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幕間5「ハゲにハゲって言って何が悪いの? もしかして鏡お持ちでない?」

 魔皇リーエマによる電凸の後、編集長は社長に呼ばれ重役と株主達の前で問い詰められ持病の胃潰瘍に苦しんでいた。


「やはりあんな本を出すべきではなかったのだよ」

「魔皇リーエマ様を貶める本など、右の人々が黙っていない」

「表現の自由とは、暗黙のルールの上に成り立っている。何故それがわからない?」


 言葉ひとつが飛ぶと同時にずきりと痛む胃。加えて椅子から転がり落ちた時に打った腰も鋭い痛みを主張し続ける。御年48歳、反抗期の長男が非行に走る中、唯一の癒やしだった小学校に入ったばかりの次女から「私もうパパといっしょにお風呂入りたくない」と言われ絶望に突き落とされたばかりのことだった。


「だがこの本の売上が弱小出版社でしかなかった会社を飛躍させたのも事実」

「株価も10倍に跳ね上がった」

「内容の切り口が面白いことも否定できない」


 中世の正義とは王族と宗教家が決めるものだった。しかし、現代資本主義社会の正義は資本の規模が決める。その資本を構築したあの本は、膠着した固定概念を打ち崩す正義の槍だったのかもしれない。

 とはいえ、魔皇リーエマに付与された神聖とは、その大本を辿れば彼女の支配者・名君としての歴史と実績に付与されたものではない。トンチキな女神によって転生者に与えられるはずだった恩恵にして、世界そのものに対するチート改造。それがなければ、誰もあんな語彙がコロ×2級のへっぽこド低能に神聖を見出すはずがない。

 されどチートの力は絶大である。未だ嘗て彼女の愚かさに民衆が騒ぐことなどなかったし、そもそも最初の一歩としてその偽りのカリスマに疑問を挟む者はいなかった。故にここに集まった重役達も全員理由を持たぬままリーエマに神聖を見て生きてきたのだが。


「そもそもリーエマ様は何もされていない」

「それどこか国営放送を私物化しての配信では血税をソシャゲに溶かしている」

「思えば何故世界はあんな小娘を神聖視していたのだ?」


 1850年間、今日に至るまで永遠の輝きを思わせていた魔皇リーエマの金メッキが、ついに腐食をはじめていた。


「はい、もしもし。あー!? 先生ですか!? 大変なんですよ今! リーエマ様から電凸があって、編集長が社長に……」

「そんなことはどうでもいい!」


 電話口でかつての魔皇リーエマの奴隷、近藤玲司は女性編集者に怒りを叩きつけた。魔皇リーエマがへっぽこクソ女であることを世に知らしめ、その金メッキを削ぎ落とす目的で執筆した人類学の皮を被った暴露本。特に4章では徹底的に彼女をこきおろしている。

 織田信長と意気投合し酒を飲みながら明智光秀に最悪のパワハラをしたエピソード。徳川綱吉と犬の散歩を楽しむ中で野犬もみんなかわいがるべきだと頑なに主張したエピソード。暴走した新選組が坂本龍馬を暗殺した後で「でも沖田君イケメンだから無罪」を公言したエピソード。それ以外にも彼女の悪行は吐いて捨てるほど存在した。それらがすべて出版社の意向でカットされているのだ。


「ですから他は目を瞑れてもあの4章と最終章は行き過ぎですよ……あっ! 編集長! また先生から原文そのまま全文を載せろという苦情です! ビシっと言ってやってくださいよビシっと!」

「あ、それな。次の重版で全部載せていいことになった」

「……へ?」


 呪いが国家を滅ぼした理由。それは、ひとりひとりの小さな思い込みの魔力が国中に広がることで膨大な力のうねりとなったためだ。想像を具現化する人間の魔力にはそれだけのポテンシャルが存在している。

 ならば、本という媒介をもって魔皇リーエマの神聖に疑問視を抱く人間を増やすことができれば……女神による世界へのチート改造すら、打ち崩せる。

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