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第14話 紫雲先輩の過去

小学生時代の私は引っ込み思案で常にオドオドしていた。

そんなだから友達なんてできるはずもなく、1人図書室にこもっては本を読み漁るような生活を送っていた。


6年生になり委員会決めが行われた。私はもちろん図書委員会に入った。

そして……そこで運命の出会いを果たしたのだ。


最初彼を見かけたときは周りと変わらない普通の男子だと思っていた。

クラスの明るいリーダー格というわけでもなく私のように1人ぼっちというわけでもない。

まさに平凡な男の子だ。


どうやら彼はじゃんけんで負けて図書委員会に入ることになったようだった。

尤も本人から直接聞いたわけではないが。

この歳になっても私の引っ込み思案な性格は治っていなかった。


彼とは当番が一緒ということもあってよく絡むことになった。

といっても彼が一方的に話して私が反応をするというだけだったけど。

もしかしたら私が1つ年上だったから気を遣ってくれていたのかもしれない。

それでも当番の日が来るたびに色々な話をしてくれてとても楽しかった。

いつしか当番の日が来るのを待ち焦がれる自分がいた。


ある日、私は勇気を出して彼に相談をしてみた。

どうすればこの性格を治せるのか。彼みたいに相手を楽しませられる人になれるのか。

彼は突然の相談に驚いていたようだったけど、真剣に考えてこう言ってくれた。


『紫雲さんの性格も素敵だと思うよ。でも……変わりたいなら少し勇気を出して思ってることを伝えてみたらどうかな。俺でよければ練習相手になるから』と。


今思えば小学生らしい回答。でも練習相手になってくれると言ってくれたことがなによりも嬉しかった。


それから私は彼と会話の練習を始めた。最初は何を喋ればいいのかわからなかったけど彼はそんな私を優しく見守ってくれていた。そして毎回彼なりのアドバイスを伝えてくれた。


練習の甲斐あってか卒業前にはだいぶ話せるようになった。まだクラスの子と話すときには少し緊張するけど以前と変わった私の姿を見て色々な子が話しかけてくれるようになった。


その様子を伝えると彼は自分のことのように喜んでくれた。私は練習をするうちに次第に彼に惹かれるようになったのだ。とはいえ当時は小学生。あの気持ちが恋かと言われるとちょっと違うような気がする。


彼と会話の練習をしてクラスメイトとも会話をする。そんな日々を過ごすうちに学校に行くのが楽しくなった。これもすべて彼のおかげだ。

同時にもう少し早く出会えていたらとも思った。



卒業の日。彼にお礼を伝えようとしたけどどうやら彼は欠席していたらしかった。胸の奥にモヤモヤとした気持ちを残しながらも中学生になれば出会う機会があるだろうと思っていた。でもとうとう彼を見つけることはできなかった。


私の人生を変えるきっかけとなってくれた男の子。

そんな彼の名前は――真白壮馬くん。



それから数年が過ぎ、大学生となった私はバイト先で運命の再会を果たした。

なんと真白くんが同じバイト先に入ってきたのだ。

顔つきも身長も記憶の中の少年とはだいぶ変わっていたけど優しい雰囲気は変わっていなかった。でもなぜだか当時の瞳の輝きは失われてしまっていた。


あれから一体何があったのだろう。あんなに純粋で面白くて何より優しい彼をここまで変えてしまうほどの出来事。とても気になったけど直接聞くなんてことはできなかった。

おそらく向こうは私のことを覚えていないだろう。

彼にとってはただのバイト仲間だから。


彼はいつもバイト先に来ては軽い挨拶を済ませ、黙々と仕事に取り組むだけだった。機械的な彼の様子を見ていると人生がつまらなさそうに思えてしまう。


それでも昔彼に教わった通り勇気を出して話しかけてみた。

以前のように……とはいかないけれど今ではそこそこ会話をする関係にはなっていた。


そしてついにデートの約束を取り付けることに成功した。


真白くんのお礼に便乗する形にはなったけどあの場面でデートにでも行かない?

と言うのはかなり恥ずかしかった。


普段は頼りになるお姉さんという理想像(イメージ)を掲げてそれらしく振舞ってきたけど根本的な部分は未だに変わっていないのだ。恥ずかしがり屋で内向的な性格はどうあがいても変えることはできなかった。



いよいよデート当日。最初に見た映画はまるで今の私の心境を表しているかのようで思わず涙が零れてしまった。そのせいで真白くんをかなり心配させてしまったことは反省しないと。それから服を買ったり、ご飯を食べたり、ゲームセンターに行ったりととても楽しい1日だった。

帰り際、私は決意を固めた。真白くんに私のことを覚えているか聞こうと思ったのだ。


「ねえ、真白くん。あなたは……」


言葉を紡ごうとしても声が出ない。まだ恐れているんだ。

“あなたは私のことを覚えているかしら”

たったそれだけなのに……彼の口から覚えていないと告げられるのが怖かった。


結局その日は聞くことができずに解散した。

家に帰ってからもモヤモヤとした気持ちは晴れることなく喜びと後悔の感情を交えたまま眠りにつくのだった。


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