第55話:黒猫の郵便屋
「モリオン博士の許可はもらってある。君が招待を受けるなら返事の手紙を出すといいよ」
「手紙……。これ、差出人の住所が書いてないですね」
ベル王子に言われ、俺は封筒を眺めて呟く。
招待を受けるのはいいとして。
手紙の主がアフリカにいるのは分かるけど、封筒にも手紙にも住所が書いてないよ?
「大丈夫、黒猫郵便なら封筒に付いたフォースを辿って返信を届けられるから」
大きなモフモフの手(前肢)で封筒を指し示し、ベル王子が教えてくれた。
猫文明、フォースがあれば大体なんでもできる。
黒猫の郵便屋さんか。
なんかメルヘンだなぁ。
「じゃあ、遊びに行きますって返事書きますね」
俺は早速手紙を書いた。
猫文明の文字は、フォースを使って書くことを学んだ。
ベル王子が返信用に持ってきてくれた便箋に、俺が念じた文字が浮かび上がる。
御招待ありがとうございます。
是非遊びに行かせて下さい。
……人生初、ライオンに書いた手紙がこれだ。
至ってシンプル、そんなに堅苦しくないのが猫文明でありライオン文明だそうたよ。
「書けました」
「OK、ポストに入れに行こう」
ソファでくつろいでいたベル王子が立ち上がり、二足歩行で部屋の外へ向かう。
手紙を持つ俺が、その後に続く。
オマケでミカエルもトコトコ歩いてついてきた。
「ここに投函しておけば、配達員が回収にくるよ」
「ちょうど午後の回収の頃だね」
ベル王子の説明を受けて手紙を投函したポストは、黒猫を模したものだった。
ポストは赤いイメージがある俺には少々違和感があるけど、今ではこれが普通のポストだ。
「おや、珍しい依頼者だね」
そんな声がして振り向くと、1匹の黒猫が歩み寄ってきた。
背負っているリュックが、配達物を入れる鞄かな?
「タマが手紙を書いたから配達お願い~。届け先は、この封筒の差出人のところだよ」
「任せて。届け先は……ふむふむ、アフリカね。料金は研究所の経費でいいのかな?」
「うん、いいよ。タマは研究所の仲間だからね」
ミカエルが言う「研究所の仲間」っていう言葉が、なんか嬉しい。
古代文明の調査に協力しているから、勿論仲間ではあるのだけど。
アットホームな研究所メンバーに、仲間だと言ってもらえることが嬉しかった。
「じゃあ届けておくよ」
「よろしくね、ヤマト」
黒猫の配達員はヤマトという名前らしい。
ヤマトはポストから取り出した手紙を背負ってきたリュックに入れると、瞬間移動で配達に向かった。
黒猫でヤマトなのに郵便屋なのかっていうツッコミは、日本人が俺しかいない世界では通じないからやめておこう。
二千年前は、アフリカといえば自然豊かで野生動物の宝庫みたいな大陸だったような。
当時の人口は12億人くらいで、世界人口の15%近くを占めていた。
54の独立国があるものの、経済的にはあまり成長しておらず、貧しい生活を送る人が多かった。
治安も悪く内戦が多く、難民がたくさんいる地域というのが二千年前のアフリカのイメージだ。
猫文明、もとい、ライオン文明があるアフリカはどう変わったんだろう?




