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最終話 俺があの時助けなければ

日曜の昼下がり。今日は一段と蒸し暑い。

木々の隙間から聞こえる蝉の声が共鳴し合い1つの騒音を生んでいる。

そんな犬すらも散歩を嫌がるような夏のある日。

俺は冷房の効いたリビングで呑気にアイスを食べていた。


「いやーこんなクソ暑い日にキンキンに冷えた室内でアイスを食べるなんて幸せだな」


手中の抹茶アイスもなくなりかけた頃。それは突然鳴り響いた。


ピンポーン


「あれ? 何か頼んだっけ?」


荷物は頼んでないはず。だとすると友人?

いやいや、黒瀬が来るはずもないし。

大家さんかな? 家賃はちゃんと払ってるはずだけど。


ピンポーン


「はーい」


玄関を開けるとそこにはもう出会うはずのない人物が立っていた。


「お久しぶりです、真白さん!」

「君は……!」


背丈は記憶の中のものよりだいぶ大きくなっており、心なしか声も少し落ち着いたような感じがする。相変わらずというべきか、顔はそこらへんのモデルや女優と比べても遜色ないくらいに整っている。


「葵……だよな?」

「覚えててくれたんですね! 嬉しいです!」

「忘れるわけないだろ。あんな濃い思い出」

「ふふふ、それもそうですね」

「外は暑いだろう。とりあえず上がるか?」

「そうさせてもらいますね」


冷房の温度を下げ、お茶を出す。

流石にこの気温の中ここまで来るのは大変だったようで、葵はハンカチでしきりに汗を拭っていた。


「ありがとうございます」

「それでどうして急に」

「特に理由はないんですけどね。私も今年から大学生になったんでご報告しとこうかな、と」

「もう大学生なの!?」


時の流れは早いとはよく言ったものだが、それにしても早すぎないか?

それから俺たちは数年ぶりの再会ということもあり話に花を咲かせた。


「最初はコンビニの前で出会ったんだっけ」

「あの時は本当に不審者かと思いましたよ。飲み物を貰ったかと思えば突然抱きかかえられるし」

「ははは、結果的にそれで捕まりかけたから笑えないよな」

「ほんと、真白さんは変なところで行動力があるんですから」


本当、今思い返せばものすごい行動力だよな。若気の至りというかなんというか。


「それから2人で温泉旅館にも行きましたよね」

「懐かしいな。人も少なくて、いい旅館だったよな」

「……今だから聞きたいんですけど、あの時見ましたか?」

「え? 何を?」


何のことを言っているんだろう。もしかして霊的なものがいたとか?


「あの時確か温泉で気を失ったんですよね」

「そうだな。俺のせいでもあるんだけど。それで、何を見たかって?」

「ここまで言ったら察してくださいよ」


旅館、温泉、見た、そして目の前の葵のちょっと恥ずかしそうな表情――はっ! そういうことか!


「すまん、正直見た。でもあれは不可抗力というやつで……」

「やっぱり見たんですね! ……真白さんのえっち」

「いや、あの時はとにかく溺れないようにしようと必死だったからそんなじろじろと見てないよ!?」

「ふふふ、冗談ですよ。ただずっと気になっていたので聞いてみただけです」


そう言って葵はウインクを飛ばしてきた。

まあ確かに温泉に浸かっていたと思ったらいきなり布団の上に寝かされていた――なんて何があったのか気になるよな。


「ところで今真白さんは何をしているんですか?」

「まだ大学で勉強しているよ」


あれから俺は自分の進路に向けて真剣に考えた。

その結果学費を賄うために1年休学することにした。

そして今は児童福祉司を目指して勉強中だ。

理由は言うまでもないが葵たちのような子どもを救ってあげたいという思いがあるからだ。


「私も頑張らなきゃですね」

「葵には可能性があるんだ。努力次第で何にでもなれるさ」

「そうですかね」

「ああ、そうさ。ところで小春は元気にしてる?」

「元気ですよ。もう高校生なんですけどね」

「ほんと時の流れは早いよな。ってことは来年……いや、再来年? 受験だよな」

「そうですね」

「そっか」


彼女たちに手を差し伸べてすぐの頃はやっぱり俺なんかが助ける必要なんてなかったんじゃないかと悩んだりもした。でも、今目の前にいる少女の表情、そして何より一緒に過ごしてきた時間を考えると”俺があの時助けなければ”今の彼女たちの姿はなかったんだと思えるようになった。結果として俺たちは過去と決別できたわけだし他人を助けるか迷うくらいなら行動に移してみた方がいい。行動に移すことで損することもある。でも自分の行動で幸せになれる人も少なからずいるんだと気づけた。


もちろん手を差し伸べる時には相応の覚悟も必要だ。自分が損するだけならまだマシかもしれない。それに加えて周囲の人にまで損をさせてしまったら……これも今回の出来事で学んだことだ。


「真白さん」

「ん、どうした?」


当時と変わらないまぶしい笑顔で笑いかけてくる葵。

その姿を見ていると何とも言えない感情に包まれる。


「これからも私たちと仲良くしてくれますか?」

「もちろん」


その問いに対して俺は即答した。

こうして俺の、そして夕凪姉妹それぞれの暗い過去との決別はひとまず幕を閉じた。


何はともあれ家出少女を拾ったら俺の人生が好転した……と言える、のか?


ここまで読んでくださってありがとうございました!


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