第4話 VS.ロイド
「うわぁぁ!」
カイムは、蒼白な顔に汗をかき、飛び起きた。
「また…あの夢か。」
汗を拭こうとタオルを探していると、
「そうだ。荷物を整理しているとこだったんだ。」
カイムは、また荷物の整理を始める。
(父さん…母さん俺は!)
「失礼しまぁす」
そういうとルーシェはドアを開けて入ってきた。
「ういーす…って物が散らかってるな。」
ロイドも続いて入ってきた。
「荷物整理、ご苦労様。」
ミーナは、辺りを見渡しそう言った。
「皆、どうしたんだ?」
「カイムに話があって…ってどうしたの?」
「えっ?」
「お前、顔白いぞ。大丈夫?」
カイムの顔はさっき見た夢のせいで蒼白になっている。
「気にするな。大丈夫だ。」
「ならいいけどよ。」
ロイドはカイムの私物を物色しはじめた。
「話ってなんだ?」
「率直に聞くわ。…あなた、"殺戮王"に聞き覚えは?」
「なっ…なぜその名を知っている?」
カイムはまた蒼白になり、汗が出て、体が震えだした。
「やっぱりあるのね?」
ルーシェが悲しげに聞いた。
「あるもなにも!あいつは俺の大事なものをすべて奪い去ったんだ!…この剣以外のすべてを…」
思わず声を張った。なぜならそいつは、カイムから何もかも奪った、そして両親の仇なのだから。
「俺たちも、そいつに借りがあるんだ。」
ロイドは普段の表情で喋っているが、その奥には怒りの表情が見える。
「いつか…必ず倒す相手。必ず…」
ミーナもロイドと一緒だ。
「私は両親を目の前で殺された。あなたもそうなんでしょ?」
「…」
こくりと頷くカイム。
カイムの部屋は、一時の静寂に包まれた。
最初に口を開いたのは、ルーシェだった。
「…私たちは2年前、"殺戮王"に戦いを挑んだわ。」
「何?」
カイムは驚いた。
「でも俺たちのボロ負けだ。」
「目に見えていた結果だったわ…そして、こう言われたの。」
ミーナが口を開く。
「…我が望むは強者との戦い…こう言われた。」
屈辱の一言だった。仇を討つ為に小さい頃から修行をしてきて、その仇を目の前にして、かすり傷ですら与えられなかった自分の無力さに感じさせられた。
「そうだったのか。だから、仲間を探しているのか?」
「そういうこと。」
人差し指を立て、ルーシェは言った。
そして、4人は日が暮れるまで話しあっていた。
これから何をすべきなのか、何が起こるのか、そんな話しをしていた。
「もうこんな時間か、そろそろ帰るか。」
ロイドが腰をあげるとルーシェとミーナも腰をあげた。
「じゃあまた明日ね。」
そういうと3人は自分の部屋へと帰っていった。
(今日はいろんなことがありすぎた…もう寝よう。)
こうして、1日が終わった。4人はそれぞれの想いを再確認し眠りについた。
―翌日カイム達にとって初めての授業があった。午前中は基礎的な事をクラス全員で学び、午後からは選択した科目を学ぶ。その午前中の対人戦の授業のとき、
「―ということだ。誰か、模擬戦闘をしてくれる生徒はいないか?」
辺りがざわざわとしているとき、
「俺がやります。」
カイムが手を挙げ、そういうと、辺りが一瞬にして静まり返った。
「君の名前は?」
「カイムです。」
「下の名前は、なんだね?」
「…アーウェンルクス」
教師は驚いた。なぜなら、先の大戦、"デモンズ・ドア防衛戦"で活躍した四英雄の1人、アズイル・アーウェンルクスと下の名前が一緒だったからだ。
「君は、まさか…」
「先生、俺が誰でもいいでしょう?」
言うなと言わんばかりにカイムは教師を睨み付ける。
「で、では、もう1人カイムとやりたい奴はいるか?」
するとロイドがルーシェやミーナの制止を振り切り、
「俺、ロイド・フェンネルがやります。」
「なっ…」
「正直、会ったときから普通の奴等とは違う雰囲気だったからさ。剣を交えたかったんだ。」
「…そうか。」
半径5キロの絶魔封陣という結界が張られ、他の生徒も観戦に来ている。
「こりゃあ格好悪い姿は晒せねぇな。」
「…」
カイムは険しい表情で周りを見渡す。
(バレないだろうか…俺が英雄の息子だということが。)
「それでは、模擬戦闘を始める。用意は?」
「いつでもいいぜ。」
「…いつでも。」
「では始め!」
「先手必勝!!」
ロイドが大剣を構え、走りだした。カイムは聖剣"ラグナロク"とそれの半分位の刀身の光剣"アスカロン"を取り出し、大剣を弾いた。
「何っ!」
「行くぞ。」
凄まじい速さで剣を振るう。ロイドは必死に大剣で防御する。
「くっ…重い。」
ロイドが思っていたよりもカイムの太刀筋は重く、なかなか反撃に移れない。
「本気でやっていいか?」
普段のカイムからは想像ができない形相でロイドを睨む。
「えっ………来いよ!」
その瞬間、カイムは姿勢を低くし、ロイドに蹴りを入れ空中に浮かす。
「ぐっ…」
「どうした…そんなものか?」
2つの剣を自在に操り、ロイドを追い込む。
「くらえ、"爆炎剣"」
"アスカロン"の刀身に炎を纏わせてロイドに斬りかかった。
「くそ。」
ロイドは大剣で防御したが、地面に叩きつけられた。
「終わりか…」
「くっ…まだだ!」
剣を杖にして立ち上がろうとする。
「…」
カイムは黙って見ている。
「俺にだって…意地はある!」
大剣が2つに分離した。
「氷炎剣"ツインドライブ"」
1つの剣から属性が異なる対の双剣になった。
「!お前、大剣士じゃあなかったのか?」
「大剣士だけど、元は双剣士だよ。」
「面白いな。…だが!」
カイムは縮地法と舞空術を使い、瞬時にロイドの目の前に現れた。
「何だと!」
「遅い!」
カイムの"ラグナロク"が、ロイドの顔面を捉えたが、"氷剣"で間一髪のところを防御した。
「剣技、"雷光剣"!」
カイムの"アスカロン"に雷の力が宿る。
「負けるかあ!剣技、"斬岩剣"!」
2つの剣が交じり合った瞬間、
「まだだ!剣技"裂空斬"!」
もう1つの剣"ラグナロク"で斬りかかる。
「はああ!剣技"粉塵烈火斬"!」
4つの剣が交じり合う。お互いに一歩も譲らない。
「うおお!」
「はああ!」
一瞬だった。小競り合いの中、ロイドが体勢を崩した瞬間をカイムの剣がロイドの双剣を弾き飛ばし、体当たりで地面に倒して、"ラグナロク"を顔に向けて構えた。
「…ロイドの負けだ。」
「くそっ…やっぱ強いな。」
「そこまで、勝者カイム。」
周りからは驚きの声と女子生徒からの声が入り混じり、辺りが静まり返るまで少しの時間を要した。
(たった15歳でこれ程の戦闘能力があるとは…さすが英雄の息子だ。)
「お疲れ2人共。」
「はあ、はあ、はあ…強すぎだろ。」
「そうか?ロイドだって中々強いぜ?」
2人の健闘を称えあっている。
「疲れたぁ。昼飯食べようぜ?」
4人が食堂に向かおうとしたとき、運命の歯車がゆっくりと動き始めた。
「―僕とも戦ってくれないか?カイム・アーウェンルクス。英雄の息子よ!」