第109話 ラブコメヒロインは主人公をぶっ飛ばして宙を舞わせて一人前!(最近は流行らないノリやりまーすw)
7月になると夏休みが近くなるから大学の中はどこか浮足立ったような雰囲気に包まれていた。
「夏はどこへ行こうかしら?やっぱり海は外せないわよね?わたしすごくスキューバとかしたいわね」
「そうですね。海ってみたいです!でもわたし…おっぱいには自信がありますけど、水着には自信がありません…」
「そう言えばボクまだ水着買ってないや。そのうちみんなで買いに行こうよ!」
学食にていつものメンツと夏休みの過ごし方を相談している時だった。俺のケータイに一通のメールが入った。それはスオウからだった。
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お疲れ様です。
エディレウザ・レイチです。
今日、昼から原宿でお祭りがあるそうです。
デートしてください。
神宮の前で待ってます。
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なんというかすごく業務連絡みたいなメールだ。だけど根が真面目そうなスオウっぽさを感じる。というかスオウではなく本名で送ってきてるってことは同伴デートじゃないってこと?
「どうしたの?変な顔してるわよ?」
どことなく心配そうな顔で綾城が俺の顔を覗き込んでいる。ミランも楪も心配そうな顔をしていた。
「いや。大丈夫。俺ちょっと用事ができた。夏の予定は明日にしよう」
「あらそう?ふーん」
綾城は俺のことを燻しがっているようだ。だけどふっと優し気に微笑んで。
「いってらしゃい」
「おう。行ってくるわ」
何かを察してくれたのか優しく俺のことを送り出してくれた。俺はキャンパスから出て、電車に乗って原宿へ向かう。電車の中で俺はポケットに入っているものを弄っていた。そして真柴の言葉を思い出していた。スオウには気をつけろ。それはいったいどういう意味なのだろうか?例えば彼女がハニトラならば?まあ効果ははっきり言って抜群だと思う。あるいはスパイ。それもありだと思う。だけど本当にそんな小手先の恐怖ですむような存在なのだろうか?真柴は葉桐への背信にも関わらず、俺に警告を放ってきたんだ。その重さを俺は覚悟しなきゃいけない。綾城の願いもあるんだ。スオウを葉桐から解放しなければいけない。滝野瀬の件もある。俺は焦りを覚えていた。
原宿の駅に降りるといつも以上の人ごみに飲み込まれた。必死にそれをかき分けて神宮の前に辿り着くとそこにスオウがいた。上は黄色の振袖、下は青い袴、それにブーツを合わせている。昔の女学生さんスタイルみたいだ。そして長い髪の毛は後ろでポニーテールにしている。神宮の前ってゴスロリ系ばかりなイメージだったから彼女の格好は俺の目にはすごく目立って見える。俺だけじゃない。周りの人間たちも彼女を見ている。外国人の観光客なんて彼女に写真を撮らせてくれるようにお願いしている。ナンパや観光客やらを上品な所作で丁寧にあしらっている。本当に綺麗で大人の女だ。
「よう、スオウ。待たせたか?」
「いや。そんなに待ッてなイ。むしろ急な連絡だッたのに来てくれてアりがとウ。今日はよろしく」
儚げで美しい笑顔を浮かべて、スオウは俺の腕に抱き着いてきた。柔らかな感触に甘い痺れを覚えた。だけど同時にどこか虚ろでありながら鈍い重さも同時に感じた。なんだろう。この気配の歪さは?
「着物綺麗だね。よく似合ってる」
「オブリガーダ。この色はブラジルの色なンだ。明るくてイイだろウ?ラテンアメリカらしい眩しさなンだよ」
俺たちは通りを渡って竹下通りに入った。いつも混雑しているけど、今日はさらに人が多い。今日は原宿の町が主催するお祭りらしい。褌の男衆やら浴衣の女の子やらがみんな笑顔を浮かべて楽しんでいた。
「にぎやかでイイ。サンバを思い出すよ」
「サンバは日本でも有名だな。あのにぎやかさはパリピを目指している俺には憧れるね」
「ふふふ。ワタシも憧れていた。あの風景に。派手な衣装で踊る綺麗な女たち。あの一人にワタシは成りたかった」
「スオウならできると俺は思うよ」
「イイや無理だよ。ワタシには無理だ。アの世界は眩しすぎるから…」
寂しそうにそう呟くスオウに俺は悲しさを覚えた。彼女は葉桐のせいで表の世界で生きられない。俺たちはお喋りをしながら竹下通りを抜けて裏原に入る。多くの露店が軒を連ねていた。俺たちは射的屋の横を通った。スオウは空気銃を身ながら懐かし気に微笑んで言う。
「父は若イころは軍にイたンだ。真面目な人で、周りが徴兵ヲさぼッてるのに、ちャんと徴兵の義務ヲ果たした」
「それは真面目だね。スオウはお父さんに似てるのかな?」
ちょっとスオウに親近感を覚えた。俺の父も若いころは自衛官だった。退官後は実家の農家を継いだ。
「かもしれない。銃の使い方は父から習った。ファベーラは危なイところだから仕方がなかったんだ。でも母はそれを嫌がった。母は優しくて信心深い人だ。いつも家族の安全を祈っていたんだ」
祭囃子が響く中で人々の笑い声はそれに負けじと響いている。なのにスオウだけがぽっかりと空いた昏い穴のように寂しく見える。
「ヒカルドは真面目なイイ子だ。賢くてハンサムでそれに女の子にもモテて姉のワタシは誇らしい。あの子が生きてくれることがワタシの幸せなんだ」
誇らしげな笑みを浮かべている。莫大な借金を背負ってまで弟の命を救ったスオウは本当に家族思いのいい子だ。
「だけどワタシは楽な道を選んでしまった。もう知ッてイるだろウ?ヒカルドは本当ならもウ死ンでイるンだ。ワタシが無茶ヲして生き永らエさせたンだ。父も母もヒカルドの命の行方を神様に委ねた。ヒカルドも幼イながらに運命ヲ受け入れてイた。すべては主の御心のままに。そウして残りの人生ヲ穏やかに過ごす。それがもッとも苦しくて。だけどきッと正しイ道だったんだ」
スオウは泣きそうな顔で笑う。見ていられない。だから俺はスオウを抱き寄せた。彼女の頭を優しく撫でる。
「カナタは不思議に思わなかったか?ワタシがどうやって莫大な金を借りたのか?」
スオウの手が俺の胸を撫でている。俺に体を寄せてくる。振袖の下の豊満な乳房の柔らかさに母性的な優しさを感じた。
「イくらミリシャでもアれだけの金ヲ用意するのは簡単じャなイ。だから用意させたンだ。ワタシがアイつらのボスにこうやって用意させたンだ」
胸に何か硬いものが触れている。
「この罪はワタシの命で償ウ。だから許して…」
くぐもって乾いた小さな音が聞こえた。それはお祭りの騒がしい音にすぐにかき消された。そしてすぐに胸にひどく重たい衝撃を覚えて、俺は膝から倒れた。見上げたスオウは一筋の涙を流している。泣くなよ。せっかくのデートなのに。そう言おうと思ったけど、胸の痛みで声が出ない。
「…せめて同じところに行けたらイイのに…」
スオウは右手を頭の方に持っていく。その手には小さな銃が握られている。だめだ。このままだとスオウはそれを自分の頭に向ける。そうはさせない。
「だめだ!!」
俺はスオウにとびかかり彼女の手を掴んで止める。
「な、なンで?!なンで動ける?!なンで生きてイる?!」
「今はそんなのどうでもいいだろうが!!何があったかは知らん!だけど死ぬな!俺が絶対にお前を助ける!!」
俺はスオウの手から銃を奪おうと力を込めた。だけどちっとも彼女の腕は動かせなかった。いやいやちょっと待て?!俺は男の中でもかなり力持ちのはずなんだぞ!
「ッウウ!アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァ!!!!」
スオウは叫びながら、俺のお腹を思い切り蹴った。俺は油断していたと思う。だって女の子の蹴りなんてたかが知れてる。大したことはないはず。そのはずなのに、俺の体はくの字に折れ曲がり、そしてそのまま宙を舞った のだ。
「急所ヲ外れてイたのか?!これなら!!」
まだ浮かぶ俺の体に銃口を向けて、スオウは二回引き金を引いた。よく見たら銃には短くて太いサイレンサーがついていた。だから音は大して響かない。だけど音の小ささに反して体に感じる痛みは半端ないものだった。お腹に二発銃弾をぶち込まれた。凄まじく痛い。俺の体はそのまま背中から地面に落ちた。全身に鈍い痛みを感じる。
「うごおおおお」
「まだ死ンでなイ?!イやアァァァアアア!」
さらにスオウは俺の体に銃弾をぶち込んでくる。胸と腹にさらに四発食らった。息が止まりそうなくらいに痛い。痛いって言葉が陳腐になるくらいに滅茶苦茶痛い!
「全弾撃ち尽くしたのに?!」
銃はホールドオープンしていた。小さい銃だけあって装弾数は大したもんじゃなかったらしい。スオウは茫然と俺を見ていた。この隙に俺は全力で走って逃げ出す。走るたびに痛みが走り、俺のシャツから潰れた銃弾がぽろぽろと零れていく。
「ありがとぅ真柴!ありがとぅ真柴!ありがとぅぅうう真柴ーーーーー無事に帰れたらほっぺにチューしてやるよーーーーー!!」
俺はシャツの中に手を入れて、体に巻き付けていたセロテープを剥がした。テープはボロボロになっていた。それをぐしゃぐしゃに丸めてポケットに仕舞う。テープには使い道が一つしかない。何かに張り付けることだけだ。真柴がわざわざくれたんだからきっとすごいんじゃないかと思っていたが、マジですごいテープだった。このセロハンテープの出所はよくわからないが、半端ない防弾性能を持っているようだ。心の中で真柴に100回くらいキスしながら、俺はお礼をしまくったのだった。




