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2 妖怪がいっぱい①

「このあきれはてたグズめっ! てめえの名前も、住んでた場所さえ思い出せねえなんて……なんだってもっと早く言わねえんだっ」

「だ、だって、い……言うひまなかった……から……」

 青ざめ涙ぐみながらも、少女はかろうじて言い訳する。


 一寸法師サイズの彼女は、不機嫌丸出しでのしのしと街を行く破壊神の肩に乗っていた。

 ふり落とされないよう両ひざをつき、右手で白銀のワイヤーのような破壊神の髪を、左手でけばだった毛織りっぽい肩布の繊維を、しっかり握りしめている。


 少女が目を覚ました時には、すでに昼近かった。

 空は真っ青に晴れわたり、道行く人にも穏やかな車の流れにも、暖かい陽射しがさんさんと降りそそいでいる。破壊神の暗い鉄色の肌と、太陽の光で見ると白というよりステンレスの銀に近い髪にも、夜中に月光で見た時ほどの怖さはなかった。


 それに蛇女神(ナーギニー)によれば破壊神は、彼と戦おうとする物好き以外は食べられないのだ。そのせいで飢え死にしかけているというほどだから、本当のことなのだろう。ならば、


(悪いけど……や……約束なんか無視しちゃって一生逃げ続ければ、なにがあっても絶対戦わないようにさえすれば……食べられないですむ……はずよね?)

 と考えずにはいられない。


 生き霊としての身体を小さくする不思議な薬の代価も──ふと「十六()」と言っていたから寿命ではらったのかも、と気づいて少女はぞっとした。とても自分にははらえない「額」だ! ──代わりにはらってもらったし、こうして身体に戻るのも手伝ってもらっている。恩を(あだ)で返すのは気がとがめるけれど、なにしろ向こうも彼女を食べたいがためにやっていることだ。多少の反則は許されるような気がした。


「おまえ、なにか悪だくみしてるだろう」

 不意にぼそりと破壊神に言われて、少女はぎょっと跳びあがる。

「えっ? そ、そんな、わ、わ、わたし……」

()()調()()()! 悪くない。卑怯なヤツは大好きだ」


 暴虐の神の名を持つ少年はすっかり機嫌を直してくつくつ笑い、少女の目からは三階建ての建物並みに大きく見える色黒な横顔に、悪童の笑みをたたえた。

「策略を練るがいい。知恵をしぼれ。この世に生きのびるためにやっちゃいけねえことなんざねえんだよ。おまえたち人間が勝手に規則を決めてるだけだ。使える手はすべて使えよ!」


 面と向かって大いに(はげ)まされてしまい、かえっていたたまれなくなる。その時、探していたものが目に入り、少女は思わず腰を浮かせた。

「あ! ありました、本屋! あそこに入ってください」


        ◆


「……で、どうするんだ」

 晴れた戸外と同じほど明るく照明された店内で、破壊神は鼻白んだ様子できいた。

「ええと、あの、参考書とか受験用問題集とかの棚、探してくださいますか?」

 少女はそろそろと破壊神の肩の上で立ちあがり、店を見渡しながら続ける。


「そういうコーナーには全国高校年鑑とか、制服や校章特集した本とか、あることがあるんです。できれば店員さんにきくといいんですけど」

「……それがなんの役に立つ?」


「え? あ、ほら、わたし制服着てますから。デザインは普通のセーラー服ですけど、色がちょっと普通より明るめだし、線の感じに特徴あるから学校を特定できるかと思って」

「…………」

「棚、見つかりました? こっちの方には見えないんですけど……きゃっ!」


 いきなりえり首をつまみあげられ、足が宙に浮いた。

 その拍子に、命綱代わりに握りしめていた破壊神の髪から手が離れてしまい、少女はつかまるものを求めて必死で手足をばたつかせる。


「やっ、やや、やめてください! わた、わ、わたし、た、高いところは苦手で……」

「自分で探せ」

「!!」

 次の瞬間、少女はロケットに乗ったような勢いで、天井高く投げ出された。


(どうしよう、死んじゃう)

 高層ビルのように立ち並ぶ、巨大な書棚の列へ向かって墜落していきながら、少女は恐怖を突き抜けて、心のどこかが麻痺してしまったような心地で思った。


(そういえばこういう時って、今までの人生が映画のハイライトシーンみたいにパパパッと頭の中にひらめくって言うけど……)

 脳裏に浮かぶのは夜の街を走り墓場に逃げこみ、破壊神に会ったあとのことばかりだ。

 こんな状況でも過去を思い出せないことが、むしょうに悲しくなりかけた時、


(あ)

 ふと、涙をふくのに使ったハンカチのことを思い出した。

 あの時は気にもとめなかったけれど、すみになにか刺繍(ししゆう)があった気がする。

 名前かもしれない。運が良ければ住所だって書いてあるかもだ。万歳!

「!!」


 全身に激しい衝撃を感じ、目から火花が散った。

 急に現実にひき戻され、書棚にぶつかって()ね返ったことに気づく。その間にも、身体は本の山をボールのようにはずみながら転げ落ち、台のへりに思いきり突っこんで──

 やっと、止まった。


(…………あれ? わたし……死んでない???)

 大の字になってはるかな天井を見あげたまま、少女はぼんやりと考える。

 体も痛いというより、ただしびれているような感じで、手も足もちゃんと動くようだ。

 眼鏡も、ちょっぴり鼻先にずり落ちただけで、ヒビひとつ入っていなかった。


「どうだ、見つかったか」

 破壊神が、ぬうっと大きな陰を落としてのぞきこむ。

「み……見つかったかって……なにがですか?」

 まだ、あんな高さから落ちても死ななかった、という非常識な現実と折り合いがつけられず、のろのろと起きあがりながらきく少女に、破壊神はいらだたしげに顔をしかめた。


「なにがですか、だと!? 俺が知るか! なんとかの棚を探すとか探さねえとか、しちめんどくせえことぬかしたのはおまえじゃねえか!」

「えっ……あ……そっ、そうでした。ごめんなさ……」

 反射的に謝りかけて、破壊神の殺気にハッと口を抑える。しかしそのとたん、相手の要求がとてつもなく理不尽に思えてきて、少女はつい、ぼそぼそと抗議する。


「で、でも、普通……いきなりあんな……た、高く投げられたら……字読んでる余裕なんか、ないと思いますけど……」

「ふうん、なぜだ」

「なぜって……だ、だって怖いし……」


「じゃあ慣れろ! 虫サイズになってもまだ()()()なんざ見あげた石頭ぶりだが、生き霊は落ちただけじゃ死なねえってことぐらいはもう納得できただろ? そら、もう一度投げてやるから、今度こそ落ちないで自分で飛べ」

「!」


 ふたたびえり首をつまもうと降りてくる破壊神を手を見て、少女は恐怖に色を失った。

 あんなふうに乱暴に投げられる経験は一度でたくさんだ。とっさに文庫本の山と山のすき間に転がるように逃げこみ、泣きべそをかきながら叫ぶ。


「どっ、どうしてですか! もちろんわたしだってがんばって探しますけど……た、た、棚の表示見るぐらい、手伝ってくださったっていいと、思……」

「俺は字なんか知らん。文句あるか」

「…………え?」


 その時、身を寄せていた文庫本の山が急に、ずずず、と動きだし、上の方が崩れてきた。

「!!」

 少女は悲鳴をあげるひまもなく、死に物狂いで本のすき間から飛びだす。


 間一髪、もぐりこんでいたすき間がずしん、とふさがった。

 ふり返ると、見あげるような本の山が、こちらへ向かって崩れてくるところ。

 しかし周囲は胸の高さほどもある木枠に囲まれ、逃げ場がない。


 少女は必死で木枠にかじりつき、よじ登った。

 下をのぞくと、床のあまりの遠さにめまいがした。

 死なないとわかっていても、気軽に飛び降りられる高さではない。

 それに無事、飛び降りられたとしても、あとから本が降ってきたら下敷きにされてしまう。

 ぺっちゃんこになってしまったら、いくら生き霊だって死ぬ……ような気がした。


(や、やだ、死にたくないっ、神さま……!)

 どこでもいい、跳び移れそうな場所を探して、少女は死に物狂いであたりを見まわす。

 と、その目に、破壊神の手が映った。あきれたグズめ、来たきゃ来い、とでも言いたげな心底バカにした顔でだが、ともあれ手を差し出してくれている。


 少女は崩れる本に追われ、無我夢中で、救いの手に向かってジャンプする。

「!?」

 跳んでしまってから、破壊神の手が思ったよりずっと遠くにあることに気づいた。


 奈良の大仏とかジャンボジェット機とかが、あまりに大きいせいで遠くからでもさわれそうに近くに見えて、そのくせ、歩いても歩いてもなかなか近づいて来ない感じと似ていた。

 それからやっと、少女は自分が、身長の十倍以上の距離を跳躍中なのに気づいて息をのむ。


(し……信じられない! えーっとえーっと……わ、わたし、身長たぶん百五十センチぐらいだから十倍なら……十五メートル!? うそ! じ、助走もしてないのに……)


 そういう問題ではないが、パニック寸前でまともにものも考えられないまま、

「!」

 少女は破壊神のてのひらに墜落した。

 勢いあまって向こう側から転がり落ちてしまったものの、危うく肩布の繊維にかじりつく。


 破壊神は、にやっとくちびるをゆがめて笑った。

「そら見ろ、やりゃあできるじゃねえか! できると思うことは、できるんだ! さあ、なんでも好きに探して来い」

 肩布に必死でしがみついている少女を、無造作に払い落とそうとする。と、そこへ、

「あっ、すみませーん、あたい、うっかり本棚にぶつかっちゃって……」

「!?」


 誰かが声をかけてきて、破壊神が動きを止めた。

 少女はこの隙にと無我夢中で肩布をはい登り、もしかするとありえないかもしれないスピードで、肩の上までたどりつく。

 ホッと人心地ついてふり向いたところへ、本棚の向こうから声のぬしが姿を見せた。


「きゃあ、もしかしてスサノオ様!? お目にかかれて光栄ですう! なにかお探しですか? よろしかったらなんでもお手伝いさせてくださいっ!」

 破壊神を見るなりしなを作って嬌声をあげたのは、小柄で細身なくせにグラマーな、パンクっぽい美少女であった。


 白と黄色のメッシュを入れた短い髪、野生的な大きな瞳を金と黒のアイシャドウで強調し、ルージュも黒、耳には何十個もピアスをしている。

 ぴちぴちの短パンにレースのビスチェ、金物をじゃらじゃら飾った黒の革ジャンを重ね着し、うらやましいほどすらりと伸びた足もとは、流行(はや)りの厚底ブーツできめていた。


 色気と愛嬌をふりまきながら、落ちた本をいそいそとひろい集めて棚に戻し、挨拶する。

「あたい、ミコって言いますう、化け猫ですう、どうぞどんなご用でも……」

「ふふん。おまえ、本棚にぶつかったのはわざとだろ。こいつをつぶそうとしたな?」

 肩の上の少女を親指で示して笑う破壊神に、少女と、ミコと名乗った猫娘は「えっ?」と声をだぶらせて絶句した。


 ミコはちっ、と小さく舌打ちしてじろりと、さも憎々しげに少女を盗み見、少女は気圧されて震えあがる。しかし、破壊神は気にする風もなく、機嫌良く続けた。

「おかげでこの(どん)くせえバカもやっと、生き霊の自覚が出てきた。おい虫、礼を言えよ」

「む……虫? ってわたしのことですか?」


 あまりと言えばあまりな呼び名にショックを受ける少女に、破壊神は平然とくり返す。

「そうだ虫、他に誰がいる?」

「わ、わ、わたし、虫じゃ……」

「そーですよねー、虫ですよねー、虫けらサイズで短足でペチャパイででっかい眼鏡なんかかけちゃって、これはもー、どー見ても虫以外のなにものでもないですう」


 目を輝かせて大喜びするミコに少女はおおいに傷ついたが、破壊神は悪口だとすら思っていない様子で聞き流している。ミコは勝ち誇って、色っぽい胸を張った。

「ほらあっ、さっさとあたいに礼を言いな!」

「あっ……ありがとうございま……」


 自動的に従いかけて、少女はようやくじんわりと、悔しさがこみあげてくるのを覚えた。

「あ、あたし……虫……じゃない……もん」

 涙ぐみながら、しかし、誰にも聞こえないほど臆病な小声で主張する。

「ええっ? なぁーに? 聞こえないよ!」

 かさにかかってせかすミコを前に、少女ははたと、もっと重要なことを思い出した。


(そう! 虫なんかじゃないちゃんとした名前が、きっとあそこに……)


 あわててポケットを探り、たたんでしまいこんであったハンカチを出し、広げる。

 記憶にたがわず、布のすみに緑色の糸で名前の縫い取りがしてあった。

 不器用な刺繍だが確かに〈MAY〉と読める。

 少女は嬉しさのあまり、ミコの意地悪も忘れて叫んだ。


「名前がわかりました! わたし、メイです! ほら、ハンカチのここに刺繍が……」

「んな、ちまちましたもの見えないわよ。で? 名字はなに? 住所は? 電話番号は?」

 ミコにたたみかけられて少女はハンカチを丹念にひっくりかえして見たが、〈MAY〉以外の文字は見つからなかった。


 もしや制服の胸ポケットにでも学生手帳が入っているかも、と思いついて探してみたがそれもない。どっと落ちこむ少女をミコはあざ笑った。

「あっは! バカねえ、そんな名前だけわかったってなんの役に立つってのさ」

「まったくだ。ところで、アイシャはいったい、おまえになにを言いつけたんだ?」


 破壊神にいきなり蛇女神(ナーギニー)の名前を出され、ミコはぎくっとした顔をする。

「え? あ、あの……どっ、どうしてそれがおわかりに……」

「おまえの服からあいつのにおいがする。くくっ、で、なにをしに来たんだ、ん? スパイか? 闇討ちか? それともこの虫を盗みに来たのか? 歓迎するぞ、どんどんやれ!」


 期待に銀の目を輝かせてそそのかす破壊神に、

「ちっ、ち、違いますよ! あたい、スサノオ様にそんな大それたことできませんっ!!」

 ミコは青くなって両手をふった。「わたし、メイです、虫じゃないです……」と遠慮がちに主張する少女になど、誰も注意を払ってくれない。


「あたいはただ、珠貴様にスサノオ様のお手伝いをしてきなさいって言われて、その、人間社会での探し物はなにかとごめんどうでしょうからって……でっ、でもあの、どーせならそんないきさつとかは抜きで、直接お近づきになれたらなあって、それで……」


 人差し指を突きあわせながら、ミコはかあっと耳まで真っ赤になってうつむく。

 その、乙女心もあらわな恥じらいぶりにメイは心を動かされ、

(あ、もしかして……思ったほど怖いひとじゃない……かも?)

 思ってしまったとたん、なにかが通じてしまったらしい。

 ミコがふたたびぎらりと、こちらをにらんだ。


 瞳が一瞬、猫の本性をあらわして針のように細くすぼまり、メタリックな金に燃えあがる。

 恥をかいたのはおまえのせいだ、いつか食ってやるからね! と雄弁に語る巨大な憎悪のまなざしを浴びて、メイはぺたん、とその場にへたりこんだ。


 共感している場合ではない。ミコは確かに猫だ。しかもとても嫉妬深い猫だった。たとえ虫にでも、自分の好きな相手にくっついていられるのは我慢ならないらしい──。

 一方破壊神は、ミコが戦いをしかけに来たのではないとわかったとたん、興味を失った。


「くだらん。手伝いなんかいるか。帰れ」

 にべもなく言って本棚の間を歩きだす。ミコはしかしめげずに追いすがり、大胆にもさっと破壊神の腕に手をからめると、甘える猫そっくりの声を出した。

「でもぉ、本、お探しなんでしょう? あたい、文字、読めますう」


        ◆


 さやさやと、緑の(こずえ)が涼しげにきらめいている。

「あの、あの、万引きは……いけない……と思うん……ですけど……」

 メイは公園のベンチの上に立ったまま、蚊の鳴くような声でつぶやいた。


 一時間ほどかけて本屋を五軒まわり、やっと制服カタログを見つけたまでは良かったが、ミコは本を小わきに抱えこむと、当然のように支払いをせず店を出たのである。


 大きな本で高そうだったから、お金が足りなかったのかもしれない。

 でもそれなら必要なところだけメモすればすむ。妖怪は店員に見られないからといって、なにも本を丸ごと盗む必要はない──。


 と思いながらも止めるに止められないうちに、一行は建物の谷間に造られた、ブランコと砂場しかないさびれた小公園に入った。

 塗りのはげたベンチの上にメイを立たせ、制服カタログの写真と照らし合わせるためだ。


「あー、これかなーっ?」

 ミコは、一寸法師サイズのメイから見るとちょっとしたビルのように大きい本を、メイの背中すれすれに勢いよくふり下ろす。重い本がぶつかった衝撃でベンチはびりびりと震動し、メイはあおりを食ってふらついた。ミコは楽しそうに怒鳴る。


「ほらあっ、ちゃんと写真の前に立ちなさいったら! くらべらんないじゃない!」

「ご……ごめんなさい」

 本を持つどころか、めくることもできない身では文句も言えない。とはいえ、

「んー、これじゃないなあ、じゃあ次のページのかなあ」


 ビルのような本をふたたび殺気のこもった速さで持ち上げ、こちらの隙をうかがいながら思わせぶりにページをくるミコを前に、メイは次の瞬間にも、ミコに「うっかり」つぶされてしまいそうで生きた心地がしない。


「ねえ、スサノオ様ぁ」

 ミコはふと、少し離れたところで退屈そうに腕組みして立つ破壊神に、流し目をくれた。

「もしも、ですけど、この本で、バカ虫の学校がわかんなかったらどーしましょう?」

 あくまで「虫」という呼び名で押し通す気らしいミコに、メイはさすがにちょっとむかっとする。しかし破壊神は、なんの関心もなさそうに向こうを向いたまま答えた。


「見つかるまで探せ」

「えーっ、でもそんなのんびりしてたら、虫の鮮度が落ちちゃいますよう」

(あっ、嫌な言い方……)

 ぞっと肩をすくめるメイをよそに、ミコは(つや)っぽく身体をくねらせ言いつのる。


「ね、こんなめんどうなことやめて、さっさと召し上がっちゃってくださいよ! せっかく食べやすい生き霊状態なのに、なにもわざわざ身体になんか戻さなくっても……」

「俺の勝手だ。おまえも手伝いたくねえんなら、いつでも失せていいんだぞ」

「そっ……そんなことありません! あたいはお手伝いしたいんです、すっごくっ!」


 猫娘はあわてて本に鼻先を突っこんで調査を再開し、ページの陰から悔しそうにメイをにらむ。が、その時、なにか見つけた様子で「あっ」と大きな目をみはった。

 メイは思わず期待に躍る胸を押さえる。

「み……見つかったんですね!? どこ、どこの学校ですか? 読んでください!」

「じゃーん!」


 ひゅっと空気を鳴らして、笑顔のミコは本ではなく、なにか長細い紙片をふり下ろした。

「!?」

 紙片はすとん、とメイのすぐ後ろに刺さりそうな勢いで立ち、一瞬遅れて風圧で髪と制服のすそがなびく。メイは、ギロチンの刃でも降ってきたような迫力に青ざめ、まっぷたつにされなかったことに心から感謝しながら、恐る恐る、ドアのような紙片をかえりみた。


「もっとちゃんと寄んなって!」

 ミコの、赤いマニキュアを塗った鋭い爪にこづかれて紙片に寄りかかりながら、メイはそれが、本屋のマークの入ったただのしおりであることに気づいた。

 紙の長い方の辺に目盛りが印刷されていて、簡易定規になっているようだ。


「きゃははっ、あんたやっぱり虫だよ! 身長四センチ……六ミリ! ()チビぃ!」

 得意満面ではしゃぐミコをぼうっと見あげて、この猫娘は、真面目に手伝うつもりなんか最初からないのかも、とメイは思う。その時、


「おおう、ほんとじゃ、立派な()チビに縮んどるのう!」


 砂利(じゃり)を詰めたバケツを揺するようながらがら声が、どこからともなく降ってきた。

「!?」



 2 妖怪がいっぱい②へ続く



「面白い!」「続き読みたい」と思われた方は、はげみになりますのでぜひぜひブックマーク、下の評価をよろしくお願いします~☆


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