表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
宮本武蔵★剣劇鳴鵙図  作者: akiyasu
6/15

第六話 琵琶湖での決闘

 吉岡憲法との試合を終えた俺は、早々に京の都から旅立った。だが大津の琵琶湖の湖岸で、ある男に追いつかれる。


 その俺を追ってきた男は吉岡伝七郎。吉岡憲法の異母弟らしい。憲法にくらべて、やや粗暴に見える、この伝七郎は、かなり殺気立った様子で、


「兄者の仇だ。勝負しろ」


 と、挑んできたが、俺は冷静に、


「何を言う。あの試合は引き分けだ。お主は聞いておらぬのか?」


 しかし伝七郎は鬼のような形相で、


「兄者は切腹した。京都所司代の屋敷で恥をかかされたのだからな」


 それは、そちらの勝手だろうと、俺は思ったが、言葉には出さず。


「憲法殿は、古今東西無双の剣豪であった。残念なことです」


 と、口では言った。俺は伝七郎と戦う気はない。だが伝七郎の闘志は燃え上がっているようで、ついには腰の大刀を抜き放ち、


「そんなことは、どうでもいい。果たし合いだ!」

「まあ待て、ここは天下の往来だ。白刃は納めろ」


 俺は伝七郎を、なだめるように言ったが、


「うるさい、お前だけは許さん。殺す」


 殺気立った伝七郎は、ギラリと光る刀の切先を、俺の喉元に向ける。そして言葉を続けた。


「妾腹の俺は幼い頃から冷遇されていた。だが兄者だけは俺に優しかったのだ」


 そんな話を聞くと、増々、俺の戦意は喪失するのだが、それと相反するように伝七郎は闘志の塊となっていくようだ。


「オレは剣士としては兄者に及ばぬ未熟者だが、この一戦だけは全身全霊をかけて、お前を倒す」


 しかし俺は、ここで良い作戦を思いつく。


 眼前に広がる琵琶湖を指差して、俺は伝七郎に、こう言った。


「あの、湖に浮かぶ小島で決闘しようではないか」

「いいだろう、あの島なら、誰にも邪魔されない」



 その後、俺は舟を借り、船頭と俺、伝七郎の三人で小島を目指して進んだ。小舟に揺られながら伝七郎は言う。


「塚原卜伝のマネをして、オレを小島に置いて逃げようとしても無駄だぞ」


 その言葉を聞いて、俺は少し笑い、


「馬鹿な、そんなことは、しないさ」


 と、言ったのだが、図星である。


 こうなれば別の作戦を考えなければならない。そんな俺の顔を見ながら伝七郎は、気持ちがたかぶり饒舌になっているようだ。


「お前の亡骸は湖に捨てて、魚の餌にしてやる」


 などと言っている。だが、ここで俺は名案が思い浮かんだ。そして、すぐさま伝七郎の襟首を両手で掴んで、


「エイヤッ」


 と、舟から湖へと、伝七郎を投げ捨てる。


 バシャアーン。


 落水した伝七郎は、


「何をする、この野郎が!」


 怒り狂いながら、直ぐに船べりを掴んだが、ここで俺は抜刀した。


「勝負ありだな、伝七郎!」

「お前、卑怯が過ぎるぞ!」


 激昂する伝七郎だが、この体勢ならば奴の脳天を叩き斬るのは簡単だ。俺は大上段に刀を振り上げて一撃必殺の構えをとる。


「これもまた、兵法」

「やめろ、馬鹿野郎」


 慌てて船べりから手を離し、泳いで逃げる伝七郎。


「船頭さん、やってくれ」


 俺の言葉に、船頭はニヤリと笑い、小舟を漕ぎ出した。小舟と伝七郎の距離は、さらに広がっていく。


「お武家さん、お見事ですね」

「これが、戦わずして勝つだ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ