第7話 閃光のクーネ
「学園生徒の諸君、私は今回の掃討戦の指揮官のラルバだ。」
赤い軍服を着たいかにもお偉いさんといった威厳が回りに醸し出している。その他に緑、青、白といった階級ごとに色で分けられている。
「我々、連合軍は先の大戦より魔物の掃討戦をおこなっておるが、その訓練として君達にも魔物の殲滅を手伝ってもらう。詳しいことは、聞いていると思うが、これは、遊びではない。命のやりとりだ。そこを理解して訓練をして欲しい。以上。」
ラルバ指揮官の話が終わると生徒達はグループごとに集まり、自分の持ち場に向かっていった。
「つってもさ、雑魚しかいないんだろ?」
ロイドは走りながらカイムに問う。しかし、
「油断大敵…ロイド集中。」
ミーナが回りを気にしながら、ロイドの集中を促した。
「わかってるよ…」
山岳地帯の道のりだが、さほど険しくはない。入り組んでいる訳でもないので、戦いやすい。
「持ち場についたぞ。各自臨戦体勢をとって待機。」
カイムが全員に指示を出すと、
「ルーシェ、例のやつを彼処の入口に設置してくれ。」
「了解。」
カイムとルーシェは洞窟内に気配を多数感じたらしく、入口に魔方陣を敷いて、罠にはめるという作戦に出たようだ。
「―設置完了したわ。」
「よし…ルーシェは離れて、自分の待機場所に。」
他の皆は、息を殺し、気配を消した。
カイムは今回の大半の敵が獣系だということを事前に知っており、生肉を持ってきておいた。
(来い…)
その時、洞窟から大勢の狼に似た魔物が出てきた。
「掛かったな!」
すると魔法陣が発動し、無数の雷撃が広範囲に迸る。
「オオーン…」
雄叫びか断末魔か分からないが、響き渡る。
「今だ!殲滅するぞ!」
「了解!」
カイムの号令と共に、敵に向かって駆け出すリオン達。
「"業焔剣"!」
リオンの剣、"シャムシール"に凄まじい炎が纏い、敵をなぎはらう。
「神凪流奥義、"雷鳴剣"!」
刹那の剣技により数十体は吹き飛ばされた。
「…自在剣"フリーダムウェポン"変形、"ロンギヌス"」
ミーナの武器は、自在に他の武具に変形でき、どんな局面でも対応できるが、本物の武器の威力より劣るのが難点だが使い勝手は最高に良い。
「俺もやるぜ!秘技"虚空烈風斬"」
上空から回転しつつ敵を目掛け、落下し切り裂いて行く。
「―集え雷精、大気より現れし破壊の剛雷よ、我の敵を全て薙ぎ払え、"紅き雷"!」
先程の雷より多く、そして強い雷撃がルーシェの手から具現化され敵を焼き殺していく。
「これで止めだ!」
カイムは聖剣"エクスカリバー"を鞘から抜き、切っ先が後ろに向くように体の右側に構える。
「消え去れ!聖剣技、"クライムハザード"!」
膨大な威力と質量を持った、衝撃波が残存していた敵を全て消した。
「―凄いな…あれほどの敵をあんなに速く倒してしまうなんて…流石、英雄の息子といったところか。」
山岳地帯の地形を生かして隠れながら、何か記録媒体のような物で撮影しており、監視していた。よく見ると、連合軍の兵士で、軍服は赤を纏っている。
「持ち場の敵勢力の全滅を確認した。」
カイムと刹那は辺りを見回しながら、警戒体勢を解いた。
「さほど強くなかったな。」
ロイドは物足りないような顔をして腕をぐるんぐるん回している。
「初めての実戦にしては上出来かと思います。」
刹那は"正宗"についた汚れ等を綺麗に拭き取っている。
「ミーナの自在法には驚いたな。」
カイムはミーナの自在剣、"フリーダムウェポン"を見つめ、ミーナのことを見つめた。
「自在法をあんなに使えるとは思ってなかったよ。」
感嘆が止まらないカイム。
「…いつか"本物"を越えるように強くなる。」
ミーナは真っ直ぐな瞳で穢れのない空を見つめた。
その後は、向かってくる敵を薙ぎ払い、たいして怪我などもせずに1時間が経った。
「後、2時間で訓練が終了する。」
リオンが終了時間や集合場所が書いてある紙を見て、カイムに伝える。
「そうだな、もう敵は居ないだろう。」
「それでは、退却しますか?」
刹那の警戒体勢は解かれ、表情も柔らかくなった。
「よし…戻るぞ。」
6人は、自分の荷物を整理しているときだった。
「皆さん、初めまして…」
いきなり、気配を消して背後から現れた、人…というよりは、
「…魔族…」
ミーナが先に口を開き、その瞬間、カイム達は直ぐ様戦闘体勢に変わった。
「私は、クーネ。二ツ名は"閃光"」
紳士らしく御辞儀をしながらの自己紹介。やんわりな雰囲気が漂っているような気がするが、周囲を圧倒する威圧感が彼にはある。
「閃光のクーネ…聞いたことがある。」
リオンは唾を飲み込み、呟く。
「あの魔族は、先の大戦で英雄達に倒されたはず…」
刹那は驚きを隠せない。
「私は、あるお方に生を頂きました。だから、こうしてここにいます。」
不気味な笑顔で微笑む。
「父さん達が倒した相手?でも、なんでこんな場所に?」
先の大戦で魔界と人間界を繋ぐ"橋"をアズイル達、英雄が壊したはずなのに、ここに魔族がいるのはおかしいとカイムは思った。
「また、始まるのです…世界をかけた戦争が…あの方が望む戦いが!」
「そんな事…もう二度とやらせるか!」
ロイドが単身、クーネに突っ込んでいく。
「待て!1人で勝手に突っ込むな!」
リオンの制止を振り切った。
「君は…何の為に仲間というものがいるか分かっていないようですね…」
掌に闇の力が集束していく。
「消え失せろ…"煉獄の闇"」
「ロイドー!!」
「まあ死にはしないですが…早く腕の良い医療士に診せないと大変ですよ?」
ロイドからは生気があまり感じられない。
「ミーナ、ルーシェとロイドを連れて本部まで戻れ。頼むぞ…」
カイムのいつにない真剣な表情でミーナに頼んだ。
「…了解。」
「カイム…」
ルーシェは今にも泣き出しそうで、鼻を啜っている。
「大丈夫、絶対帰るよ。だからロイドを頼んだぞ…後、救援を。」
「…分かったわ。必ずだよ。」
3人は走り出した。仲間を残して、
「それでは、始めますか?英雄の卵達よ!」