幕間2「この私が愚民どもに本当にガチャの回し方を教えてあげるわ!」
竜・呪い・オリハルコン。現在日本をはじめ世界的なベストセラーを記録しているこの本は、市井でこそ人気だが多くの学者たちの間で批判に晒されている。それは、魔族至上を謳いたい優生学の信徒によって不愉快な内容であると同時に、優生学を否定しながらも現代で再びそれを論ずることそのものが優生学的だとする知識人達の反骨心によるものだ。
さらに筆者は知識が広いもの個々で見れば浅く、その物語を語る上で不都合な事実を意図的に隠しているように見えることもある。例えば確かに麦の生産量は本書の通りだが、アジアで栽培されている米の生産量は紀元前の時点で1粒に対して10~20粒であったことなどが本書では論じられていない。
故にこの書籍は決して学術書たりえない。むしろ、様々な学問のおもしろおかしいところを切り取って作り上げられたサイエンスフィクションであり、一部の学者はそれがただのSFよりも刺激的すぎることから「サイエンスポルノ」などという蔑称でこの本を批判している。
しかし悲しいかな、魔皇リーエマにはそういった批判を行うだけの知識土壌が存在しなかった。それ故に彼女はこの本の内容がすべて真実であるかのように感じ、それまで自分が知らなかった世界の真実をこっそり教えられているようなわくわく感を覚えてしまったのだ。それはまさに、人が陰謀論に傾倒していくプロセスと同じである。
「なるほど! だからアフリカドワーフもオセアニアエルフも南米ダイノサウロイドもゴミみたいな弱さだったのね! もっと前に教えてもらってればオセアニアと南米だけじゃなくてアフリカも私が征服できていたのに惜しいわね……それでこれから何故ヨーロッパヒューリンの大躍進が始まるのかしら? やっぱりフリーメイソンやイルミナティの陰謀かしら!?」
前言撤回。このアホは既に陰謀論者である。
「でも……ふふっ。この世界最高の魔皇にして大天才のリーエマの目はごまかせないわ。この章にはひとつ。大きな間違いがあるわ!」
誰も居ない部屋の中だというふふんと鼻息を荒らげてのドヤ顔を決めるリーエマ。そして誰もいないというのに自信満々と言った具合でビシリと指を壁に突きつけて宣言する。
「ガチャは決して試行回数じゃない! 最高レアがでやすい時間が決まってるのよ!」
今この部屋の中には誰もいない。それはこのアホにとって天壌無窮の幸運だった。
「っと、そうね! ちょうどまもなくその時間ね! 今日はなんだかイケる気がするわ!」
魔皇リーエマ、魂の百二十連が大爆死で終わるのはこの3分後である。なお、彼女のガチャ代は国営放送でのスパチャに加えて一部臣民の血税が使用されている。