500円で何でもしてくれるお姉さんは100万円溜まる貯金箱をいっぱいにしたい。
テレホンカードや厚紙を入れて振ると500円玉が出てくるぞ!
1枚だけ出すならセロハンテープを入れるのがオススメだ!
良い子の皆は新聞の集金とかで「500円無い!?」って時以外は真似するなよ!?
──ピンポーン
「エミリさーん! 何か食わしてくれー」
──ガチャ……
「むぅ……また来たのか?」
「へへ、エミリさんの飯食いに来ましたッス」
と、俺は五百円玉をエミリさんに見せた。
「ま、入んな……」
「ッス、お邪魔しまーす」
タバコを咥えながら出迎えてくれた大人びた女性。ヨレヨレのシャツに痛んだジーンズ。とても肉感的な体型をより強調させる出で立ちに、俺は無駄な期待感が止まらない。
「ハンバーグ定食が良いッス!」
「ばか、んなもんねぇよ」
ぶつくさと文句を垂れながらも、エミリさん(本名、川崎愛美璃)は冷蔵庫から何やら食材を飛び出した。
「インスタントラーメンでいいか?」
「えーっ!」
「カニ入れるぞ?」
「インスタントラーメン大好きです!」
コンロに鍋をセットし、お湯を沸かし始める。エミリさんは野菜を切り始め、俺は手持ち無沙汰から部屋を物色し始めた。
エミリさんの部屋はあまり生活感が見られず、流行りのCDやアイテムなんかが全くない。唯一変わった物と言えば棚の上にあるアルミの100万円が溜まる貯金箱くらいだ。エミリさんに飯を食わせて貰うときは、ココに500円玉を入れるのが決まりだ。
エミリさんが一体何の仕事をしているのか俺には想像も着かないが、こうやって飯を作ってくれるだけありがたい。
「……エミリさんは彼氏とか居ないんですか?」
俺は好奇心から思わずとんでもない事を聞いてしまった。そんな事聞いて万が一彼氏なんか居たら傷付くのは俺なのに……。
「居たら土曜の昼間にこんな事してねぇよ……」
「……作らないんですか?……彼氏」
俺はエミリさんに彼氏が居ないと知った安堵も束の間、再び地雷を踏み抜こうとしてしまう。何故学習しない俺!
「……昔はな……居たんだよ」
「えっ!?」
俺は思わずエミリさんの方を振り向いた。エミリさんはムチムチなジーパンでリズム良く野菜を切り続けている。
「その100万円が溜まる貯金箱は、奴との唯一の思い出の品さ。これに貯金して結婚資金の足しにしようって……」
「け、結婚んん!?」
俺は視線が泳ぎ心臓がバクバクと高鳴り慌てふためいた。あのガサツで男前なエミリさんが結婚だと!? あ、ありえない……。
「……でもな。死んじまったんだ…………」
「…………え?」
「別れは突然だ。通勤用のバイクは大型トラックの下敷きになって、奴はもう誰だか分からない位にグチャグチャになっちまった……」
「……………………」
──グツグツ……
水を打ったような静けさに、野菜を茹でる音が聞こえ始める。俺は何と声を掛けたら良いか分からず口を開いたり閉じたりを繰り返すだけしか出来なかった。
「ま、昔の話さ」
「…………」
長い沈黙の後、出来上がったラーメンがテーブルへと運ばれる。麺の上にカニの足が載っておりとても豪勢だ。
「新しく越してきたお隣さんに毛ガニ貰ったんだぜ? タイミング良かったなお前」
「……いただきます」
俺は豪快に麺を啜り、カニの足に食らいついた。
「どうだ? 美味いか?」
「メッチャ、インスタントです……」
「ククク……だろうな」
「また来ても良いですか?」
「金があるならな」
「アレが貯まったらどうするんですか?」
「……さぁな。決めてないな」
「もう一つ貯めませんか?」
「あ?」
「俺との貯金箱です。それが貯まったら俺との結婚資金にしましょう!」
「バーカ。ガキが何を言ってんださっさと食え」
「俺、毎日来ますから」
「それなら五年半だな」
「三食エミリさんの飯を食べます」
「二年弱で貯まるな」
「最初から満杯にして渡しますから」
「やめろやめろ」
ケラケラと笑いながらラーメンを啜るエミリさん。何処となく寂しげで護ってあげたくなるような女の子の顔をしていて、俺はその日の夕方貯金箱を買ってありったけの500円をぶち込んだ。そして夜にエミリさんに手渡すと、エミリさんは「ホントにバカだなお前は……」と涙ながらに俺の頭をクシャクシャと撫でてくれた。
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普段は女騎士やらBLやらアホコメディを書いておりますので、そちらも読んで貰えると嬉しいです。




