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第三王子の婚活

 国王夫妻には三人の息子がいる。長男のコラルド王太子は三十歳ですでに結婚し、公務に就いている。

 次男のミケルド王子は二十八歳、現在は臣籍に降下しエルマリオ公爵として、王太子の補佐をしている。こちらもすでに結婚している。

 そして三男のガリレオ王子は十八歳、娘のシルヴィアと婚約しており、卒業後は入婿でスビアーナ伯爵家を継ぐ予定になっていた。

 長男と次男は妾腹だが、三男のガリレオ王子は王妃の子供だ。だが王妃が懐妊する前にコラルド王子が立太子したので、世継ぎはコラルド王子に決まった。

 そんな不遇なガリレオ王子を国王夫妻は溺愛した。歳を取ってからできた子供だからというのもあったかもしれない。そのせいか、ガリレオ王子は我儘な性格になってしまった。専属の侍女をつけても、すぐに辞職するらしい。噂話が大好きな宮廷雀たちの間では『我儘と傲慢が服を着て歩いている』と言われている。それに貴族学校で同級生だった娘からの又聞きでも、その我儘ぶりが相当なものだとわかる。

 ガリレオ王子は最初は武官を養成する貴族学校の騎士科に入学した。騎士科を志望した動機は『カッコ良さそうだから』というものだった。同じ騎士科の同級生にそう語っている。

 ところが一ヵ月も保たずに音を上げて、娘と同じ経営科に転科した。その動機は領地経営を学ぶ経営科が『楽そうだし女の子がいるから』というものだった。

 やはりと言うべきか、王子の学校での成績は低迷した。王族の留年は前例がなく、王室のみならず国の恥にもなりかねない。学校はガリレオ王子個人のために特別クラスを作り、教える方も必死の教育を施した。その甲斐があって、今日の卒業にこぎ着けた。

 学校の目的は、勉学の他に人脈づくりもある。コラルド王子もミケルド王子も、この学校で将来の盟友や側近を見つけている。普通は爵位の近い者同士で友達付き合いを始めて、互いの相性を確かめる。

 ところがガリレオ王子は子爵や男爵など低位の貴族の令息ばかりと付き合った。高位の貴族の令息とは距離を置かれたのでそうなったのだが、結果として王子のそばにいるのは、普段は王族と繋がりが持てない家の者ばかりになってしまった。もちろん将来の人脈としては役に立たない者ばかりだ。

 学校から報告を受けた国王夫妻は頭を痛めたらしい。早めにガリレオ王子の婚約者探しを始めた。

 ところがというか、やはりというか、婚約者探しは難航した。王室典範では王族と婚姻できるのは伯爵家以上の貴族と定められているが、王子の婿入り先は侯爵家以上が普通である。最初は侯爵家以上に絞って婿入り先を探したが、見つからなかった。すでに王子の評判は社交界で広まっていて、打診した全ての家から断られてしまったのだ。

 そこで伯爵家にも対象を広げたのだが、結果は変わらなかった。思い余った国王夫妻は外国の貴族にも打診しようとしたが、外務卿に「国際問題を起こしたいのですか?」と言われ、思いとどまったという。

 当時は子爵だった私は対岸の火事だと思っていたのだが、ある日寄親のレストリノ侯爵に呼び出された。


「貴殿には確か息子はいなかったな」

「はい。私の子供は娘のシルヴィア一人だけです」

「シルヴィア嬢は何歳だったかな?」

「十八です」

「では貴族学校に通っているのか。淑女科かな?」

「いいえ、経営科です。優秀な婿を迎えられればよいのですが、万一に備えて領地の経営を学ばせています」

「では婚約者はまだ決まっていないのか」

「はい。なかなか良縁に恵まれませんで」

「そうか、私も気にかけておこう」

「ありがとうございます」

「学校での成績はどうかね?」

「おかげさまで、入学以来、学年首席を維持(キープ)しています」

「素晴らしい。貴殿の教育と本人の努力の賜物だな」


 このような感じで侯爵閣下との会話は世間話に終止した。なぜ侯爵閣下に呼ばれたのか、私にはわからなかった。

 わかったのは、その一ヵ月後だった。突然王宮に呼び出されたのだ。

 不安に思いながらも急遽参内すると、謁見の間ではなく国王の執務室で、国王陛下と面会することになった。その場には王妃殿下、宰相閣下、式部卿も同席していた。いずれも一介の子爵では会う機会がほとんどない、雲の上の人たちばかりだ。


「そなたがスビアーナ子爵か」

「御意。陛下のご尊顔を拝し奉り、恐悦至極に存じます」

「堅苦しい挨拶はよい。今日はそなたに良い報せがあるのだ」

 陛下がそう言うと、式部卿が陛下のサインが入った羊皮紙の書類を私に見せながら告げた。

「ノルベルト・スビアーナ子爵、そなたを伯爵に陞爵(しょうしゃく)する」

「はっ、ありがとうございます」

 陞爵の理由にまったく心当たりがなく戸惑っている私に、陛下が声をかけた。

「レストリノ侯爵の推薦だ」

「そうでしたか」

「実はそなたに折りいって頼みがある」

「なんなりとお申しつけください」

「うちのガリレオと、そなたのシルヴィア嬢との間で婚約を交わしたいのだが……」

 うかつなことに、このときになってようやく私は、王妃殿下のご実家がレストリノ侯爵家であることを思い出した。

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