幕間 壮馬のトラウマ①
壮馬君の過去①です。
俺は机に肘をつき窓を眺めていた。
天気は快晴。梅雨も明け、本格的に夏が始まろうとしていた。
初夏らしく蝉の鳴き声がBGMとして聞こえてくる。
「なあ、真白は昨日のテストどうだった?」
彼はこちらに向かって話しかけていた。
清潔感のある髪型に整った顔。
相変わらず笑顔がまぶしい。
友人の小谷だ。
クラスのカースト上位にもかかわらず俺みたいなヤツにも分け隔てなく話しかけてくれる。
彼がみんなから好かれている理由だった。
彼とは1年生の頃に席が隣だったということで話すようになった。
1年もたてばその性格の良さからカースト上位に君臨していたが俺はその位置にはいけなかった。
別に陰キャとかいうわけではない。
誰であろうと普通に会話できるだけのコミュ力は持ち合わせていたし勉強も運動もそれなりにできていた。
まあカースト上位にいても人間関係がめんどくさそうだし、俺には今のポジションが合っていた。
それにしても哀しいかな人間という生き物は他人と比較して優劣を競い、
大勢から優であると認められれば自然と高い地位に行き、
劣と認められれば低い地位に成り下がってしまう。
ましてや自己肯定感の低いヤツなんかは自分で劣という十字架を背負って生きているようなものだ。
結局人間は比較しながらでないと生きていけない。
中学生活も2年目、俺は14年間の人生からそんな結論を導き出していた。
「真白? 聞いてるか?」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事をしてたんだ」
「めずらしいな君が物思いに耽るなんて」
「そんなたいしたことじゃないよ。人生について考えてたんだ」
「それ結構大層な話じゃないか?」
小谷はあきれたような表情で俺を見下ろす。
いつものように会話を楽しんでいた俺たちだったが、ふとクラスメイトの会話が耳に入ってきた。
「おい、芦村。ちゃんと金持ってきたんだろうな?」
「ご……ごめん、持ってこれなかった」
「あ!? てめえふざけてんのか?」
教室の隅で行われる怪しい取引。
こういうのは普通屋上とか校舎裏でやるものじゃないだろうか。
なんて思いつつもその様子を眺める。
芦村と呼ばれた男子は小柄でおどおどしていた。
いかにも小心者といった感じだ。
一方で芦村とやり取りをしていたのは竹原。
筋肉質で大柄な体躯はそのガラの悪さも相まってより一層凶悪さを際立たせていた。
典型的なヤンキーと金を巻き上げられる生徒の図がそのままの形でそこにあった。
「小谷、あれ」
俺は芦村たちを一瞥し、小谷の視線を誘導した。
彼らがやっていることに気が付いたらしい小谷は迷ったような素振りを見せながらも肩をすくめてみせた。
「やめておけ、真白。竹原は悪い噂をよく耳にする。あれに関わるとロクなことにならないぞ」
「でも……だからってあいつを見捨てておくのかよ?」
「……しょうがないさ。俺たちただの中学生には何もできない」
何を言ってるんだこいつは。相手も同じ中学生だろ?
話せばなんとかなるはずだ。
とにかく行動を起こさないと。
彼らの元に向かおうと椅子から立ち上がった俺は小谷に再度止められる。
「真白。手を出さない方がいい。これは友人としての忠告だ」
「目の前でいじめられているヤツがいるのにただ見とけってか?
お前がそんなに薄情なヤツだとは思わなかったよ」
「おい! 真白!」
――目が覚めた。
葵ちゃんの看病をしながらいつのまにか寝てしまっていたようだ。
服は汗でぐっしょり湿っていた。
久しぶりに嫌な夢を見たな。
あの日から俺は……
もしあの時俺が小谷の言うことに従っていたらあんなことにはならなかったのかもしれない。
俺の人生の中で最も憂鬱だった日々。中学時代。
少し成長した今なら小谷の考え方もわからなくもない。
でも――
「なあ小谷。お前は成長した今でもあの時の判断は正しかったと思っているのか?」
もちろん答えなど返ってくるはずもなく、静まり返った室内に俺のため息だけが残った。
ここまでご覧いただきありがとうございます。
ひとまず序章が終了しました。
次章からは壮馬君が葵ちゃんと親睦を深めていくようです。
※壮馬君は葵ちゃんをお姫様抱っこで連れ去ったりと色々ぶっ飛んだ行動を起こしていますが現実であんなことをやると普通に捕まるのでフィクションの中だけに留めておきましょう。
今後ともよろしくお願いいたします!