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嫁に浮気されたら、大学時代に戻ってきました!  作者: 万和彁了
シーズン・4  After 『誰よりも輝ける夏』

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第117話 甘い夢

 下北の駅からちょっと歩いたところにスオウを連れてきた。


「学校?」


「そう。ちょっとここに連れてきたかった」


 学校学校の正門の守衛さんに挨拶して、俺たちは中に通してもらう。


「顔パス?どウイウことだ?もしかしてこの学校はカナタの物なのか?」


「そう。オーナーは俺」


「なるほど。ここが漫画でよく見る日本のエリートヤンキー校とイウやつなのか…ほう。興味深い。確かにジャージはよく似合イそウだな!」


「そんなもん育ててないからね!!」


 スオウはニコニコ笑ってるけど、勘違いされるのは困る。反社会的教育なんて行っていません!


「この学校は経営危機にあってね。俺が買い取ったんだ。だけど理事は俺じゃない。綾城がやってる」


「なに?ヒメーナが?」


「綾城にはこの間はずいぶんと助けてもらっちゃったからな。そのお返しにっておねだりされたんだよね。あいつマジで小悪魔だと思うの」


 綾城は前々から自分の学校を創設するのが夢の一つだったそうだ。それを聞かされた上に、胸を人差し指で撫でられながらおねだりされると断れない。そして俺たちがやってきたのは校庭。校舎にはシートがかけてあり現在絶賛増改装中である。ここのデザインはツカサに相談しながら俺がやった。


「スオウ。俺たちってさ、結局のところ勝負自体はケリがつかなかったよね」


「まあ。だがあのままカナタを殺さずに済んで本当に良かったと思っている」


「それだよ!それ!!なんで俺が絶対にスオウに勝てない前提なの!そこすごく納得いってないからね!」


 俺は校庭の端にある倉庫を開けて、中からベースとライン引きを取り出して校庭に野球のベースラインを書いた。


「野球?」


「おうよ。スオウは確かに戦闘に秀でている。凄まじい運動能力の持ち主だ。なら平和的にスポーツで決着をつけようじゃないか!!」


「アア、そウイウことかぁ…男心はなかなか面倒だなァ」


 スオウはどこか遠い目でそう呟いた。ホステスだし男の幼稚なところはよく知っているだろう。俺もその男の一人である。あのままやっても俺は絶対に勝っていた。それをこれから証明するのだ!


「しかし野球か。ワタシは初めてだな」


「へえ。別に他のスポーツでもいいよ」


「イやこれでイイ。そもそもスポーツ全般ヲほぼやッたことがなイ。それにヒカルドは野球をやッてるンだ。応援には何度も言ってるからどんなルールかはわかっているつもりだ」


 スオウはバットをぶんぶんと振り回している。なんか腰が入ってないし、足の踏み込みももたついている感じだけど、逆になんか可愛く見るから不思議だ。


「へぇ弟さん野球なんだ。偏見かもしれないけどサッカーじゃないんだね」


「サッカーはヒカルドには絶対にやらせなイ!ファベーラで仕事もせずにサッカーばかりやッてイるダメな男どもヲ見てワタシはそう神に誓ッたンだ!」


 ブラジル人のサッカー事情もなかなかに複雑らしい。


「さてとはいえ、二人しかいないし、ルールはシンプルにバッティングで決めよう」


「はい!ワタシはピッチャーがしたい!!ヒカルドもピッチャーなんだ」


 スオウは目を輝かせてグローブを取った。俺は残ったバットを取る。


「左様にござるか。まあ俺のヴァットのすごさを見せてやるよ。ふっ!」


 スオウはマウンドに立って、グローブを構える。


「イくぞカナタ!」


「へーい!ばっちこーい!ばっちこーい!」


 ここで一発ホームランをぶちかましてスオウに俺のすごさってやつを刻み付けてやるぜ!そう思いながらバットを構える。スオウはルンルンと笑顔で両手を振りかぶった。ぎこちなくてへっぽこな女の子投げ。始球式ならきっと盛り上がるだろう投法。だけど俺は大人げないので、どんなヘロヘロ玉だってスタンドにぶち込んでやる。


「エイ!」


 スオウが可愛らしい声を上げながらボールを投げた。どうせふんわりとしたかわいいやつでしょって思った。






-----そして俺はバッターを選んだことを後悔したんだ。




 スオウの手からボールが離れた瞬間、それは見えなくなった。そして気がついたときには俺の後ろの金網からがしゃんと音がしたのだ。ボールが金網に食い込んでいた。しかもまだ回転が止まっていない。俺はそれを見てガクプルと震えてしまった。


「ウむ。ギリギリボールか。なかなか難しイな」


 今のってボールなの?!そもそも見えなかったんだけど!?これヤバい!滅茶苦茶ヤバいよ!どうして力の入っていない女の子投げからあんなスーパー剛速球が投げられるんだよ!!


「ス、スオウさん!ちょっと力み過ぎてるよ!力抜いていいよ力抜いて!」


 少しでも速度をおとさせるために俺はそういった。


「む?なるほど。アドバイスアりがとウ。イくぞ!」


 またもふにゃふにゃ投法で振りかぶるスオウだったが、ボールは例によって手から離れた瞬間に見えなくなった。俺は全神経を集中して動体視力を限界まで酷使して、やっとボールの姿を捉えた。


「よりによってど真ん中?!うおおお!」


 超剛速球相手に俺は全力で振りぬく。ボールがバットに当たった瞬間感じたこともないような痺れが両手に走った。まるで地面を叩いたときみたいな衝撃!だけど負けない!


「ああああああああああああああああああああっ!!ふんっ!!」


 俺はバットを振りぬいた。そしてボールはコロコロとスオウの足元に向かって転がっていく。よく見るとボールに亀裂が入っていたし、バットも凹んでいやがった。だけどごろでもヒットはヒットである。俺は負けないと決めているのである。すかさず一塁に向かって俺は走る。


「ふははは!!そこから俺にタッチできるかな!?」


 卑怯極まりない気がするが、それでも勝ちたい!女の子に負けっぱなしでは男の子でいられないのだから。


「おっと!カナタ!ワタシはけっこう足が早いぞ!」


 スオウはゴロを拾って、俺に向かって走り出す。それがマジですさまじく早かった。


「ぎゃあああああ!滅茶苦茶はえぇええ!?」


「アはは!絶対に刺してやるぞ!アはははははは」


 俺を追いかけるスオウの足は滅茶苦茶速かった。あっという間に俺の背中の後ろに追いついてきた。だけど負けない!さらに俺は根性で加速して一塁ベースの上を…踏まずに通過してしまった。


「ああ?!踏み損ねた!」


「アはは!待てー!アははは。とう!」


 そしてスオウは俺の背中に飛びついてきた。俺はバランスを崩しながらもスオウを落とさないようにきちんと背負う。


「捕まエた。ふふ。ちゅ」


 スオウは俺のほっぺにキスをしてきた。その柔らかで気持ちのいい感触を覚えて。なんだ、男はどうせ女には勝てないんだなって悟った。勝敗は俺の圧倒的敗北であった。





 スオウをおんぶしながら、俺は校舎の中を歩く。


「なあヒメーナはここでどんな教育を子供たちに与えたいんだ?」


「綾城はこの間の外国人労働者の子弟相手のようなことを学校単位でやりたいらしい」


「そウか。あれは大変イイものだった。ヒカルドは次のテストでいい点を取れたよ」


 俺のほっぺに頬擦りしながらスオウは言った。


「ワタシたちの立場は不安定だ。法律の問題は仕方がないが、言葉や文化の壁はワタシたちヲ分断して寂しくさせるンだ」


 普通に生きることが彼らにはとても難しい。幼いころに日本に来てここで育ったにもかかわらず、日本社会に受け入れられずはいって行けず孤立する例は多いと綾城は言っていた。


「ヒメーナはワタシたちを本気で包摂したインだな。まるでマリア様みたいだ」


「普段は愉快な奴だけどな。本当にやさしい女の子だね」


 音楽室の前を通りかかったとき、スオウは俺の背中から降りた。


「今ピアノが見エた」


「入ってみる?」


 スオウは頷いた。俺たちは音楽室に入った。スオウは楽し気にピアノを撫でている。


「昔テレビでピアノを見て憧れたことがアる。でもそンなものヲ買う金はファベーラにはなインだ」


「弾いてみるかい?」


 スオウは首を振る。寂しそうに彼女は笑った。


「このピアノはこの学校の生徒たちの物だよ。ワタシが触れてイイものじャなイ」


 俺とスオウは黒板の下の壁にもたれかかって座った。スオウは俺の方に頭を乗せてきた。


「もう大人になってしまったからここには通えない。だけど想像してしまう。ワタシがここにいて、ヒメーナがいて、カナタがいて。それはどんなに楽しい日々になるんだろう…」


 俺も想像してみる。皆で同じ制服を着て、同じ学校に通う日々。きっと毎日が楽しい楽しいカーニバルのように。


「そうだね。きっと楽しい日々だよ。だけどこれからだって楽しい日々だ。だって俺たちはもう一緒なんだからね」


 スオウは何も言わずに俺にしなだれかかる。その手は俺の頬に触れて優しく、でも何かを激しく求めるように撫でてくる。そしてスオウと俺の唇が重なる。


「いつか、今日よりももッと甘くて激しくて…何より楽しいキスヲしてくれ…約束だぞ」


「ああいいよ。約束だ。ああ、そうだ。俺も一つ約束して欲しいんだけど」


「なンだ?」


「スオウも皇都大学に来いよ。勉強は得意なんだろ?夢のバイクブランドを打ち立てるなら大学でエンジニアリングを学んだ方が絶対にいいはずだ」


 スオウはそれを聞いて、朗らかに笑う。


「そうだな。それも楽しイ夢になるだろウな」


 俺たちは指切りをする。その約束は窓からさす月明かりだけが淡く優しく照らしていた。





















予告1





cidade do REY





「これがこの国の腐敗の姿だ」



「カシュージュース?!カシューがジュース?!」



「あなたの腰ふりにはサウダージが足りない!」



「悪徳こそが栄えるんだ。そこには慈悲も祈りもない」



「なんで子供を平気な顔で殺せるのよ!!」



「上半身裸の男だらけだ?!」



「カーニバルは一夜の夢。普段は闇の中にいるものたちが、光の中で輝ける夢の一時」



「だから国旗に書いてあるんだ。ないものねだりだよ」



「私が王になってこの地に秩序と進歩を齎すのだ」



「いいや。あんたの秩序と進歩には足りないものがある」




シーズン4.X

cidade do REY


乞うご期待。




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