第5話 宿命の出会い
「―僕とも戦ってくれないか?カイム・アーウェンルクス。英雄の息子よ!」
後ろから声が聞こえた。辺りは静まり返り、カイムとその男は互いの場所に向かって歩き始めた。まるで引き合わされるかのように。
「君は…?」
(初めて合う気がしないな…)
「ふっ…まず自分から名乗るものじゃないのか?」
その男は鼻で笑うと、
「俺は、カイム・アーウェンルクス。」
「僕は…リオン。リオン・ファラドール。僕も英雄の息子だ!」
(ファラドール…まさか、レオン・ファラドールの息子?)
先の大戦の四英雄の1人、レオン・ファラドール。アズイル・アーウェンルクスと肩を並べる程の実力者で良き仲間であり、好敵手でもあった。
「君が俺に何のようなんだ?」
敵意剥き出しでリオンに問う。無理もない。だってカイムが英雄の息子だと皆知ってしまったからだ。
「言っただろう?僕と戦えと!お前の力を見せてみろ!」
(本当にお前と共に世界を守らなくてはならないのか…その為の力を確認しないと。)
リオンが腰にあった剣を取った。
「待てよ!何が何だか…」
「問答無用!剣を取れ。」
リオンはカイムを睨み付けると、
「くっ…」
仕方がなく剣を取るカイム。
(何なんだ?こいつは?戦闘狂なのか…?)
「ではいくぞ!」
縮地法を行い、カイムから一度離れる。
(なっ!?瞬動だと?)
カイムも驚きを隠せないまま戦闘になった。
つばぜり合いになった瞬間、カイムの蹴りがリオンの腹部を捉えた。
「チィ…」
すぐさま体勢を立て直し、もう一度縮地法を行う。
「同じ手は何回も効くかよ!」
縮地法の中でも非常にレベルの高い虚空瞬動をしてリオンの背後に回り込んだ。
「もらったあ!」
しかし、カイムの剣は空を斬った。
「なに?」
「残像だ。くらえ!」
かかと落としをモロにくらい、地面に叩き落とされた。
(強い…だけど俺は負けない!)
「やっと本気か?」
「後悔すんなよ?」
刹那、2人は剣を打ち合う。その姿はまるで戦いを楽しんでるかのようだった。
―結局、決着は3時間経ってもつかなかった。気が付くと学園の全生徒と教師が観戦していた。今の戦いによりカイムとリオンは有名人になってしまった。同時に英雄の息子であることも知られた。
「お前、中々やるな。」
「ふっ。お前ではない、リオンだ。名前で呼べ。」
確かに2人の間に友情が芽生え始めていた。
(やはり、英雄の息子ということか…カイムなら僕の背中を任せられる…)
今日の授業は全て中止となり、カイムとリオンの噂話は絶えることがなかった。
「校長、アズイルとレオンの息子が接触し戦いました。」
「うむ、そうか。遂に運命の歯車が回り始めたか。」
(世界はどうなるじゃろうか…)
―薄暗い部屋の中で低い男の声が響く。どうやら何かの報告をしているようだ。
「―報告、例の学園に英雄の息子が2人揃いました。しかも年齢に合わず、実力はかなりあるものと。」
「そうか。御苦労であった。引き続き、監視と報告を怠るな。」
「―御意。全ては我が主の為に。」
(さぁ、女神はどちらに微笑むか…クククッ。)