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僕と坂入さんの球技大会

作者: 仮面大将G

 教室がいつになくざわついている。学級委員長が黒板の前に立って、ひたすらチョークを走らせる。


「よーしみんな! 今学年で出てる案はこんなところだぜ! この中から球技大会で参加する競技を決めよう!」


 そう、今は球技大会で僕らが参加する競技を決めるホームルームの最中。運動が得意でも苦手でもない僕にとっては、非常に興味の湧かないホームルームだ。


 出た案はサッカー、バスケ、ソフトボール、ドッヂボール。ドッヂボールて。そんな小学生じゃないんだから。もう僕らは高校生。もっと高尚なスポーツをしたいところだね。


「ねえ俊樹くん、何に参加するの?」


「うーん……。僕は余ったのでいいかなって」


 前の席に座る坂入さんが話しかけてくる。この人は別に何の取り柄も無い僕に日頃から話しかけてくれる、所謂陽キャというやつだ。

 成績優秀、容姿端麗、運動神経抜群の人気者。僕みたいなオール3のやつとは、本来関わりのないはずの人間。でも彼女は完璧だから、僕みたいな平均値にも話しかけてくれる、稀有な存在だ。


「余ってのでいいって……。そんなんじゃダメだよ俊樹くん! もっと意欲を持って臨まないと!」


「そうは言われてもね? 僕はあの中で得意な競技が無いんだよ。どれか選べと言われても、どれも一直線に並んでいる状態だ。同じ状況だったとして、坂入さんはパッと選択肢を決められるかい?」


「もう! 俊樹くんは理屈っぽいんだから! そういう時はね、私なら新しい選択肢を生み出すよ!」


「新しい選択肢……? いや、坂入さん? この中から選べって言われてるんだよ? まさか今から新しい競技を提案しようとしてないよね?」


「金庫! 間違えたビンゴ!」


「間違えすぎだよ! なんで急に貴重品管理し始めたのか理解が追いつかなかったよ!」


「さっすが俊樹くん! 私と気が合いすぎて運命感じて苦しくなって夜も眠れなくて夢に私が出て来て手を繋ぐ直前で目が覚めて次の日の朝挨拶するのが気まずくて顔を逸らしてるだけある!」


「事実無根だよ! 僕は坂入さんに変な感情は持ってないからね!?」


「分かってるよ! 私たちの間にあるのは中将! 間違えた友情!」


「なんか今軍の偉い人が間に入らなかった!?」


 すごいエネルギーだねこの人は……。どうやったらこんなにエネルギッシュに生きられるのか教えて欲しいくらいだよ。

 呆れる僕を気にもせず、坂入さんは僕の机にノートを置いて『提案したい競技』と書き出した。


「そうと決まったら俊樹くん、早速新しく提案する競技を考えよう! やり慣れた共同作業だよ!」


「初めてじゃなく!? なんで熟年夫婦みたいになってるのさ!?」


「え? だって私たちの関係性ってもう夫婦みたいなもんでしょ? こんなに喋ってるんだし、もう付き合ってるどころか籍入れたぐらいの仲でしょ?」


「席が前後なだけだよ!? 確かに最近仲はいいけど!」


「そうだよね! 私たちには友情しか無いよね!」


「なんかすごい弄ばれてる気分!」


 坂入さんは椅子を僕の席の方に向けて、本格的に案を考え出した。


「さーて、何がいいかなー? って言っても、実はもう私の中で答えは出てるんだよね! 後は俊樹くんと練り合わせるだけ!」


「擦り合わせてもらっていい!? 何僕カマボコになるの!?」


「ううん! ちくわ!」


「どっちにしろ嫌だよ! 人間でいさせてよ!」


「それでね、私の中で決まってる競技はね」


「全然話聞かないな君は!」


 坂入さんはボールペンでノートに大きく文字を書き始めた。ボールペンなんだ……。シャーペンで書いたら後で消せるのに。後先考えてないなあ。


 坂入さんが大きく書いたのは、カタカナ4文字。僕はそれを小さな声で読み上げた。


「カバディ……。カバディ!?」


「そう! カバディ! 1回やってみたかったんだよねー!」


「え、よく知らないけどカバディって球技なの!?」


「多分違うかも! でもいいんだ、私はカバディに青春を捧げるって決めたんだから」


「やめた方がいいよ!? 残りの高校生活をカバディに捧げるつもりなの!?」


「え、そうだけど。俊樹くんも一緒にやってくれるよね?」


「やらないよ! なんで僕の青春をインドスポーツに捧げなきゃいけないのさ!?」


「え、嘘! 私たち友達でしょ?」


「バカなことをやろうとしてるのを止めるのもまた友達だよ! なんで今から本格的にカバディやろうとしてるの!? バカなの!?」


「バカじゃないよ。カバディだよ」


「そういうこと言ってるんじゃないよ! ああもう、たまに坂入さんは話が通じないんだから……」


 僕がそんなことを言っていると、坂入さんはいつの間にか前を向いて、ピシッと手を挙げていた。え、本気でカバディを提案するつもりなの!? もう競技は決まってるのに!?


「坂入、どうしたんだよ? 何か言いたいことがあんのか?」


「私、そこにある競技以外の競技を提案したいの!」


「ちょっと坂入さん、やめときなよ……」


「私が提案するのは、ヘディスです!」


「なんでカバディじゃないの!? さっきまでカバディに青春を捧げるみたいなこと言ってたじゃん! あとヘディスって何!?」


「え、知らないの俊樹くん? ヘディスはヘディングで卓球するスポーツだよ」


「球技ではあるけども! マイナースポーツが過ぎるよ!」


「じゃ、坂入と俊樹はヘディスにしとくなー。他のやつは何したいんだー?」


「さらっとヘディスが流された! あんなに飲み込みにくいものが! 消化不良でお腹壊しそうなのに!」


「だって俊樹くん! 一緒にヘディス頑張ろうね!」


「頑張りたくないよ! まずヘディスを選ぶ対戦相手がいないよ!」


「日本代表を目指すところまでいこうね! だって私たち、友達でしょ?」


「友達って言葉に全幅の信頼を置きすぎじゃないかな!?」


 こうして僕は、坂入さんと一緒にヘディスをやることになった。ちなみに坂入さんが強引に決めたチーム名は『カバディジャパン』だった。カバディがしたいのかヘディスがしたいのかはっきりしてよ!

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