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幕間1「つまり私は私の最強たる所以をまだ知らないってこと!」

「そう言われると確かに不思議ね……」


 本の第一章を読み終えリーエマは素直な感想を呟いた。多少文章の学術的口調に堅苦しさを覚えはしたが、こうして自分の星の人類種の歴史を学ぶ機会などなかったし、なによりそれはその長い人類史をこの目で見てきた彼女にとって懐かしい昔話でもあったのだ。

 また、これらの種族に生物的格差がないとする記述には彼女は深く同意するものだった。それは彼女が、特定の種族が生物的な優性種であるという所謂優生学的な考えを非常に嫌悪していたためだった。

 優生学は、18世紀に世界を二分したヒューリンと魔族の戦いの根幹となった思想である。戦前から戦後20年にかけて東西で人類究極説と魔族至高説が対立し、東西の大手新聞マスメディアにより究極と至高の対決としてそれぞれが怪しげなうんちくを語る評論家を集めて自らの民族の優位性を語ると同時にそれに比べたら相手の民族はカスやと罵った。

 最終的にこの論争はポリティカル・コレクトネスの隆盛と双方の旗持ちとなっていた評論家同士の和解によって終わるのだが、リーエマはその争いそのものではなく、その争い踊らされる愚民達に底なしの愚かさを覚えていた。


「まぁ、あの最初期のキレッキレの罵り合いはショーとしては大好きだったけどね。最強論争は場末の酒場とネットスラムのレスバでやるからこそ楽しいのよ。まぁ刺し身には醤油とわさび以外ありえないし、兄より優れた弟などいないし、ショタは力を持ってはならないし、宇宙最強のカサレリアの13歳だし、ザフトの貴公子は常に左だし、タケノコがパサパサのカスなことはどこで誰と語ろうが揺るぎない事実なんだけど」


 さておき。時間的アドバテージを有していたアフリカドワーフ、科学技術開発で先行してニューギニアエルフ、超科学の模範が間近に存在した中南米ダイノサウロイド。これらは後の覇権を獲得するには理想的なスタートダッシュを切っている。

 しかし、アフリカドワーフは中世にヨーロッパヒューリンによって奴隷化され、ニューギニアエルフと中南米ダイノサウロイドに関しては自らの手でその文明を崩壊させた。今日に至る魔族の繁栄が天に愛された自らのカリスマによるものだとしても、これらの文明の失速の理由は想像もつかない。

 自分の人生には天に愛されているとしか思えない幸運が幾度ともなく訪れた。だが、それにしても5000万のギリシャと180万の邪魔台国とわかりやすく数で比較をされてしまえば、どう考えても勝てるはずがないことは明白だ。

 宰相デスリーストはこの本の中身を要約し、「魔皇リーエマはただ運良かっただけだ」とのたまった。それは絶対に許せないので後でもう一度殺す。なにより、そんなはずがないからだ。何故なら、今に至る繁栄は、私に天壌無窮の幸運が約束されていたとしてもありえない奇跡がおきていることが明白だからだ。


「つまり……それってばつまり! 私には幸運だけじゃない、もはや神を超えた存在としか言えない奇跡が現実になった絶対的理由があるってことよね!」


 魔皇リーエマはポジティブの極まったアホであった。その事実はこの本では語られはしないものの、少なくとも魔皇リーエマの今に至るサクセスストーリーを構築する上で非常に大きな要因であったことは、おそらく間違いないのだろう。

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