情けない。だけど彼女の瞳だけはまっすぐに見つめて。すると彼女は少し目を細めて笑い始める。
「ふふふ。なにそれ。ほんとに変な人。私あなたの名前も覚えてなかった薄情な女だよ?」
「俺はずっと忘れてなかった!だからかまわない!」
そして彼女は優し気に微笑んで。
「いいよ。でも一回だけだよ。変に期待させたくないしね」
その瞬間俺は天にも昇る気持ちだった。
それが俺たちの恋の始まり。そして破滅への始まりでもあったんだ。




