1. 流されるままの人生は、妙なところに着地しました
初投稿です。
いままでは読む専門でしたが、一念発起して投稿です!
みなさま、お手柔らかにお願いいたします。
お楽しみいただけましたら幸いです!
流されるままに生きてきた。
自主性なんてものは母の胎内に置き忘れて来たのか、薄ぼんやりとしたまま小学校生活を終え、保護者である姉に勧められるがまま私立の女子校へと進学、そのままエスカレーターで高校へと進んだ。
そしてこれまたみんなが言う「まだ将来どうするかなんて決まって無いし?」という言葉にそれはそうだと頷き、無難な4年制総合大学へと進学したのだ。
その大学受験だって、特に苦労はしていない。
だって、受験シーズンに突入した時点の成績でもA判定となる大学を選んだのだから。
私の歴代の通知表には、ことごとく「自主性を育みましょう」という文言が記されていた。
このままではダメだという自覚はある。
ありはするのだが、この薄ぼんやりとした人生の記憶が始まる小学校中学年ごろから、どうしてだか努力ややる気といったこととは縁がなく、縁を持つ気も起きず、目を背けて来てしまった。
きっと根っからの怠惰なのだろう。
小柄で「カワイイ」と言われる容姿と末っ子気質からか、甘えるように友達や大人を頼るとみんな協力してくれた。
今までこれといった問題が起こらなかったのは幸運なことだとは思うし、いつかはこの性格が原因で難題に直面するだろうとは思っていた。
思っては、いたのだが。
神様、何もこんな特殊な課題を準備しなくても良いではありませんか。
私はいま、どことも知れない噴水の中で、頭から水をかぶって呆然としている。
燦燦と明るく降り注ぐ太陽、キラキラと光を受けて私の頭上から景気よく降り注ぐ噴水、その噴水を中心に赤煉瓦の素朴な家屋が広がる町並み、そしてその町並みを賑やかに行き交う人、人、人…。
夢だと思うには春先の水は冷たく肌に刺さるし、何ならこちらを見て目を丸くする人の顔を見たとき「私の妄想力でこんな彫の深い顔を思い浮かべられるはずが無い」と思い知らされたのだ。
さりとて、私にとっても突然の珍事。
何が起こったのかも分からないうえに、さすがにこの状況が街の人々にとって不審者以外の何者でもないことは分かる。
腰から剣を下げているいかにも警護職な人も見えたことから、本気で不味いなとは思ったのだ。
流されるままで目立つことなど論外だと思って生きてきた私には、いったい何をどうすれば良いか皆目見当も付かず、相変わらず濡れネズミのまま固まっていただけなのだが。
そう、このときにミラクルが起きたのだ。
神様の思し召しかもしれない。
それが良いのか悪いのかは分からないが。
だってそれは、ミラクルはミラクルでもどう考えたって「珍事」に分類されることだったから。
始まりは、幼い男の子の声だった。
「おかーさんっ!おかぁさんっ!!
見て見て噴水!!
女の子が…」
現在私が不本意な水浴び中の噴水があるのは、どうやら広場の中央。
一定距離を空けて囲むようにたくさんの店が出ているなか、果物を売っている店にその子は居た。
籠に入れられた果物はツヤツヤと瑞々しく、それを眺める人々で賑わっている。
そして、そのなかで退屈そうに立っていた男の子が真っ先に気付き、私を指さしたのだ。
大きな声でお母さんに呼びかけながら、隣のスラリと背の高い女性のスカートを握り、引っ張っている。
だがスカートを握られた女性は困惑した顔で、噴水に居る私ではなく全身で珍事を訴えるその男の子を見ていた。
なんだなんだと少年に視線が集まるなか、隣に居た気弱そうな男性が「こら、その人はお母さんじゃ…」と窘めるようにかけられた声に、大音量の怒声が重なる。
「ぁぁぁあんた!!また浮気?!
しかもこの子に『お母さん』とまで呼ばせているの?!
二度目は無いって、あれだけ言っただろうがぁぁぁ!
この最低男ぉぉぉ!!!」
憤怒の形相で店奥から飛び出してきた恰幅の良い女性が、抱えていたスイカを男性の頭部に叩きつけた。
響く鈍い音。
砕けたその実から真っ赤な果肉が、汁が、破片が飛び散る。
「うわぁ、これはまるで…」と私が思ったところで、ざわめきが広がり始めた。
「え…何事?」
「血だ!頭から、血と…肉と骨も飛び散っているぞ!!」
「大変だ!誰か医者を!!」
「いや、警邏だ!!誰か警邏を呼んで来い!!!」
「生きてる?!ねぇ、この人生きてる?!」
まるで殺人現場のようだ、やっぱりそう思ったのは私だけでは無かったようで。
「何があったって?!」
「浮気男が殺されたようだぞ!」
「あんなに血が広がって…」
「子どもの前で何てこと…男の子、まだあんなに小さいのに…」
そのざわめきは瞬く間に伝言ゲームと化し、別の店に居た人々にまで広がっていく。
わらわらと集まって来た人々で、噴水前はもはや人の海と化していた。
主人公(名前はまだ無い)は、ハイテンションな異世界人たちに付いていけない