表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/3

2.流れていくよどこまでも

ブックマーク登録および星をくださった方、本当に、ほんっっっとうにありがとうございます!

反応があると、とっても嬉しいです…!!


「おい、殺人だってよ、警邏(けいら)を呼べって言ってるが犯人は捕まった?逃げた?」

「え?!犯人が逃げてるの?!大変、私たちも逃げなきゃ!!」

「そう言えば今日、領主様が視察に来られるんじゃなかった?早くこのことを知らせないと!」


 場の混乱は加速していく。

私は相変わらず噴水の中に座ったまま。


 もう誰とも目は合わないが、だからと言って相変わらずどうすれば良いか分からない。

とりあえず人の多いここから逃げる?

…いや、この大混乱の中で不自然に水を滴らせた私が飛び出したら、あまりの不審さに将棋倒しのキッカケになるか、容疑者としてリンチされるかの2択になりそうだ。


 とりあえず、噴水からそっと上がってスカートを絞ってみる。

雑巾絞りかと思うほどに、ジャバジャバと水が落ちる。


…これ…乾くか…?


 春の嵐が来るかもという天気予報を信じ、厚手の服を選んでいてよかった。

濡れそぼってはいるが透けてはいないし、痴女になることは無い。

不幸中の幸いだ。


あとはこの騒ぎが落ち着いたら、誰かにそれとなく声を掛けてみよう。

とりあえず交番のような場所が無いかを聞こう。


そう思ったのだが…。


「領主様?!領主様だって?!殺人犯が領主様を狙っているのか?!」

「きゃー!!領主様の馬車よ!!!」

「大変だ!領主様をお守りしなくては!!」


 ここで件の領主が登場。

しかもとんでも無い誤報により、結構な人数が領主の乗っていると思われる馬車に向かって走りだした。

その異様な雰囲気に馬は怯え、(いなな)きが響き渡る。

手綱を引かれ停止したものの怯えた馬たちは落ち着かず、忙しなく足踏みしたかと思うと高く足を上げた。


「何事だ!下がれ!!」

「馬が怯えて危険だ!!どうどう…」

「領主様、広場で何やら問題が!絶対に扉を開けないでください!!」

「総員、配置に付け!2名、詳細を確認に向かえ!!」


 護衛の方々が物々しく対応に動き出す。

本職ならこんな事件の対応にも慣れているだろう。

やっとこの混沌も収束するか、そう思ったのに。


「馬が暴れている!!」

「暴れ馬だって?!」

「大変だ、巻き込まれる前に逃げろ!!」

「ティラだ!ティラに向かって逃げろ!!あそこなら広いし安全だ!!」

「そうよ、ティラだわ!!坊や、ティラまで「おい、ティラが避難場所に決まったってよ!!」

「おい、ティラが避難場所に決まったってよ!!」


 いや、領主は馬車の中から出ていないし、一言も喋っていないのでは?


一方向に向かって走り出した群衆。

馬車が巻き込まれないよう、領主の護衛は密集形態で守ることにしたようだ。


二転三転しまくった伝言ゲームとその結末に唖然としていた私だが、護衛たちは慌てる様子でもなく呆れ果てたような顔をしている。

集団パニックによる将棋倒しや暴徒化など、気にすべきことは色々ありそうなだけに意外に思った。


 よく見れば、みんな走ってはいるがどこか整然としている。

要所要所に護衛とは別の制服を着ている人たちが立っており、群衆を誘導しているのがちらりと見えた。

あれが警邏(けいら)か。


もしかしたら以前にもこんなことがあったのかもしれない。

変に目立つ前に、私もこの流れに乗ってティラとやらに逃げてみるか。

後はどうにかなるだろう。


困ったときはとりあえず、近くに居る人を頼れば良い。

特に頼りになりそうな人を見繕って弱弱しく縋れば、大抵の場合は助けてくれる。

私にとって人に甘えて手助けしてもらうことは日常の一部、自慢できることではないが得意でもあった。


そんな他力本願な考えが災いしたのか。


なるべくガタイの良い男性の後ろに付き、目立たないように…と小走りになったところで、ガシィッと後ろから上着を掴まれてつんのめる。

そのまましがみ付かれ、恐怖のあまり硬直した。


「たたた助けてくださいぃぃ!

なんですかこれ、僕はどうしたら良いんでしょうぅぅぅ?

みんなどこに向かって走ってるんですかぁ?!

これ、走らないといけないんですかぁぁぁ?

お願い、置いて行かないでぇぇぇ!!!」


私より背の高い優男が、そう涙目で訴えてきた。


 強張った身体が一気に脱力する。

私との身長差は30cmほど、ちょっと前を見れば頼りがいのありそうなガタイの良い兄ちゃんが走っているのに、なぜあえて不審な姿の私にしがみ付いてきた?


やんわりと手を外し、落ち着かせようと口を開いた。


「知らんわ!!

私に聞くな、置いて行かれたくなかったらさっさと走れ!

何が起こっているかなんて、私が一番聞きたいわぁ!!」


違った。

「よく分かりませんが、みんなと一緒にティラまで逃げましょう」と無難に声を掛けようとしたのに。

私の口から出たのは、全く違う言葉だった。


 燦燦と陽光降り注ぐ空の下。

意外にも冷静に状況分析できていると思っていた自分自身が、実はストレスの極致に達していたのだと、身をもって自覚した瞬間だった。


主人公(名前はまだ無い)は、まだ若い子泣き爺を手に入れた

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ