天使と私と
逃げる。
後ろから魔術らしき光が飛んできて、瓦礫の山を吹き飛ばした。私を追っている巨大な生き物は凶悪な鎌の様な脚を持っているというのに、魔術まで使うとはどこまで殺意が高いのだろう。
私もそこそこ戦えるはずだが、魔術で強化した剣も全力の攻撃魔術もまともに効かなかった。恐ろしく硬い。
まだ形を保っている廃墟を見つけて駆け込む。時間を稼げるかどうかも定かではないが、化け物が目に頼って獲物を探していることを願って身を隠した。
化け物がこちらにやってくる音がするが、時間の感覚がなくなるほど逃げ続けていたので逃走を続ける気力も魔力も残っていない。
左腕は使い物にならないし、右足も強化魔術が効かなくなってからは普通は物に掛ける補強魔術と操作魔術でごまかしていたがとうとう壊れてしまった。そのくせ右腕の腕輪にはヒビ一つ入っていない。
諦めて、長く息をはく。
鎌が振り下ろされる。廃墟は瓦礫に変わり、粉塵が舞う。
その時、目の端に人影が映った。こんな化け物を近くに連れて来てしまって申し訳なく思うが、逃げろと叫ぼうにも声が出ない。心の中で謝っていると、おかしなことに気がついた。化け物のことが見えているはずなのに、人がこちらに駆け寄って来たのだ。
人影は化け物に手をかざし、なにかを叫んでいる。
光がはじけ、化け物が吹き飛ぶ。
どうやら今は夕方らしい。斜陽がその人の白銀の髪をきらめかせていた。
光のいたずらか、死に際の幻か……人影の背中に光の羽を見ながら、意識が遠のいていく。
「天……使?」
私は、まだ生きていられるのかもしれない。
「あ、起きた。お姉さん、体の調子は?」
目を開けると声がかかる。倒れる前に見た銀髪が、今は月明りに靡いていた。
「目立つ怪我は治したはず。治癒魔術は苦手だから、まだ痛むかもしれないけどね」
体が動く。確かに多少の痛みはあるが、右足すら治っている。
異常変異しているこの『混沌域』の魔物を、しかもおそらく深域クラスの化け物を簡単に倒せるほど強い上に、治癒魔術まで使えるとは。この人はとてつもなく凄い人なのではないかと思いながら返事をする。
「大丈夫そうだ。助けてくれてありがとう」
「どういたしまして。運が悪かったね……あんなの普通は最深域まで行かないと出てこないよ。ご飯とかは持ってる?少しなら分けてあげられるけど」
「マジックバックは無事だから食料もあるな。気持ちだけありがたくもらっておこう。しかし、人に分けられるほど余裕があるとは、あなたは本当にすごいんだな」
「まあ、魔物を食べればいいから。この辺の魔物は全部毒がないんだよ。強すぎて毒なんかいらないのか、そもそも毒が効く獲物がいないのか、両方なのかは知らないけどね」
楽しそうに話す目の前の人物を見る。白銀の髪が月と焚火の光を複雑に反射し、夜空色の瞳は全てを見透かしそうなほどに深い。小柄で、私より頭一つ以上小さいだろうか。年齢は成人するかしないかくらい……十五歳前後に見えるが、落ち着いた仕草がそれを否定する。
顔の造形が異様に整っており、気を失う前に幻視した光の羽のせいか天使のように思えてしまうほどだ。中性的な外見で性別も分からないし、こんな場所にいる理由も分からない。自分と同じように訳ありなのだろうと無理やり納得した。
「何か私にできることはないか?もう死んだものだと思っていたんだ。この命の恩を返させて欲しい」
姿勢を正して尋ねると、彼だか彼女だか分からないその人は考え込んでしまった。
「どうしようかな……お姉さんはどこに行くつもりなの?」
「私は、身分がなくても働けるというから東の要塞都市に行こうと思っていたが」
「じゃあ、要塞都市まで一緒に行こうよ。一人は少し寂しかったんだよね」
そんなことでは恩返しにならない上に、私がさらに迷惑をかけることになりかねない。そう考えてとっさに断りかけたが、楽しそうに私を見つめる瞳は見た目の年相応の幼げな輝きをたたえていた。
ずいぶん長いこと一人で旅をしていたのだろう。どうせ私が役に立てることはないだろうから、一緒に旅をするだけで恩返しになると言うのならそれでいいのかもしれない。
「そんなことでいいのなら、いくらでも」
「よかった。嬉しいな、旅の仲間ってやつに憧れてたんだ。あと……一緒に旅するなら『あなた』呼びはなしね」
「あ、あぁ。わかった。なんて呼べばいい?」
「え〜っと、しばらく人から呼ばれてないから名前忘れちゃった。好きに呼んでいいよ、どうせボクたち二人しかいないから適当でも通じるでしょ」
お互いの名前も知らない二人の旅は、こうして始まったのだった。
二人で歩くこと数日。同族の死に学ばず襲ってきた魔物を倒しながら呟く。
「よし、ちょうどいいからこいつは今日の夕飯だな。とにかく大きいだけの牛のようだから味も期待できるか」
一人旅のなかでついた独り言の癖だが、今は言葉が返ってくる。それだけでもだいぶ気分が違うのだ。
「お姉さん、ちゃんと強いよね。この辺の魔物も普通に強いのに危なげなく倒してるし」
「君程ではないけれどね。どうやったらそこまで強くなるのか、教えてほしいよ」
「十分に強いと思うけど、もっと強くなりたいの?多分、お姉さんに勝てるまともな人間はもういないよ。自分で言うのもなんだけどボクは例外みたいなもんだし、僕が教えられる程度のことを教えたって天使に説教だよ」
二人での旅は想像以上に充実していて、楽しんでしまいそうになる。
のらりくらりと名前を教えてくれない彼だか彼女だかのことを、私は心の中で勝手に「天使」と呼んでいた。
解体した魔物の肉をマジックバックに放り込み、すぐには使えない骨や皮、内臓を魔法で掘った大穴に埋めた。少しもったいないがマジックバックも無限ではない。
何かを払うように右手をふりながら、笑顔を作って振り返り声をかけた。
「ちょうどいい時間だ。夕飯にしようか」
『混沌域』は広い。かなりの速さで歩くことができる私たちでも横断に季節一つの半分はかかるほどだ。現在地は混沌域の中央南側、要塞都市は混沌域の大体北東方向で人間の国と混沌域の間にある。混沌域の中心、深域や最深域と呼ばれる魔界のような場所を避けるとだいたい六十日ほどだろうか。
私たちは二人で話し合って大まかなルートを決めた。
夕食を終えて、たいして片付けるものもない後始末をする。
「おやすみ」
「うん、おやすみ。
それにしても結界魔術と感知魔術の併用なんて、すごい便利だけどよく一晩中魔力もつよね。ボクより便利な旅してるじゃん……夜の見張りなしでしっかり寝られるのはありがたいけどさ」
ぶつぶつ何か言いながら毛布にくるまる天使に適当に手を挙げて聞き流し、私も毛布にくるまった。
あしたもしっかり進むのだ。体をしっかり休めなければならない。
翌朝、目を開けると客が来ていた。いつも通り広めに張っている感知魔術の一回り外側に隠れる気配が十九人分。私の魔術とその範囲を正確に把握している動きだ。
「おはよう、お客さんみたいだけど知り合い?」
「おはよう。あぁ、知り合いではあるようだな。また私の都合で迷惑をかけて申し訳ないけれど、こいつらは私に任せてもらえないか?」
「いいよ。ボクはのんびり待ってるね」
起きてきた天使に挨拶をして結界魔術を解いた。混沌域に入る前の私だったら全く見つけられなかったであろうほどに気配を消せる手練れが十九人。しかし、油断しなければ負けることはないだろう。
それぞれの足元に人が数人入るくらいの大穴を開ける。一瞬飛び退き遅れた三人はそのまま地面に引きずり込んで残りは十六人。
敵の背後から氷の矢を乱射し、避けた先を結界で確保。速度特化の魔物でも捕まえられたというのに半分以上もとり逃してしまい、やはり手練れ揃いであることを再確認しながら結界の中を爆破した。残り九人。
接近して来た所を得物ごと切り飛ばそうとするが、全力で強化を重ねた剣でもしっかり止められたので受け流して退避。接近戦はあちらに分があるようだが、私を殺さずに捉えようとしているのか致命傷はねらって来ない。
一人が天使に剣を突きつけようとして、近くにいたもう一人を巻き込みながら謎の光によって爆散。人質に取ろうとでも思ったのだろうが、愚かと言うしかないだろう。残り七人。
自分の周りと、必要ないかも知れないが一応天使の周りも保護した上で全員纏めて結界で囲い込んで内部を炎で埋め尽くした。水や氷、冷却系の魔術が得意だったであろう数人以外は消し炭にする。自分でも驚くほど威力が高かったのでもっとコントロールの訓練が必要かもしれない。残り三人。
結界はそのまま、岩を大量に生成して飛び回らせる。向きも速度も不規則なので、すぐに全員をすりつぶした。食材を細かくする魔術具みたいだなと思ったが、自分でしたこととはいえグロ映像に気持ち悪くなりかけて地中に埋める。
調整を間違えて少し深く埋めすぎたが問題はない。
「手を出しちゃってごめんね。それにしても大人気だね……こんなところまでお姉さんを追いかけて来たの?」
「あぁ、気にしないでくれ。手を出さないでくれというのはどうせ私のエゴでしかないんだから。それと私じゃなくて私の魔力が人気なんだよ……使いこなせているかは別にして、魔力量だけなら君よりも多いからね。これでも少し前よりはだいぶ使えるようになってはいるのだが」
「あ、なるほど。だから魔力量任せの乱暴な魔術が多いんだ。それだけあれば他人が無理やり引っ張り出すみたいな効率悪い使い方も出来るだろうし、狙われるのも納得かな。監禁されそうになって逃げて来たって感じ?」
少し違うが、詳しく教えることでもないのでぼかしておく。
「そんな感じだな。今日は遺跡まで進む予定だっただろう?早く出発しよう」
「二人旅は楽しいから、そんなに急がなくてもいいんだけどな」
「それもそうか」
右手首の腕輪をいじりながら歩き出す。呼んでもいない客に時間を取られすぎたので、予定が立てて早々に崩れてしまった……とはいえ、予定はあくまで目安だ。期限もない旅なのだから、のんびり行けばいいだろう。
混沌域を進むこと数十日。天使が寄り道ばかりすることがわかってからは細かく予定を決めず、大まかなルートだけを決めるようになっていた。
「お姉さん、このあたりにすごい綺麗な場所があるんだけど行ってみない?」
また寄り道をしようとしているが、「期限があるわけでもない」と自分に何度目かわからない言い訳をしながら頷いた。しかし、綺麗な場所があるといわれたのは初めてだ。今まではだいたい「面白い場所」だったので、楽しそうな天使を見ながらたまに話すだけだった。
どうやら様々な場所を旅したことがあるらしい天使が選ぶ綺麗な場所はどんな場所だろうと思いながら小さな背中についていく。大昔の街道の跡を越えて森の中に入り、道なき道を進む。かなりの時間をかけて、ようやく到着した様だった。
「ついたよ!どう?綺麗でしょ」
そこには泉があった。ただよくイメージされる小さな泉ではなくて、湧水がそのまま少し広めの池になっているようだ。とても澄んだ水で、水底まできれいに見通せた。綺麗な水色の水面に木漏れ日がさす。底に描かれる光の模様が踊り、私の目にどうしようもなく美しく映った。
「ああ。綺麗だ」
私の感情に呼応するように、水面が、木々が揺らぐ。自慢げな顔をしていた天使が驚いた表情に変わったことに気づき、幼いころの苦い記憶を思い出して急いで魔力を抑え込んだ。
「すまない。魔力制御が下手で、大きく感情が動くと魔力が動いてしまうんだ」
「大丈夫だよ……ほんとにボクより魔力多いんだね。今まであまり感情を表に出さないようにしていたのって、これのせい?」
「気づいていたのか」
「もちろん。あ、あれ、泉が光ってない?」
あからさまに話題を変えた天使が泉を指差す。たしかにうっすらと光っているようだが、まわりが明るいので見えにくい。
「今日はここで休まない?夜に見たら多分もっと綺麗だよ」
「そうしようか」
簡単に野営の準備をし終えて泉を眺める。穏やかな時間を過ごしていると、天使が隣に座って話しかけてきた。
「お姉さん、魔力抑えてなくても大丈夫だよ。多少濃くなったり揺らいだりしたとしても、ボクは平気だから」
「そうか……そうだな、無理に抑え込むのはやめることにしようか。ちょっと、昔話に……といっても十五年前くらいの話だけれどつきあってくれないか?」
「うん、いいよ」
天使はたまに、その幼げな姿に似合わない、幼子を見守るようなやさしい微笑み方をする。その笑顔に促されるように口を開いた。
「小さいころ、いっしょに遊んでた友達を魔力酔いで倒れさせたことが何度かあってね……」
さっきまで楽しそうに笑っていたのに、少し気持ち悪そうにしている友達。私が心配して近づくとうずくまってしまう。近くの大人に泣きつくが、その人もつらそうにする。私が笑っても、泣いても、怒っても、その時近くにいる人が馬車や魔導車に酔ったかのように気持ち悪さを訴える。そんなことを何度も何度も繰り返すうちに、どうやら私の感情が大きく動くと周りの人の体調が悪くなるらしいことに気がついた。
「当時魔力の成長期のようなものだったのか魔力が増え続けていたこともあって、感情をおさえこむように気をつけていたんだ。今は魔力が増え続けたりはしていないけれどね」
「うーん、慰めになるかは知らないけど……ボクといる間は感情抑えなくてもいいし、自由に楽しめばいいんじゃない?」
天使と話しながら日が暮れるのを待つ。木々の向こうに太陽が沈み、天使が持つ魔術具のランプしか明かりがなくなったところで立ち上がった。
「光ってないね」
「ああ、光がいつ消えたのか気づかなかったな。というか昼はなんで光ったんだ?」
「お姉さんの魔力じゃない?」
「なら、魔力を泉に流してみようか」
泉のふちに手をつき、魔力を流していく。普通の水より魔力が流れやすいようで、魔力が通ると同時に美しいアクアマリンの光が広がっていった。
「すごい綺麗……前来たときは気づかなかったよ」
「君でも初めて見たなら、これを見ることができた私はかなりの幸運だな」
美しい光景に心が震えるのは自然なことであるはずだ。私の感動を表すかのごとく昼間と同じように木々が震え、水面が揺らいでいる……ただ、今は魔力を、感情を抑える必要もない。私と共に世界がはしゃぐ。天使も一緒に揺れていた。
神秘的な光が満ちる泉のほとり。アクアマリンに紛れて、私の右手首にはまる腕輪が魔力を吸ってぼんやりと冷たい白銀に光っていることに……その時の私も、天使も気づかなかった。
私は、五歳か六歳のころに周囲を魔力酔いさせてしまうことに気が付いてからどんどん内向的な性格になっていった。「お嬢様」と呼ばれるような立場もあって一切外出せずに生活できてしまうがために、ずっと屋敷に引きこもっていた。
お父様が魔物除け魔術具のために魔力結晶を作ってくれと言ってきたときは、私でも役に立てる仕事ができたと喜んで魔力を結晶化する魔術具に魔力を注ぎ続けた。私が魔力量にまかせて異常な速度で魔力結晶を作り続けるほどに、一部の大人たちの目が欲に染まっていくことに気づかないまま。
右手首の腕輪が動いた気がして飛び起きた。私たちはかなり要塞都市に近づいてきていて、あと三日も歩けば要塞都市に着くだろう場所にいる。
「お姉さんおはよう。いつもより早いね」
「おはよう。少し夢見が悪くてね」
「朝ごはん……の前に、薪の残りが心もとないからとってくるね」
「ああ。わかった」
天使が森の中に消えていくのを見ながら、残っている食材で簡単な朝食を考える。肉はいくらでも手に入るが、野菜類を摂ろうとするなら工夫して確保しなければならない。マジックバックの中に思いをはせていると、前兆もなく右手首の腕輪が輝いた。
「〈stop〉!お嬢様、やはり要塞都市に向かわれていましたか。腕輪をつけた次の日に逃げ出してしまわれたので、腕輪が効くか不安でしたが……この様子なら問題なさそうですね」
いやなこえだ。きらいなやつのはずなのに、なまえがおもいだせない。からだもうまくうごかない。
「〈order:私についてきなさい〉!さあ、帰りますよ。あの特注魔導車とお嬢様の魔力なら、混沌域の外側をまわったって一月もあれば帰れるでしょう」
「首尾は……上々のようですね。準備ができております、筆頭補佐官殿」
そうだ。ひっとうほさかん。やしきでわたしがねてるときにうでわをつけたのはこいつなのか。
「同行者がいるようです。面倒なので帰ってくる前に……」
「おまえら!お姉さんを放せ‼」
「チッ!戻ってきましたか。やれ!」
駆けてきた天使の背中に光の羽が現れた瞬間、靄のかかっていた思考が晴れる。恐らく私では一人ならともかく三人いるとどうしようもないであろうほどに強い護衛を相手に、私を気遣いながら圧倒する様子はまさに天使そのものだ。というか、はじめて出会った時に見た光の羽は幻ではなかったのか……しかしまだ体は動かないし、魔力もコントロールを腕輪に持っていかれているようだ。
「筆頭補佐官殿!こいつは『粛清天使』です!勝てないどころか逃げられるかどうか……」
「おまえらの戦闘服、前来たやつらと同じだな」
「やはりあいつらは……筆頭補佐官殿を待たずに突っ込んだのか」
魔力量任せの私より余程洗練された魔術が飛び交う。しかし、いつの間にか全て受け流した天使が三人の護衛を光の帯で縛っていた。筆頭補佐官と呼ばれている男は何度も逃げようとしていたが、そのたびに魔術が飛んできて器用に逃げ道をふさいでいる。
「お姉さんを返して」
「断ります。お嬢様、〈order:『粛清天使』を殺……」
「【正義の剣】!」
雷に撃たれ、命令を中断させられた筆頭補佐官を天使は光の帯で縛り、口も縛って命令を封じる。天使は横抱きに抱えた私の、右手首で白銀の輝きを放つ腕輪を見て顔をしかめた。
「こんなもの、どうやって作ったんだか……【救恤の杖】」
腕輪から白銀の輝きが消え、ただの腕輪になったところでやっと動けるようになった。
「君は、本当に天使だったんだね。助けてくれてありがとう……君に二回も助けてもらって、どうやって恩を返せばいいのか」
険しかった顔を安心したように緩めて、天使が気まずそうに微笑む。
「ボクは人間のつもりなんだけどなぁ。昔の友達に頼まれたから、ピンチを見かけたら助けるようにしてるだけなんだけどね。だから恩返しなんか……そうだ。じゃあ、お姉さん、要塞都市に着いても身寄りがあるわけじゃないんでしょ?だったら、その後も一緒に旅してくれないかな……二人旅、思ったよりも楽しくって。」
照れ隠しのように早口で話す天使。その様子が見た目の年相応に見えて、ほほえましくなりながら答える。
「いいよ。君に話したようにあてもないし、私も楽しかったから」
「うれしいな。まだお姉さんと旅できるんだね……最近は混沌域の中をふらふらしてたけど、お姉さんと一緒なら人間の都市をまわってもいいかも」
天使たちの戦闘でひどい有様になった地形を、私の魔力に揺らいだ風が吹き抜ける。
二人で少し考えて、天使が縛って転がしている四人は要塞都市に持っていくことにした。護衛の三人は人を殺すことに慣れすぎていたから懸賞金がかかっているかもしれない、と天使が言ったのが決め手だった。「筆頭補佐官」はおまけだ。幸い私たちは人を持って移動することは苦ではないし、魔力の強い人間は一週間くらい飲まず食わずでも生きていられるから荷物に飯を食べさせる必要も無い。
「都市をまわるなら、魔力制御は身につけないといけないな」
「お姉さんほどの魔力量を制御しきるのは難しいよ……頑張ってね!」
「手伝ってくれないのか?」
「まあ、出来る事があれば手伝うよ……よいしょ!」
私も持つつもりでいたのに、天使が四人全員を魔術で浮かべて歩き出す。私も急いで追いかけた。
お互いの名前はまだ知らないけれど、二人の旅の目的地はもう少しだ。




