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第15話 温泉旅館

ひょんなことからペア宿泊券を手に入れた俺たちはとある温泉旅館を訪れているのだった。


目の前には豪華な木造の建物がある。屋根は青く塗られており、玄関にはこれまた青い暖簾がかけてある。周囲からはもくもくと白い煙も湧き上がっていた。


「着きましたね」

「結構遠かったね」


そう、駅から数km歩いた俺たちは目的の温泉旅館に着いたのだった。

旅館の風格に気おされながらも玄関の引き戸を開けてみると中は程よい暖色の蛍光灯で彩られており、安らぎを感じさせるような雰囲気が漂っていた。


「いらっしゃいませ」

「こんにちは。予約していた真白ですけど」

「真白様ですね。ようこそおいでくださいました」


宿泊券を手渡し、プランを確認して施設の説明を受ける。

それから女将さんに室内まで案内してもらうことになった。


「こちらがお部屋になります」


ふすまを開けた先にはテレビなんかでしか見たことないようなそれはそれはきれいな空間が用意されていた。


「「うわぁ」」


葵ちゃんもこの空間に驚いているようだ。

そんな俺らの様子を見て女将さんが微笑む。


「ご兄妹ですか?」

「ええ。そうです」

「いいですねぇ。仲睦まじいご様子で。それでは私は失礼いたします」

「ありがとうございます」


そう言い残し女将さんは部屋を出ていった。

兄妹か。最近よく言われるようになったがやっぱり傍から見るとそう見えるのかな。


「むぅ、今度は兄妹ですか? 従兄妹だったり兄妹だったり忙しいですねぇ」


葵ちゃんが目を細めてきた。俺たちの関係性に対して不満があるようだ。

まあそればっかりはしょうがないというか、さすがに拾ってきましたとは言えないしな。


「どうしたんですか? また悩んだような顔して」

「いいや、何でもないよ」


部屋に飾ってあった時計を見ると時刻は14時。

今から温泉にはちょっと早すぎるよな。

昼も食べてなかったし、近くを散策してみるか。

俺は近くをぶらついてみるように提案し、葵ちゃんも賛成してくれた。


冬休みということもあってか温泉街にはちらほらと人がいる。

それでも俺が思っていたよりも少ない人数だった。

この旅館の名前もこの間初めて聞いたし、なんならこんなところに温泉があったなんて知らなかった。やっぱり隠れスポットというか、知る人ぞ知る秘境の地みたいな存在なのかな。

もしそうだとしてなんであの商店街がここの宿泊券を扱っていたのかは謎だが。


ともあれ俺たちは出店で串を食べたり、饅頭を食べたりと温泉街を満喫していたのだった。


「真白さん、おいひいれふねぇ!」


饅頭を口に含みモゴモゴさせながら感想を言う葵ちゃん。

ほっぺたを膨らませた姿が頬袋にどんぐりを詰め込んだリスみたいでかわいい。


「こらこら、食べながら話すのは行儀が悪いよ」

「ごめんなさーい、おいしくてつい」

「うん。確かにこの饅頭はおいしいね」


俺たちが口にしていたのは黒糖饅頭だ。茶色のふわふわ生地に甘すぎないあんこがちょうどいい。ちなみに俺はこしあん派だ。やっぱりあんこといったら舌触りのいいこしあんだろう。異論は認める。


そうして一通り温泉街を散策した俺たちは程よい疲労感と共に旅館に戻ってきていた。

今日は結構歩いたしさすがに俺も疲れてきたな。


時刻は16時。温泉に入るにはちょうどいいくらいの時間か。


「葵ちゃん、疲れただろう? そろそろ温泉に行ってみない?」

「そうですね。ちょっとはしゃぎすぎたかもしれません」


葵ちゃんは言葉通り結構疲れていた。なんだか足取りも重そうだ。

着替えなどの準備をしているとコンコンとふすまがノックされた。


「はーい」

「失礼します」


入ってきたのは一番最初にこの部屋に案内してくれた女将さんだ。

どうしたのだろうと思っていると


「先程お伝えし忘れておりましたが当旅館には家族風呂がございます」

「家族風呂ですか?」

「はい。家族風呂は混浴となっておりまして、今の時間帯ですとちょうど空いております」

「こ……こ、混浴!?」

「ええ。家族風呂ですから安心して入れるかと」

「わかりました。教えてくださってありがとうございます」

「では失礼いたします。ごゆっくりどうぞ」


去り際、なぜか女将さんが笑みを浮かべていたが気にしないことにしよう。


「……だそうだけど、さすがに俺と一緒に風呂は嫌だよね」


当たり前だ。これまで共同生活を共にしてきたとはいえ、一応は年頃の男女であるわけで。

しかも女将さんには勘違いしてもらっているけど実際は家族じゃないし。

別々の風呂に行くのは至極当然の結果だった……はず。


「ちょっと恥ずかしいですけど、私は真白さんとなら入ってもいいですよ」

「えっ?」


葵ちゃんは頬をピンクに染め、もじもじしながら衝撃的な発言をする。

俺と一緒に入ってもいい……だと!?

普段は悟られないように極限まで理性的である俺だが、一応男として女の子の裸は興味があるわけで……って何考えてんだ俺!

落ち着け。いつものごとく理性的であれ! そうだよここは年上である俺が断らなきゃいけない場面だろ?


女子中学生と混浴? 許されるわけがない。兄妹ならまだしも他人なんて。

でも葵ちゃんは許可してくれているし、どうせ捕まるならいい思いをしてからの方が……


脳内で天使と悪魔が激戦を繰り広げている。漫画やアニメなんかの比喩表現としてよく使われていたそれが俺の脳内でも繰り広げられているなんて。



激戦の末、出した答えは――


「よし、家族風呂に行こう。空いてるらしいからな」


俺の理性! もっと頑張れよ!!


そうして俺は最低な男に成り下がったのだった。


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