第9話 "ブレイブ"
「行くぞ…"ブレイブ"!」
光が辺りを包み込む。
「なっ、なんだ?」
クーネは眩しすぎて目が開けられない。
カイムの髪の毛が茶髪から白髪へと変わる。目の色は、黒から淡い藍色に変わり、背中には魔法陣が浮かび出てきた。
「さあ、やろうか?」
只ならぬオーラに一瞬圧倒されたクーネは、脳裏に何かがよぎった。
(この感じ…先の大戦でアズイルから感じた闘気と一緒だ…まさか、もう覚醒したというのか?)
「そのまさかだ!」
聖なる光を帯びた聖剣"エクスカリバー"をクーネに向かい、振るう。
(馬鹿な!思考を読まれただと?)
「読んだんじゃない。顔にそう書いてあっただけだ…」
クーネは初めてこの戦いで膝をついた。
「聖剣の担い手、カイム・アーウェンルクス、敵をすべて討つ!」
光剣"アスカロン"を取り出し、右手に聖剣、左手には光剣を持ち、構えた。
「二刀流が俺の得意とする流技だ。」
「くっ、行きますよ!」
クーネにあった余裕の表情がなくなり、逆に強張った顔になった。それほど、覚醒した聖剣の担い手は、魔族にとって天敵とも言える。
「俺は…仲間を守りたい!ただそれだけなんだ!」
カイムの想いに呼応するように、聖剣は輝きを増していく。
「完璧に覚醒する前に殺さないと大変なことに…あの御方に顔向けが出来ない…」
クーネは本気を出す。証拠に辺りの空気が重くなる。左手には、闇の力が集束していく。どうやら先程リオンを焼き尽くした、魔法のようだが威力は漠然と違う。
「やっと本気を出したか!」
物凄い速さでクーネに斬りかかる。普通の状態で行う瞬動よりも早い瞬動で、間を詰める。
「速い!」
刀で凌いでいるが、二刀流を凌いでいられる時間はあまりない。
「防御で精一杯かよぉ!」
斬撃の速さを増していく。空に金属音が鳴り響く。まるで協奏曲のように、美しく、且つ残酷なメロディーが本部へと無事に逃げられたルーシェ達や生徒、兵士達の耳に届く。
「…カイム?」
何故こんなにも悲しい音が聴こえるか解らないが、直感でカイムだとルーシェは思った。
「遂に覚醒したか、カイムよ。だが…」
「校長先生、早く助けに行きましょう!」
ルーシェ達が促すとルシフォードは考えを止め助けに向かった。
―カイムが優勢のまま斬り続けられるクーネ。最初の頃にはあった余裕の表情はそこにはなく、苦悶の表情がある。
「もうこれで最後だ!」
聖剣と光剣を構える。
「二度と蘇ってこれないように魂も切り刻んでやる!」
「くっ…ここまで力が強いとは!」
「父さんの技で、死ね!」
大声で叫んだ。大気が震える。
「秘剣、"連続剣"!」
Xの文字の斬撃でクーネは空中に弾き飛ばされる。体勢を立て直す前に、
「"氷桜"」
小さめの氷の塊を2つの剣に纏わせ、桜のように散らせる。斬撃と一緒に氷の塊がクーネを襲う。
「"神雷"」
雷の速さで2つの剣を操り、クーネの体を切り刻む。今の攻撃で翼はぼろぼろになった。至るところから流血もしている。
「くっ…ここまで!」
「まだだぞ、俺は…お前達魔族を許したわけではない!!」
猛攻を仕掛ける。クーネは何もできない。力の差が有りすぎるのだ。
「消えろ…この世界に魔族はいらない!」
2つの剣に聖なる力が集まる。光が強くなり、大気が震え、圧倒的な力が周囲を包み込む。
「"ホーリークロスエッジ"!」
クーネの胴体にXの文字の斬撃を与えた。その一撃がカイムの強さを物語っている。
「これ程とは…!あの御方に報告しなければ…」
転移魔法でクーネは退却していった。
そしてすぐにルーシェ達、救助隊が到着し、リオンと刹那の手当てを始めた。
「カイム…」
ルーシェは哀しそうにカイムを見つめた。
「…"ブレイブ"解除。」
カイムの姿は元に戻った。そしてすぐに、地面に倒れ込んでしまった。
「俺は…」
これから始まる人間と魔族の戦争。熾烈を極めるこの戦争で一体何を得て、何を失うのか…カイム達は自分に問い掛けながら、"道"を突き進む。たとえその"道"が荊の"道"であろうと…