元貴族の冒険者、ウマの合った女商人と初依頼をこなす
貴族の家族から追放され、ひとり街へと向かうクリス。
道中出会った女商人フィラと意気投合し、
街まで一緒に行くことに・・・。
生活のために、冒険者ギルドに登録をした彼に、
ギルド受付が勧めてきた初依頼の内容は・・・。
頂いたアイデアを使わせていただいての更新です。
ありがとうございました!
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「それで、明日は薬草採取っスか?」
「うん、採取場所は草原や森になるから、
今夜はもうまずいかなって」
同じ席で夕食を食べながら話すクリスとフィラ。
ちなみにここは、冒険者ギルド提携の食堂だ。
「冒険者カードがあれば、大盛りサービスなんですよ」
と、ギルド受付の女性レナに勧められて、クリスは食事に来たのだが。
「あ、早くも再会っスね」
と、さっき別れたばかりの女商人フィラとばったり。
せっかくなので一緒に食事を、というわけである。
会話の内容は、クリスが先ほど受けた依頼についてだった。
『薬草採取』、
新人の冒険者にはおすすめの依頼らしい。
「ま、定番っスね。
薬草を見分ける鑑定能力。
周りの魔物を察知できる索敵能力。
何より地味な作業を延々とこなす根気と、冒険者としての素質を見る試金石みたいなものっスから」
「はぁ・・・、そうだったんだ」
「ま、あくまでウチの想像っスけど」
「さいですか・・・」
冗談まじりの何気ない会話。
クリスにはそれがやけに楽しい。
果実水をちびちびやっていたフィラが、ふと思いついたように言う。
「あ、ならウチもついて行っていいっスか?」
「・・・はい?」
ちなみに、この後クリスが泊まる先は、
フィラの紹介で同じ宿となった。
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――で、翌日。
穏やかに晴れた空。
『平和』な『原っぱ』と書くにふさわしい、緑あふれる平原。
クリスはフィラと共に薬草の採取に勤しんでいた。
本で得たつたない知識を頼りに、
クリスは眼と鼻、さらには舌を使って薬草を判別していく。
「いいの?商人の仕事は」
「店を持っているわけじゃなし、
一日くらいどうってことないっスよ」
フード越しにケラケラと笑うフィラ。
「それに、クリス君と一緒にいれば、魔物の素材とか沢山手に入りそうっスから」
「さいですか・・・」
「あ、クリス君。
その薬草は育ちすぎっス。
葉の緑色が濃いっスから」
「あ、ありがと」
ひょっとして、フィラは自分の事を心配して一緒に来てくれたのだろうか。
うぬぼれと思いつつも、クリスはそんな気がしてしまう。
――ちなみに、昼休憩までにクリスは、六匹のホーンラビット、
十匹のビッグビーに襲われた・・・。
『平和』な『原っぱ』のはずだったのだが・・・。
短剣と木剣を駆使して、何とか倒したクリスに向かってフィラは言った。
「ポーションと毒消し要るっスか?
倒した魔物半分と交換でいいっスよ」
「ありがと・・・」
いやフィラさん・・・、
あなた自分だけ何か魔物よけの道具を使っていますよね、絶対・・・。
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昼になり、宿で作ってもらった弁当を食べる二人。
食べながらフィラは、質の良い薬草の基本的な見分け方や効果について説明してくれた。
「日当たりの良いところで育った薬草は、茎も日陰の薬草より太くて、葉っぱも分厚く育つんスよ。
出来たポーションも、日陰より日向のもののほうが効果が上になるっス」
「じゃあ、日陰の薬草は使えないってこと?」
「いいえ、日陰の薬草で作ったポーションは若干効果が弱い反面、日向のものより刺激が弱いんスよ。
血を流しすぎた場合やヨボヨボのお爺さんの怪我に使うなら、身体への負担が少ない日陰ポーションがおすすめっスね」
「そうなんだ・・・!」
「ま、普通はそんな風に分けてポーションを作ったりしていないんスけどね。
取った薬草は全部まとめて、ごった煮って感じだそうっスよ、あはは」
「そうなんだ・・・」
――などという、『薬』にならなくもない会話をしながら、二人は昼食を終えた。
「ところで、クリス君いいっスか?」
口元をふいたフィラが言う。
「さっき倒したビッグビーなんスけどね、
あれって一つの巣にいるのはせいぜい十数匹程度らしいっスよ」
「そうなんだ。
まあ、普通の蜂と違って、一匹一匹がネズミ並みの大きさだからね」
と、クリスも話題に乗る。
「さっき十匹の群れを倒したっスよね。
つまりあの群れの巣には、もうほとんど蜂がいないって事っスよ」
「・・・そうだね」
「ちなみに、ビッグビーのハチミツってすごく美味しくて貴重なんスよ。
商人ギルドか薬師ギルドに持っていけば、高額買い取り間違いなしっス」
「へ~・・・」
「・・・」
「・・・」
「巣、獲っちゃいましょうよ」
「やだよ!」
即座に拒否するクリス。
先ほどの戦闘で死ぬ思いをしたからだ。
それに対してフィラは、
「まあまあ、サービスで『毒よけ』をあげるっスから」
と、収納ボックスから薬瓶を取り出した。
「これを飲んでおくと、しばらく毒が効かなくなるんスよ。
これでいくら刺されても大丈夫!」
「でも痛いじゃないか!」
「『痛みよけ』もあるっスよ。
飲んでおくと、しばらく痛みが感じなくなるんス。
これで死ぬまで戦えるっスよ!」
「・・・」
結局、毒よけに痛みよけ、さらに戦闘後にポーション提供を条件に、
クリスはフィラと一緒に巣を探すことになった。
「大丈夫。
戦闘になったらウチも援護するっス」
「本当に~・・・?」
平原を抜け、一番近い大木の群生地へ入る二人。
ビッグビーの巣は、特定の大木に造られるからだ。
「でも、ここから巣を見つけるのは大変だね・・・。
どうするの?」
「まずクリス君。
この『魔物よけ』を身体にふりかけてください」
と、粉袋を取り出すフィラ。
「やっぱり使っていたのね、魔物よけ・・・」
と、ぼやきながら、服にその粉を付けていくクリス。
フィラはさらに、
先ほど仕留めたホーンラビットとビッグビーを一匹ずつ取り出す。
「ビッグビーは肉食で、仕留めた獲物の肉片を巣に運ぶんス」
「うん」
「そして、仲間の『匂い』に敏感なんスよ。
ビッグビーをつぶすと、その『匂い』は強く周りに広がるっス」
「分かった!
その『匂い』で仲間のビッグビーをおびき寄せて、
ホーンラビットの肉片を巣まで運ばせようっていうんだね?」
そして、巣まで道案内してもらおう、という作戦である。
という事で、木剣でビッグビーの死骸をつぶすクリス。
そして、その横にホーンラビットを並べて、
二人は『道案内』が訪れるのを待った・・・。
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「まさか、こんなスムーズにいくとは思わなかったっス」
たった今、数匹のビッグビーを倒したクリスに向かって、フィラは言った。
そして、二人は目の前の大木を見上げる。
かなり高い位置にある幹と枝の付け根には、牛一頭に相当するサイズの蜂の巣が出来ていた。
「あれが、ビッグビーの巣・・・」
「いや~、初めてみたけど・・・でかいっスね」
「中にまだ蜂が残っているかな?」
「どうっスかね・・・よっと!」
と、いきなり巣に向かって石を投げつけるフィラ。
カツン、と音がして巣に当たったが、中からビッグビーが出てくる気配はない。
「大丈夫みたいっスね。
じゃ、クリス君、お願いするっス」
「よし!」
と、クリスは『走行』のスキルを発動した。
大木の幹を垂直に走って登り、巣のある枝へ。
「じゃ、落とすよ~」
と、枝にまたがった状態で、クリスは巣の先端部、すなわち大木に張り付いている部分を短剣で斬り始めた。
ゴリゴリ・・・、
硬い・・・。
これは、下から石をぶつけるくらいでは、到底落とせなかったろう。
ボウガンの矢でも果たしてどうか・・・。
しばらくして、
「フィラ!」
と、クリスの合図と同時に、先端が斬り終えられ、巣は真下へと落下した。
「はいっス!」
と、そのまま巣は、待機していたフィラの『収納ボックス』にすっぽりと入り込む。
「やったっス!
こんな完璧な状態でビッグビーの巣が手に入るなんて・・・!」
と、興奮気味のフィラ。
それを見て、クリスも嬉しくなる。
静かな大木の群生地の中、二人のハイタッチの音が響いた・・・。
【つづく】
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!
そして・・・、
『思わぬ臨時収入を得たクリス。
その使い道は?』
あなたの想像・・・いえ、創造されたアイデアをコメント欄にてお贈りください!
簡単な一言だけで結構ですので・・・!
『装備品購入』とか、『教会へ寄付』とか、『個室付き浴場へ』とか・・・。
物語の続きを紡ぐためにも、
どうぞよろしくお願いします・・・!
――というお願いをお聞きくださり、
本当にありがとうございました!
最新話では新たなお題を募集中ですので、
どうぞよろしくお願いします・・・!