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4 大きなクリの木の下で②

「あーもう世話が焼けるったら! ほらあっ、さっさと目を覚ましなよっ」

 悪態とともに暖かく湿ったものが、くり返し優しく、頬や腕を押してくる。

 メイはぼんやりと目を開けた。

「……!」


 ミコの大きな顔がすぐそばにあった。

 大きな赤い舌先がくちびるからはみだし、今にもメイをなめようとしている。

 あのネズミを食べてしまった口、そして舌……と気づいて、

「き……きゃあっ」

 メイはか細い悲鳴とともに跳ね起きた。


「なにが()()()よ、失礼な。あたいたち猫の舌には、元気を出させる力があるんだ。治してやってんだから、おとなしくしな!」

 ミコは、急に起きたせいでふらつくメイをさらにひとなめ、ふたなめした。

 大きな舌にこづかれるたびほんとうに、吸い取られるように気分の悪さが抜けていく。


「ん! だいたいきれいになったね」

 ミコは、てのひらに乗せたメイをためつすがめつ検分して、満足げにうなずいた。

「ミ……ミコさん……」

 メイは、ずれた眼鏡をかけなおしながら、猫娘の野性的な瞳を戸惑いがちに見あげる。

(ミコさんは、わたしのこと……大嫌いだったはずなのに……)


 そのうえ昨夜は火傷までさせてしまったのだ。てっきり今度会ったら殺されると思ったのに、どうして助けてくれるのだろう? 見ると、手のひらの向こうももう透けていなかった。ネズミを食べた舌になめられたのに、全然生臭くもない。


「ちょっと! なに、においなんかかいでんのさ?」

「! ごっ、ごめんなさいっ」

 無意識の動作を指摘され、真っ赤になって縮こまるメイに、ミコはフンと鼻を鳴らした。


「せっかく治してやったのに、とことん失礼な虫だねっ。ありがたく思いなよ! あたいたちはめったに、同族(ねこ)でもないやつをなめてやったりはしないんだから!」

「すっ……すみません、ありがとうございます。あの……でもあの、ミコさん、てっきり怒ってらっしゃると思ったのに……た、助けていただいちゃって……その……」


「怒る? あたいが? あんたに? どうして?」

 ミコはとがったあごをつんとそらし、妙に機嫌がいい。メイは混乱した。

「だ、だってその……わ、わざとじゃないですけどおケガさせちゃったし、あ……!」

 ミコが同じ服を着ていないのも、自分がダメにしてしまったからかも、と気づいて青ざめる。


「ごっ、ごめんなさいっ! あ、あのっ、もしかしてあの、わたしのせいで服……せ、せっかくかっこよかったのに……ごめんなさ……」

「いーわよべつに、服なんか」

 ミコは本当に気にしていない様子で肩をすくめた。

「ちょっと手間はかかるけど、もっといいのをかっぱらえばいいだけの話だしさ」


「……え?」

()()()()()()! 当然でしょ? 猫が買い物なんか、するわけないじゃん。それにぃ」

「!?」

 いきなりがしっとわしづかみに捕まえられ、メイはきょとんとする。

 ミコは喜びのあまり、ごろごろと盛大にのどを鳴らして笑った。


「あんたを捕まえてお届けすれば、きっとスサノオ様も喜んでくださるもん! 『ふうん、思ったより役に立つじゃないか、ミコ』……なんちゃってぇ! きゃーっ、そんな、名前呼んでいただけるなんて光栄ですう! 照れちゃいますっ」

 声色まで使って浮かれるミコの手の中で、超高速エレベーターにでも乗っているような具合に上下に振りまわされながら、メイはとっさに言葉が出ない。


 すっかり忘れていた。


 そういえばミコはそもそも、破壊神を手伝うために来たのだ。助けてもらったからと、感謝なんかしている場合ではない。

(に……逃げなきゃ!)

 あわてて両手を突っぱり、ミコの拳から抜け出そうとするがびくともしなかった。

 それどころか、すかさず上から親指でぐいと、拳の中へ押しこまれてしまう。


「だぁめ! 逃がさないよっ」

「ミ、ミコさん……!」

「あわれっぽい声出してもだめ! ふっふーんだ! あんた、今度こそスサノオ様に食べられるちゃうんだから、もーカンペキ決まりなんだから、観念して栄養になっちゃいな」

「えっ? もう決まりって……?」


 ではあの双子かもしれない少女から、もう魂を追い出してしまって待っていたりするのだろうか? と青くなるメイをよそに、ミコは立ちあがり、ひざの土を払った。

 足もとにグルニャーン、とすりついてきた猫を、かがみこんでなでてやる。


「いー子だね。よく知らせてくれたよ。はいよ、ごほうび」

 スカートのポケットから煮干しを一本出して、やった。

 見ると相手は、この寺の境内で会った、ちょびヒゲふうの黒ぶちがあるでぶ猫ではないか。


 猫はバリバリと煮干しを食べてしまうと、「悪く思うなよ」とでも言うようなクールなまなざしをメイに投げ、とっとと行ってしまった。

「そっ……そんな……」


「これで逃げてもムダだってわかっただろ? 化け猫はどんな猫とでも話せるのさ! 猫は生き霊も妖怪もちゃあんと見るし、この世に猫の目の届かないとこなんてほとんどないしね。人を捜すのはむずかしいけど、あんたみたいなチビ虫捜しにゃサイコーの仲間だよ」

 その時、ミコの耳が猫のように、ぴくっとなにかに反応した。


 目を輝かせ、満面の笑顔で向き直る。

「スサノオ様っ、ここですここ! チビ虫見つけて捕まえときましたぁ!」

 ミコの手の中から、メイは、破壊神が白銀の髪と黒い肩布をなびかせ、境内入り口に音もなく舞い降りるのを見た。

「……!」


 昨日の霊力の暴発で破壊神は、ミコとはくらべものにならないダメージを受けたはずだ。

 なのにその暗色の肌には、なんの痕跡も残っていなかった。

 銀に輝く瞳も左右ともきちんとそろい、灼き滅ぼす勢いでメイをにらみつけている。


 しかし破壊神はどういうわけか、降り立った場所にたたずんだまま、近づいて来なかった。

 メイはかえって身も凍るほどの恐怖を感じながら、ぼんやりとつぶやく。

「あ……服までもとに……戻ってる? まるでなんにも……なかったみたい」

「当たり前じゃんか! 見てわかんないのかい? スサノオ様の服は霊衣(れいい)! 持ち主と気を共有して再生だってする、神々の時代の遺物なんだ。今どき世界に何着残ってるか……」


 ミコが、急に言葉を切った。

 ふたたび耳をぴくつかせ、見る間に敵意に短い髪を逆立てる。

「ミ、ミコさん?」

 どうしたのかきこうとした時、メイの耳にもその叫びが届いた。


「こらーっ! ちょい待ち、待てって、先に行くんじゃな……あ、なんだ待ってるか」

 メイと同じセーラー服を着た長身の美少女が、黒髪を乱し、スカートを蹴散らさんばかりの全力疾走で走ってくる。息をはずませ、破壊神のとなりで足を止めた。


「やー、悪いね、早とちりして怒鳴っちゃって。ま、あたしがなんとかなだめてくるから、君はちょっとここらで待っててよ」

 恐れげもなく破壊神に言いおいて、すたすたとこちらに歩いてくる。


 ミコは驚きと憤りのあまり、わなわなと震え出した。

「にっ、人間のくせにスサノオ様をキミ呼ばわり? あっ、あの無礼な女、誰だよっ!?」

「さ……さあ……?」


 メイも、長身の美少女のず抜けた度胸に気をのまれ、この状況をどう考えていいかわからない。と、近づいてくる少女の、モデル並みに整った顔に喜びの色が広がった。

「やっぱりメイだ! ちっちゃくなってるけどメイだ!」

「えっ?」

 メイとミコは思わず顔を見合わせる。少女は駆け寄ってきて、嬉しそうに両手を広げた。


「メイ! 生き霊になっちゃって記憶ないんだって? でもそれでもここに来るってとこがすっごくあんたらしーよ! あの、クリの木のあたりにいたんでしょ? 違う?」

 言い当てられ、メイは驚きに目を丸くしたまま、ミコの手の中でうなずく。

 長身の少女は目をうるませ、親指姫サイズのメイの頭を、細い指先で優しくなでた。


「昔っから、なんかあるとあの木の根本に来て泣いてたもんね。思い出さない? あんたの名前は神納(かのう)五月(さつき)、メイってのはあだ名! お父さんお母さんと三人家族で、ひとりっ子」

「え……」

「で、あんたの身体のことだけど、昨日までちゃんと学校通ってたから、生きてるのは間違いないよ。ただ、ここ数日なーんか中味が違う感じでさー、どーやらオバケに乗っ取られてるらしーから、身体、取り返してもらうぐらいはこの人たちにたのんじゃってもいーんでない? あたしもあんたが生きててくれる方が嬉しいし」


「…………」

 メイは、見知らぬきれいな少女の真剣な瞳、汗ばんだ額を見あげた。

 学校からここまで、飛ぶ破壊神を追って走るのは大変だったはずだ。ここまでしてくれるなんて、よほど親しい友人にちがいない。

 でも何度見直しても、どうしても……初対面としか思えなかった。


「ご……ごめんなさい。わた……わたし……あ、あなたのこと……」

 思い出せません、とまでは言えずに、どっと涙があふれる。

「あーハイハイ、こら、めーちゃん、泣かない泣かない。あ、美人な三毛猫さん、この子、あたしが持たせてもらってもいーかな?」

 言われて、ミコはちらっと、境内入り口に立ったままの破壊神の顔色をうかがった。

 破壊神が異を唱える気配はない。


 それで嫌々ながら、泣きじゃくるメイを手放した。しかし、小声でうなるのを忘れない。

「あたい、あんたみたいな女、大っ嫌い」

「そりゃ残念。あたしは君、大好きだよ。可愛いし、第一、猫だし。あたし猫党なんだ」

 長身の少女は笑顔で返すと、泣くメイをてのひらに受け取った。

 顔の高さにあげて話しかける。


「ハーイ、メイ。覚えてなけりゃ自己紹介すりゃいいの。あたしは野々宮(ののみや)(かえで)、あんたとは幼稚園以来何度もクラスメイトになってるけど、実は友だちだったことはないんだな、これが」

「?」

 涙をふきながら顔をあげると、野々宮楓はおどけて顔をしかめて見せた。


「とゆーのもだ! あたしは泣き虫のあんたがずっと、あんまり好きじゃなくてねー、イライラしていじめちゃったり、無視しちゃったり……友だちって言わないでしょ、こんなの」

「そ……そんなことありません! わたしは……と、友だちだと思います。こ……ここまで来てくれて……わ、わたしのこと……見つけてくれて、ありがとう」

「そー言ってあんたはまた泣くー」

 と自分も声を湿らせながら、楓は指先で優しく背をたたいてくれる。


 メイはますます涙が止まらなくなりながら、その時ハッと、我に返った。

 喜んでいる場合ではない。ミコはもちろんこのちん入者にひどく腹を立てているし、破壊神だって……楓が邪魔だと判断すれば、なにをするかわからない。

「あっ……あの!」

 青くなって顔をあげるメイに、楓はいたずらっぽくウィンクした。


「わかってるわかってる。あんた、あっちの強そうなオバケがあたしになにかするんじゃないかって心配なんでしょ? あんたの置き手紙読んだの、実はあたしなんだ。話もだいたい聞いたよ。だいぶ物騒なオバケみたいだね。あんたがどーして、自分が助かることより他人が死なないことの方が大事なのかわかんねえって、そーとー怒ってたわ」

「そ……それなら今すぐ……」

 逃げて、と言おうとするメイにかぶせて、楓はあっさり続ける。


()()()あんたがものすごーいおバカさんで、お人好しなうえに気が弱すぎるから、誰かを傷つけるぐらいなら、貧乏くじひきまくって泣き寝入りする方がマシ! って思っちゃうんだってことを、よーっく説明しといた」

「そ……それはそのとおりですけど……それを説明して……どうなるんですか?」

 わけがわからないメイを、楓はこりゃダメだ、というような目で見つめた。


「どうもこうも……ここさえきっちり理解してもらえれば、あんたが、その点に関してだけはどんなにバカみたいに命がけかってことが伝わるじゃない? つまり、他の人が目の前で殺されるより、あんたひとりが先に死ぬ方がずうっと楽なんだってことがさ! そしたら、あのオバケとしてはあんただけは生かしときたいらしいから、お願いのひとつやふたつ、聞いてもらえるかもしれないでしょーが」

「でっ……でもっ……」


 メイはあの破壊神を、部分的にでも説得できるなんて、やはり想像もできなかった。

 なんといっても楓は知らない。

 破壊神の無慈悲さ、冷酷無情ぶりは文字通り、人間離れしている。

「の、野々宮さん、ごめんなさい! わたし置いて、逃げちゃってください!」

 メイは、楓のそでをつかんで必死にささやいた。


「あ、会えて嬉しかったですけど、でっ、でも、スサノオはほんとうに人の命なんてなんとも思ってないんです! ぜ、全然関係ない人でも平気で殺そうとしちゃうしっ……」

「俺は、向かってくるやつを差別はせん。それがどうしてそこまで気に入らねえんだ?」

 いつ近づいたのか。

 不意に割りこんだ破壊神の声に、メイは跳びあがりそうになりながらふり向く。


 背の高い楓の顔の位置から見おろすと、そばに立つ破壊神はいかにも小柄だった。

 しかし今ではメイも、その小柄な破壊神が、輝く刃など使うまでもなく、指先ひとつで人を殺せることを、身にしみて理解していた。しかもこの少年は人の命を奪うことに、禁忌も罪悪感もまったく持っていない。そんな危険な存在に──


 ()()()()()()()()()()()()()


 本音を言えば、どこかへ消えて欲しいぐらいだ。

 だがそんなことを言えば、破壊神を怒らせてしまう。

 それとも破壊神の場合、逆に喜ぶだろうか……?

 それも困る!


 やけに楽観的で強気な楓を説得して逃がすのもむずかしそうだし、いっそ自分がここで舌でも噛みきって死ねば万事解決、と思いはしても、怖くてとても実行できそうにない──。

 メイはたちまち恐怖と絶望にがんじがらめになり、進退きわまって立ちすくむ。と、


「くそっ、おまえというやつはどうしてそう……」

 破壊神の顔に、耐えがたい悪臭のする汚水でも浴びせられたような、さもなければ胃が裏返りそうに苦いものを、口いっぱいに詰めこまれたかのようなひるんだ表情が浮かんだ。

 明らかにしりぞくまいとしながら、こらえきれずに一歩さがる。


 破壊神のどこまでも無情な瞳に、信じがたいことにその一瞬、ひどく傷ついたような表情がよぎったのを見て、メイもまたひるんだ。

(あっ……)


 そういえば破壊神は最初から、近くで泣いたり怖がったり絶望したりすると「苦い」と言ってとても嫌がっていた。あれは比喩でも嫌味でもなく、破壊神にとっては正真正銘ほんとうに、我慢できないほど苦かったのだ!

 メイは申し訳なさで胸がいっぱいになる。


「ごっ、ごめんなさい! わ、わたし、そんなつもりじゃ……」

「だから謝るなと言ってるだろう!」

 うなるように言った声にも、どこか力がなかった。

 メイは自分の恐怖が、光の爆発よりも深刻なダメージを与えたらしいのを悟って青ざめる。


 墓場で出会った時の、破壊神の姿が脳裏に浮かんだ。

 骨と皮ばかりに痩せて横たわり、干からびた死体にしか見えなかった──。

(もう少しで飢え死にしてたって、誰かが言ってた……そ、それから、スサノオはどれだけ食事したっけ? 少しは妖怪たちを殺して食べてたけど……蛇の女の人に寿命を払ってそのうえ、わたしの光であんな……も、もしかしてとっくに帳消しなんじゃない?)


 胸の、奥深いところがずきんと痛む。

 殺されたくはないし、破壊神が人を殺すのを見るのも嫌だ。

 けれど、置き手紙に『お世話になりました』と書いたのは決して、社交辞令ではなかった。

 破壊神に助けられなければ、とっくに消えていた身だ。感謝してもしきれない。


 だからこそ破壊神にもちゃんと、元気に生きていて欲しかった。

 しかし、どうすればいいかわからない……。

 申し訳なくて切なくて、メイは泣くまい、謝るまい、と唇をへの字に曲げてがんばりながらも、ついぽろぽろと涙をこぼしてしまう。


「……わかったよ!」

 不意に、破壊神がほとんどやけになったような口調で吐き捨てた。

「え?」

 すぐにはなんのことかわからず、きょとんと目をあげるメイから逃げるように視線をそらすと、破壊神はふてくされた子どものような表情で腕組みする。


「要するにおまえは、人間が死ななきゃいいんだろ? 死なねえように手加減してやらあ」

「え……ええっ?」

 じょじょに話の流れがのみこめてきて、メイはゆっくりと驚きに目をみはる。

 破壊神はメイに視線を戻すと悪びれもせず、堂々とつけ加えた。

「ただし当然、おまえは別だぞ? おまえを助けたのがそもそも、食うためなんだからな!」

「でも……でも他の人は……殺さない?」

「そう言ってやってんだろうが! まだなにか文句が……」

「あっ……ありがとうございます!」


 まだ長いつきあいとは言いがたかったが、メイにはなぜか、破壊神がウソはつかないという確信があった。口に出して言ったからには、きっとそのとおりにしてくれる──。

 メイは思わず、立っている場所の高さも、相手との距離もいっさい考えず、身軽くひと跳び、楓の手の上から破壊神の肩へ跳び移った。


「!」

 楓の顔に、あの内気で臆病なメイがまさか、という驚きが浮かぶと同時に、破壊神の顔も、同じ驚きにゆるむ。だがメイは気づかずに夢中で礼を言った。


「ありがとうございます、あの、あの、お願い聞いてくださって、と、とっても嬉しいです。昨日はほんとうにごめんなさ……生きててくださって嬉しいです!」

「おかしなやつだな。おまえを食う俺が生きててなにが嬉しい?」

 いぶかしげに言い返しながら、破壊神の瞳にかすかに、別の驚きがよぎった。


 メイが自分の意志で戻って来たとたん、圧倒的飢餓感が急に、薄れたのである。

 そればかりか、メイがはにかんだような笑顔で、

「でもやっぱり嬉しいです。変かもしれませんけど……やっぱりとっても!」

 能天気にくり返すにつれ、体験したことのない奇妙な暖かさが、波のように寄せてくる。


 熱くもなく、攻撃的でもない。

 そのくせ油断しているとどこまでも、命の核までもしみこんできそうな不思議な熱だった。

 しかも、メイがその熱を発して喜んでいると、なぜかこちらまで嬉しいような──

 気がする?


「…………」

 あまりに不慣れな感情の発露に戸惑って、破壊神は一瞬、不安そうにメイを見た。

 メイに初めて、出くわしたことのない、未知の危険を感じたのである。


 だが、その危険性ゆえに。


 なにより戦いを愛する神は、以前よりももっと熱烈に、メイを()()()()()()()


「……ふん」

 まだなにか嬉しそうにしゃべり続けている、メイの言葉の内容には耳も貸さず、しかし破壊神はたぶん今までで一番優しく、ほとんど(いと)おしそうに小さなメイの頭をなでた。


「よしよし、()()なんとか元気だな。その調子で粘れ。身体はきっと見つけてやる」

「あ……ありがとうございます」

 メイは、破壊神のその言葉を「大事な食料」に対するものと取って笑顔を引きつらせる。


 が、ミコはそうは思わなかったらしい。

 メッシュの入った短い髪をざわっと逆立て、嫉妬のあまり刺すような殺意を放ってメイをぎょっとふり返らせる。だがすぐ、なにもなかったのように目を細め、表情をつくろった。


「ねえ、スサノオ様、それでしたらいいニュースがあるんですけどォ」

 甘ったるい声で言った時にはもう、無邪気なほど華やいだ可愛い笑顔になっている。

 たった今の殺意は見間違いだったか、と思うほどの豹変ぶりでミコは全員の注目を集め、明るくしなを作った。


「今度こそほめていただけますう? あたい、虫の身体のいるとこ見つけましたあ!」





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