第3話 突き動かすもの
―すでに息絶えた人間と魔物が多くいた。
「くそっ。ここまでやってくるなんて。」
若い青年が背中に背負った聖剣らしき剣を抜くと、後ろから近づいていた魔物を一閃。
「あの子は無事か?」
切り捨てた魔物をあとにし、燃え盛る建物へと走り出す。
「アズイル、こっちはいないわ。」
「フローラのほうもいなかったのか…」
2人の若い男女は不安の表情を浮かべ、"あの子"を探す。
「一体どこに…」
アズイルと呼ばれた青年は、辺りを見渡していると、
「クックック…久しぶりだな英雄よ。」
突然目の前に現れた"それ"は、漆黒の翼を背中から生やし、体全体が闇の力に覆われている。
「お前は、"殺戮王"ジェノサイド!」
そう呼ばれた人型の魔物は高らかに笑いながら、後ろからまだ八歳ぐらいの子供の首を掴み、
「このガキを探していたのか?」
「くっ…すべてお前の仕業だったのか!」
アズイルは聖剣を引き抜くと、
「ガキがどうなってもいいのか?早くその剣、"ラグナロク"を捨てろ。」
アズイルは何も言わず、その聖剣を地面に置いた。
「その子供を返してくれ!」
アズイルがジェノサイドに必死にお願いすると、
「条件がある。貴様と一対一で決闘がしたい。」
ジェノサイドが子供を放り投げると、
「さあ、英雄よ。死合おうぞ!」
「待て、剣は使えないのか?」
「貴様の勝手だ。好きにしろ。但し、もしこの決闘に貴様の仲間が介入したらどうなるかは分かっているだろうな?」
横目で子供を見る。
「フローラわかっているな。」
「ええ。必ず。」
(私達の子供は必ず取り返します。)
フローラはその場から立ち去ると、村の外に待機している仲間と連絡を取った。
(レオン聞こえる?)
(ああ、聞こえている。状況はどうなってるんだ?)
(説明している暇はないわ。作戦Cに変更よ)
(了解。)
「行くぞ!!」
アズイルとジェノサイドは信じられない速さで剣を打ち合う。
「五年振りだな。貴様と剣を交えるのは。」
「ごちゃごちゃと」
腕に力を込め、
「五月蝿いんだよぉぉ!」
空中へと弾き飛ばす。
「くっ…」
体勢を崩されたジェノサイドは、すぐさま空中て体勢を建て直そうとすると、
「させるかあ!」
剣を相手に突き刺すように構え、
「秘技、"音速蓮華斬"!」
音速を越える速さで、ジェノサイドを切り刻む。
(倒さなくていい。時間を、時間を稼がなければ。)
「それが本気の太刀筋か?」
ジェノサイドは確かに切り刻まれたはずだが、闇の力で障壁を張っていたため、ほとんど傷がない。
「こちらから行くぞ!」
瞬時にアズイルの懐に潜り込み、左腕で思い切り地面に叩きつけた。
「がはっ。」
アズイルもとっさに防御壁を展開し、最小限にダメージを抑えた。
「まだだぞ…闇よ集え、」
左腕に闇の力が収束する。
(あれは、ヤバい!でも体が動かない!)
ダメージは防げたが、あまりにも強い衝撃でアズイルは立つことができない。
「"混沌の闇よ、数多の負を闇と変え、我に集え!"−ダークネスフレア−」
詠唱を終えると、でかい闇の球体が発生し、アズイルをめがけ、飛んでいく。
「やられるか!」
ギリギリのタイミングで立ち上がり、縮地法でかわす。
「こっちの番だぜ!」
―(準備OKだぜ)
レオンの声がフローラとアズイルに念話で伝わる。
(俺が、上空へと連れ出す。その隙に転移魔方陣で学園へと送れ。)
(分かった。)
レオンとフローラは、魔方陣を魔法具で描き始める。
「ジェノサイド!」
はち切れんばかりの大声を出し、縮地法で近づく。
「秘剣、"連続剣"!」
聖剣に金色の光が宿る。
「"緋桜"」
緋き桜の如く、華麗な太刀筋が無数に現れ、ジェノサイドの動きを止める。
「"蒼牙"」
蒼き牙の如く、莫大な力がこもった、一撃をジェノサイドの腕へと叩き込んだ。
「何っ!」
まるで木の枝が折れるように、いとも簡単に腕が飛んだ。
「まだだっ、"翠光"」
神々しい光を帯びた、聖剣から、一筋の光がジェノサイドに向かって行き、体の自由を奪った。
「とどめだ!」
ラグナロクを天に掲げ、力を集束させる。
「秘奥義、"ホーリージャッジメント"!!」
闇を裁く、光の斬撃がジェノサイドを一閃。空中から地面に落ちていった。
「やったか?」
息を整えるアズイル。すると、
(準備OKだ)
レオンが言うと、フローラが魔法陣を描く。そして完成した途端、
「そうはさせん…容易くそのガキを渡すものか。」
人差し指から放たれた、一筋の闇がフローラの心臓を貫いた。
「うっ…」
フローラは我が子の前で息を引き取った。
「フローラぁぁ!!」
アズイルはすぐさま、フローラの元へ急いだが、すでに息はなかった。
「貴様ぁぁ!!」
聖剣を鞘ごと魔方陣の中に投げ入れ、素手でジェノサイドに突っ込んだ。
「お前も死ぬか?」
ジェノサイドは、アズイルの首を掴み締め付け始めた。
「くっ。」
何も抵抗できない。
「自分の息子の前で息絶えるがいい。」
腹を殴られ、意識朦朧とするアズイル。
「俺の…息子、カイムを早く…安全な場所へ。」
魔法陣は発動し、カイムと呼ばれた、子供は、安全な場所へ転移された。
「強く、なれ…よ。」
「ふん、哀れだな。子供なぞいなければお前が勝っていただろうに。」
頭を足蹴にされる。
「死ね…」
「アズイル、フローラ、必ずお前らの子供は守るからな。」
レオンは学園へと急いだ。
「死んだしまったか…英雄よ。」
学園の校長が悲しげに言う。
「そなたらの"卵"はしかと、預かったぞ。」
ルシフォードは遺された、1人の子供と、聖剣を見つめ、しばらくの間、瞳から、涙が流れていた。