若き日の女王陛下と王太后陛下が愛した神戸の散歩道
挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。
我が中華王朝初代女王の愛新覚羅紅蘭陛下は、日本の神戸で若き日を過ごされ、後に清朝の帝位請求権を行使される形で御即位された御方。
其の為、早くに逝去された陛下の御母堂もまた、陛下の御即位後に王太后として追尊されたのです。
紫禁城の近隣に造営された王太后陛下の祖廟も、此の度こうして無事に完成と相成りました。
この完顔夕華、陛下の側近として祖廟の落慶式に立ち会えた事は光栄の至りで御座いますよ。
そうして落慶した祖廟について陛下が私に意見を求められたのは、式典から数日後の事でした。
「太傅に御聞きしますが、王太后の祖廟を御覧になって御気付きになられた事は御座いますか?」
何とも唐突な御質問に、私は答えに窮してしまいました。
「えっ…、陛下?」
此度の祖廟の御造営は陛下の肝煎りで、見積り書から設計図に至るまで丹念に目を通された上で太鼓判を押されたと存じております。
それが今になって異を唱えられるとは、俄には信じ難い事です。
そんな私の様子に、御気付きになられたのでしょう。
「ああ、太傅!そう難しい御顔をなさらないで下さい。」
陛下は慌てた御様子で真意を告げられたのでした。
「あの祖廟の建築様式は私の希望による物なのですが、何処か物珍しく感じられた事は御座いませんか?」
「はあ…確かに、中華圏の廟にしては些か風変わりに感じられましたが…」
この返答を御聞きになるや、陛下の御尊顔に満面の笑みが広がったのです。
「その通りです、太傅。実は母の廟は華日折衷の建築様式なのです。何しろ神戸の関帝廟を参考にしているのですからね。」
神戸の華僑令嬢として若き日を過ごされた女王陛下ですが、それは王太后陛下も同じ事。
関帝廟を始めとする神戸の中華街は、母娘二代共通の思い出深い散歩道なのでした。
「祖母から聞いた話なのですが、若き日の母は散歩がてらに関帝廟を頻繁に参詣されていたようです。そこで母の祖廟とその周辺は、母の慣れ親しんだ関帝廟に似せようと考えたのですよ。私は物心つく以前に母と死別してしまいましたが、貴女は御両親が壮健なうちに孝行をしてあげて下さいね。」
「はっ!承知致しました、女王陛下!」
拱手の礼を示しながら、私は陛下を御支えしようと改めて誓ったのでした。
善政を敷く仁君として陛下が民達から愛されれば、陛下の実母である王太后陛下の祖廟もまた参拝者の列で賑わう事でしょう。
そうする事で、私達臣下も陛下の親孝行に貢献出来るのですから。