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プロローグ

昼下がりの高校の教室は、いつもと変わらない退屈な時間が流れていた。

 窓際の席で、花田清は半分眠たそうにノートを開いている。数学の板書は一応写しているが、視線はときおり窓の外へ逸れる。


「おい、清。お前またサボり顔してんな」

 話しかけてきたのはクラスメイトの大地だ。野球部のムードメーカーで、授業中もお構いなしにちょっかいを出してくる。


「聞いてるって。ちゃんと」

「はいはい。そーいやお前昨日もまた塾さぼっただろ」

「塾なんて行ってもどうにもならねーもん」

「……お前、将来どうすんだよ」


 清は肩をすくめた。自分が本当は何をしているのかなど、彼らが知ることはないからだ。


 そのとき、ポケットのスマホが小さく震えた。画面には見慣れた黒いアイコン。暗号化メッセージアプリが自動的に起動する。

 ──《ゼロ、至急。》

 このスマホに送ってくる人物は、基本1人しかいない。


 清はペンを置き、自然な動作でスマホを伏せる。わずか一文だが、緊急任務の呼び出しだ。



 午後2:02

 数学の授業終わり、突然、蛍光灯が一斉に消え教室内がざわめきに包まれた。


「うわっ、停電か?」

「スマホも圏外になってるんだけど」

「え、やばくない?」


 騒ぎの中、清はすぐに異常を察した。ポケットの中で小さいメモ帳サイズの携帯型電波探知器が微かに振動している。

 これは自然な停電じゃない。局地的な強力電磁波、つまり……


「……EMPか?」

 口の中で呟くと同時に、非常灯が点き、数分後には電力が復旧した。だが、清の背中には嫌な汗がにじんでいた。


 再びスマホが震える。今度は音声通話だ。

「ねぇ清、今の感じ……ただの停電じゃないわよね?」

 柔らかいが、どこか緊張を含んだ女性の声。そう、さっきのメールの送り主、玲華だ。

「玲華お前、学校に監視カメラでも仕込んでんのか」

「そんなことしないわよ。でも、市内西部で同時に三カ所、似たような現象が起きてるの」

「で、俺に召集がかかったってことか」

「……お願い。今すぐ来て」


 通話はそれだけで切れた。



 放課後、清は部活にも顔を出さず、裏門から校外へ抜けた。人混みを避け、ビルの裏路地にある古びたレンタルビデオ店に入る。

 そのままなんの迷いもなくバックヤードに入り、物が散乱している床の隠しドアを開き、清は梯子を伝って地下へ降りていく。

 降りた先には指紋認証、音声認証、虹彩認証など数多くのセキュリティシステムが並んでおり、1つ1つ正確にセキュリティを突破する。そうして突破した先には、全く別の空間──モニターが壁一面を覆っていた。そう、地図とコードがスクロールする作戦室だ。


「清、遅いわ」

 振り返った玲華は、黒のタイトなジャケットに戦術用イヤホン。長い髪をポニーテールにまとめ、鋭い眼差しを向けてくる。

「授業サボって来たらバレるだろ」

「高校生の仮面も大事だもんね」

「そっちが用意したんだろ、その仮面は」


 清が椅子に腰掛けると、モニターに映るのは港湾地区の衛星写真。数時間前に撮影されたもので、一隻のコンテナ船が赤くマーキングされている。


「状況は?」

「三時間前、この船から強力な電磁波が放たれた形跡があったの。規模は小さいけど、完全に兵器レベル」

「EMP兵器の実験ってわけか」

「そう。発信元を突き止めて阻止するのが、清の今回の仕事」


 玲華は机の上にケースを置き、開いた。中にはカスタムされたハンドガンと予備マガジン、ワイヤーカメラ、簡易EMPジャマー。

「射撃は得意なんでしょ?」

「……知ってて聞くな」


 清はハンドガンを手に取り、重さを確かめた。その瞳は、学校で見せる穏やかさとはまるで別物だ。


「ターゲットは港湾第七倉庫。敵の数は不明よ」

「で、援護は?」

「必要になったら行くわ」

「チッ。また俺だけかよ」

「ふふ、裏方が私の仕事だから」


 清は立ち上がり、マガジンを装填した。

「行ってくる」

「──清」

 玲華の声が少しだけ柔らかくなった。

「絶対に、無事で帰ってきてよ」


 清は短く笑い、背を向けた。

「了解」

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