出会い
真っ白な部屋で目を覚ます。見たことのない天井が目の前に広がる。
(ここはどこだろう)
体を起こし、あたりを見渡す。どうやらここにはベッドと扉しかないようだ。
ベッドから降り、扉の方へ向かうためにベッドを降りると、ある違和感に気づく。
「?あれ、部屋の中なのに、、、草?」
床には所々に草が生い茂っていて、素足に草が優しく触れる。
変な場所だなと思いながらも、ここにいても仕方がないので誰か他に人がいないか探すことにした。
苔や草が生えている扉を開けると、そこには何もない真っ白な空間が広がっていた。
(右も左もわからなくなりそうだな)
そんなことを思っていると左から陽気な声が飛んでくる。
「あ〜!目が覚めたんだね!」
声の方を向くと自分と同じくらいの背丈の男の子が立っていた。男の子は僕の顔を見るなり勢いよく僕に抱きつく。
「久しぶり!ハルちゃん!調子はどう?体調は?どこも悪くない?ぼくのことわかる?」
男の子は捲し立てるようにそう質問し、心配そうに僕の目をジッとみつめる。
「だ、大丈夫。どこも悪くないよ。、、、でも、ごめん、、、えっと、、、君は、、、誰?どうして僕の名前を、、、」
確かに僕の名前はハルカだけれど、どうしてこの子は僕の名前を知っているんだろうか。男の子は一瞬目を見開いて驚いたような顔をした後すぐに僕の目を見て笑顔を作った。
「そっか、、、そうだよね〜ずっと眠ってたんだもん!仕方ないよね!じゃあ、自己紹介から始めようか!」
そう言うと男の子は二、三歩進んでこちらをふり向いた。
「ぼくの名前は咲樹!呼び捨てでいいよ〜好きな物は演劇と”ここのみんな”!よろしくね!」
「みんな?僕達以外にも人がいるの?」
そう聞くと咲樹はパッと満面の笑みを浮かべ、先程よりも高いテンションで答える。
「ここにはね!ぼくとハルちゃんを含めて皆で6人いるんだよ!」
「6人、、、」
そう呟いたとき、どこからか歌が聞こえてきた。
「!」
「歌声、、、?」
「咲真くんだ!奥の方にいるみたい。せっかくだから会っておいでよ!ぼくはやることがあるから、またね〜!」
さきはそう言って軽く僕の背中を押すと足早に反対の方向へと去っていった。
「あ、、、行っちゃった。」
まだ聞きたいことは沢山あったが、仕方ないと思いつつ歌声の方へと足を進めた。
歌声の方へ歩いていると段々と足元の植物が増えていることに気がついた。
(こっちの方は草が多いんだな、、、)
そう思いながら足を進めているとひらりと顔の横を何かが飛んでいった。
(あれは、、、)
「桜、、、?」
顔を上げると少し行った先に桜の木が一本だけ咲いているのが見えた。どうやら歌声もそこから聞こえるようだ。
桜の方へ足を進めるとさきとよく似た男の子が立って歌っていた。
「〜♪」
(すごく綺麗な歌声、、、でも)
その歌声は透き通っていて繊細でどこか悲しそうな歌声だった。
「〜♪、、、あ」
歌声の主はこちらに気づくと驚いたような顔で僕を見た。
「ハルカ、、、どうしてここに、、、」
「あ、えっと、ごめんなさい、歌声が聞こえてきたから、、、迷惑だったかな、、、」
男の子はハッとしたような顔をした後すぐに笑顔を作った。その表情はどこか悲しげで寂しそうなそんな顔をしていた。
「久しぶりハルカ、、、と言ってもここがどこなのかも僕達が誰なのかもわからないかな、、、僕は咲真。君の友人だよ。」
咲真は落ち着いた声でそう言うと桜の木にそっと手を当てた。
「ここは僕達だけの楽園、僕達しかいない世界なんだ。」
振り向いた咲真と目が合う。でもその瞳には何も映っていないように感じた。
「ねえ、ハルカ。君の記憶は何歳で止まってる?」
「え?」
そう言われ、頭を巡らせてみるが、15歳の頃の記憶と自分の名前しか思い出すことができなかった。
「11歳の記憶しか、、、ない、、、」
「、、、そう。家族のことは?」
「家族?家族は父さんと母さんと僕の3人で、、、っ!?」
突然頭痛に襲われる。
「!ハルカ!大丈夫?!」
頭の中に微かに映し出される誰かの怒鳴り声と泣き声。
(これは、、、誰の、、、)
「ハルカ!ハルカ!」
咲真の声が段々と遠のく。僕はそのまま意識を失った。
目を開くと桜の下にいた。どのくらい眠っていたのだろうか、体を起こし、あたりを見ても誰の姿も見えなかった。
(とりあえず、咲真くんを探そうかな、、、)
そう思い立ち上がった時だった。視界の端に人影が見えた。
「今の、、、咲樹?」
咲樹と思われる人影は少し駆け足で去っていく。
「あ!待って!」
僕は慌ててその人影を追いかけた。
咲樹と思われる人物は淡い空色の扉を開いて中へ入っていった。
(ここに入っていったよね、、、?)
「ひっ!」
ゆっくり扉を開くと、咲樹?は驚いたのか小さく声をあげる。
「だ、、、誰、、、勝手に入らないでよ、、、」
振り向いた人物と視線がぶつかる。どうやら僕が追いかけていた人物は咲樹ではなかったようだ。
「ご、ごめんなさい…咲樹かと思って...…」
咲樹によく似たその人物は僕の顔を見ると少し怯えたような驚いたような顔をした。
「咲…真?」
「え?」
咲樹によく似た少女は僕の顔を見ながら咲真くんの名前を口にした。
「えっと、僕はハルカ。ごめんね、咲真くんじゃないんだ……」
「ハル...くん?ハルくんなの?」
少女は驚いた顔をし、僕の顔をじっと見つめると少しだけホッとした表情を浮かべた。
「良かった…目が覚めたんだ...…」
少女は持っていた猫のぬいぐるみを少しだけ抱きしめ、そしてゆっくりと口を開いた。
「えっと、ハルくんは多分、私の事知らないよね...私は咲音。3番目の人格だよ。」
「?3番目の…”人格”?」
「あれ?…あ!ご、ごめん!なんでもない…忘れて!」
「あっちょっと!」
咲音は慌てて部屋を飛び出してしまい、部屋には机と僕だけが取り残された。
「どうしたんだろう…それに、”人格”って…?」
(...ここにいても仕方ないか、外に出てみよう)
部屋を出ようとした時、机の上にメモのような紙の切れ端を見つけた。
「なんだろう...これ」
紙の切れ端には音符と歌詞の1部のようなものが書かれていた。
(誰かの物かな...一応持って行っとこうかな)
そっと切れ端を仕舞い、僕は部屋を出た。
部屋を出て少し歩くと咲真くんが朝焼けのような色の扉の前に立っていた。走ったのか、少し息が上がっているようだ。
「ハ、ハルカ…よかった、ここにいたんだね。」
咲真くんは呼吸を整えると僕の顔を見つめる。
「どこも悪くなさそうだね。良かった。」
「うん、大丈夫だよ。咲真くんは心配性だね。」
咲真くんは「まあね」と答えると直ぐに上を見上げた。上に何かあるのだろうかと同じように上を見上げる、すると先程まで白いただの天井だった所には星空が広がっていた。そういえば辺りも少し暗くなっている気がする。
「夜が、来る。」
咲真くんがそう呟いた瞬間、大きく地面が揺れた。そして、何処からか不気味なピアノの音色が響き渡った。
『ペタッ』
足音のような音が後ろから聞こえた。振り返ると黒い手のような大きな物体が少し離れた場所にいる。
咲真くんは血相を変えて僕を見た。
「ハルカ、走って!」
「う、うん!」
本能があの黒い物はやばいと告げる。咲真くんの背を追いかけ青空の色をした扉の部屋に入る。
「ここに来れば大丈夫…」
咲真くんは息を潜めながら僕に告げる。
「ハルカ、ここで静かにじっとしてて。ここなら大丈夫だから。君はここで待ってて」
そう言うと咲真くんは扉を開け外へ出て行ってしまった。
「待って!咲真く…」
(あれ...また、眠く...)
ドサッ
僕はそのまま倒れてしまった。