本の紹介21『九尾の猫』 エラリイ・クイーン/著
ニューヨークを恐怖の底に叩き込む絞殺魔「猫」を追うサイコ・スリラー小説
エラリイ・クイーンは多作なミステリィ作家で、ドルリー・レーンという探偵が登場する「悲劇シリーズ」や作者と同名の探偵が活躍する「国名シリーズ」が有名です。ちなみにエラリイ・クイーンは個人名ではなく、二人の作家の合同の名前となります。初めて国名シリーズを読んだ時、自分と同じ名前の探偵を登場させるとは大胆不敵だなと思いましたが、個人名でないなら抵抗は少ないなと妙な安堵を覚えたものです。
本作はエラリイ・クイーンが探偵(犯罪研究家)として登場しますが、「国名シリーズ」とは独立した作品だそうです。なんだかややこしいですが、シリーズの括りというのは作り手の都合によるところが大きいと思うので、読者は気にせず読んで問題ないでしょう。小説に限らずシリーズものは正しい順番で触れるべきという考え方もあるようですが、発表順や時系列に囚われず、とびとびの順番で作品に触れるのも一興です。どの作品をどのように手に取るかは受け手側の最大の自由だと思います。
クイーン作品を読破しているわけではありませんが、本作は全体的に重苦しい雰囲気が漂っているというか、社会派な話だなという印象を受けました。
ニューヨークで連続絞殺事件が発生するのですが、被害者に共通点が見つからない無差別殺人と報道され、人々は恐怖に慄くことになります。共通点は絞殺に使われた絹紐だけで、警察に事件解決の協力を求められたエラリイがそれぞれの事件の見えない繋がり、ミッシング・リンクを推理しながら犯人と頭脳戦を繰り広げるというものです。
探偵と犯人の頭脳戦という王道の古典ミステリィ要素はきっちり押さえているのですが、追うものと追われるものという対立軸だけではなく、舞台となる街で不安に怯える人々や事件を扱うメディアのあり方なども取り上げており、より広いレンジで物語を構築することに成功しています。恐怖が人々に広がり、疑心暗鬼により生じる社会的混乱の様子や、報道が人々への注意喚起という役割を果たす一方で、犯人の凶行を扇情的に伝えることで人々の恐怖心を煽り社会を混乱させてしまうという描写は非常に現代的です。作中のとある人物の「新聞は苦しみたい人のものだ」という台詞は示唆に富んでいると感じました。
もちろん謎解きミステリィとしても一級品で、もともとミステリィで犯人を当てることは不得意なのですが、本作の犯人はまったく検討がつきませんでした。犯人の造形も淡々とした狂気が描かれていて、怖さが際立ちます。奇抜な言動や台詞などで無理矢理キャラクタを立てようとしていないところがスマートな印象です。
淡々と実行される殺人や恐怖で荒んでいく人々など退廃的な空気が物語を覆っていますが、それゆえにエラリイの探偵としての、人間としての苦悩や優しさが一筋の光となっています。終わり




