第11話 戦場に舞う戦乙女
―天界
「カイム…」
腰に神剣"ニーベルング"を携え、下界のほうを眺める。
「もう10年が経つのか…」
―10年前
カイムの住む村がジェノサイドに襲われた時だった。
魔法陣でカイムが逃がされ、アズイルが死を覚悟したとき、空から天使のような人が現れて、アズイルを助けた。
「父君は生きていますよ、カイム。」
レイラの瞳から涙が流れた。「はやく、逢いたい…」
―人界
「ん…」
「どした?カイム?」
「いや、何でもない。」
(空から俺を呼ぶ声がした気が…気のせいか?)
―天界
「レイラ、下界のほうはどうだ?」
「アズイル様、目立った動きはありません。」
騎士剣"ラグナロク"を背中に背負い、左腕には天上軍を表すエンブレムがあった。
「レイラ、いつ下界に降りられる?」
「もうすぐです。連合軍と魔王軍が接触し戦闘が始まったらです。」
「そうか…」
「もうすぐです。」
―人界
「…―デモンズゲートの調査終わりました。」
「報告をしたまえ。中尉。」
「はっ。魔力は僅かではありますが、滞留しています。この量では魔物一匹でもこちらに来れるかどうか…」
「わかった。では本部へ戻るぞ。」
(どこから魔界から人間界に来るんだろうか?)
―ヘヴンズゲート
デモンズゲートがある場所から遥か北にこのヘヴンズゲートはある。
「ついに見つけた…最後の扉!」
容姿がリオンに似ているこの男はレオン・ファラドール、リオンの父、そして英雄。
「この扉が魔界と繋がっているのか。」
壊そうと扉に触れようとした瞬間、何かの障壁に阻まれた。
「!…結界だと!?ふざけやがって!」
薄い壁がレオンの攻撃を吸収する。
「これじゃ壊せねぇ。専用の魔法がないと…」
足元に転移魔法陣を描き、どこかへワープした。
―人界
連合軍では着々と戦争の準備が進められていた。
いつ攻めてくるかわからない相手に対しての対策を指令部は考えて作戦を練っている。
「やっぱ戦争始まるのか…」
若い兵士が数人集まり、これから起きるであろう戦争、後に歴史に名を残す大戦争に不安を感じていた。
所々でそんな話を耳にした司令部は聞き流し、準備を進めていた。―魔界
「準備はどうだ…出陣できるか?」
玉座に座っている"魔王"は禍々しいオーラを放ち、重たい口を開いた。
「はっ…準備は整っております、いつでも。」
「―そうか、ジェネラルよ行け…」
「御意、では…」
ジェネラルと呼ばれたこの男は、魔王軍の将軍で四天王の中でも上位に位置する強さを持っている。
「さて、行くか、潰しに!」
ジェネラル率いる魔王軍は進軍を始め、ヘヴンズ・ドアからワープし人間界へ行った。―天界
一瞬、世界の空気がはりつめた。
「来たな、魔族め!」
アズイルは"ラグナロク゛を握り締め、天上軍の出撃準備を始めた。
「カイム…気を付けて。すぐに私も行くから。」
"ニーベルング"鞘から抜き、カイムの無事を祈った。
―人界
「うわぁ!?」
連合軍の近くにある街に魔族が現れ、人間を襲い始めた。
遠くの道を歩いていたカイム達は異変に気付いた。
「おい!あれ見ろよ!」
ロイドが街を指差しして場所を示す。
「あれは、魔族!?」
刹那の目が魔族を捉える。
「行くぞ!」
カイム達はすぐに街に向かったが、魔族は連合軍本部の近くの平原へと向かったため遅かった。
「急ぐぞ!」
―連合軍本部
「ガトラス平原に魔族が集結しています!」
「軍を派遣しろ!!戦闘開始だ!」
いよいよ始まる魔界、人界、天界の戦争。この戦争は後に、天地戦争と呼ばれる。
平原に両軍が向かい合った。互いに睨み合い、まさに一触即発な雰囲気だ。
それを上から見ている天界軍。
役者は揃った。そしてついに戦いの火蓋が切って落とされた。
「はぁ!!」
「こいつ!」
魔王軍と連合軍は数では魔王軍のほうが勝っており、実力的にも若干ながら魔王軍のほうが上だ。
「始まってしまったか!」
カイム達は、遅れて登場した。
「よし、俺達の初陣だ。行くぞ、皆!」
おう、の掛け声で5人は散り、戦い始めた。
―天界
「そろそろだな…レイラ、行こう。」
アズイルは微笑み、天界軍の士気を上げた。
「はい。…天界の騎士団よ聞け。」
レイラは神剣"ニーベルング"を振りかざし、
「誇り高き、我々天上人は、神のご意向、いや我々の意志で、下界の救援に向かう。禍々しい魔族どもに、この世界を奪われる訳にはいかない!」
力強く言い放つと天界軍の戦士たちは、静かに瞑想を始めた。
「我々には、人界の英雄、アズイル様が、そして、現在の聖剣の担い手、カイム様がいます。…この戦い…負けるわけにはいきません!さぁ行きましょう!誇り高き天界軍の戦士たちよ!」
広大な転移魔法陣が発動し、軍は下界、人界へ転移した。
―人界
「くっ、数が多すぎる。」
カイムは"エクスカリバー"と"アスカロン"を自在に操り敵を次々に薙ぎ払うが、一向に数が減らない。
(このままじゃあ、負ける…どうすれば!?)
「しゃがめ!カイム。」
咄嗟に言われ、反射的にしゃがむ。
"ラグナロク"を構え、
「秘技、"クライムハザード"!」
カイムの"クライムハザード"よりも威力が高い聖なる技を放った人をカイムは驚きの表情でみる。なぜならカイムの目の前には身代わりとなって死んだ英雄であり、尊敬する人でもあり、父である、アズイル・アーウェンルクスであるからだ。
「父…さん?」
色々な想いが込み上げてくる。父が死んでから今まで、一時も忘れることのなかった、憧れの存在が今、目の前にいることによって、瞳からは涙が流れていた。
「泣くな、俺の息子だろ?」
優しく頭を撫でて、笑顔で言った。
「どう…して、父さんが…生きていたの?」
「あぁ。助けられたんだ。天界の戦乙女に、レイラ・デュナミス・ヴァルキュリアに。」
空から、天使のような白い翼を大きく羽ばたかせ、舞い降りてきたその姿は、まるで女神のようで美しく、カイムは、目を奪われてしまった。
「なんて、綺麗なんだ。でもなぜか初めて見た気がしない。」
「私は、戦乙女、ヴァルキリー。魔族を滅ぼす為に、この人界へと来ました。」
笑顔でカイムを見る。
「また逢えて良かった、カイム。覚えていますか?あなたが両親を失う、2年前を。」
「2年前…確か俺は…」
2人は出逢うべくして出逢った。
人界の英雄、勇者となるべきカイムと天界の戦乙女、レイラ。世界の運命は彼らに懸かっている。世界は、震えている。過去にも起きたことのない凄まじく、激しいこの戦いはどのようにして幕を閉じるのか、前代の英雄達と現在の英雄達の運命の交差路はどのように混じりあうのか。全ては、聖剣の創始者、"始まりの魔法使い"だけが知る。
―人界?
「我々の想像を遥かに越える、魔王による創造が行われているようだな。」
黒いコートで全身を包み、杖を右手に持ち、左手には水晶玉を持ち、連合軍と魔王軍の戦いを見ている。
「遂に、私も表舞台に顔を出すときが来たか。前回の大戦は、私が出なくとも勝てる戦いだったからな。今回は私が出ても勝てるかどうか…」
「"始徒"よ初めは私が出よう。」
紅蓮の鎧を身に纏い、神々しい力を持った、迅雷剣、"ヴァリアスライトニング"を振りかざし、出撃の準備を始めた。
「それでは、私も準備を始めよう。」