999話 抜け気懐疑
【Raid Battle!】
【兎月舞う新緑の主】
【荒れ狂う魚尾砲】
【レイドバトル同時発生につき難易度が上昇します】
「はい、今日も元気にログイン!
……【鍛冶士】が装備を完成させるのは明日までかかるってことだったから今日は別のことでもするか。
……まあ、やることに困ったらとりあえずプレイヤーキルでもやるぞ!
俺の趣味の一つだからな!」
包丁を握り締め素振りするようにログインしてきた霧咲朱芽は早々に物騒なことを呟き、辺りを見渡していた。
その眼はまるで獲物を探しだそうとする猛獣のように飢えたものとなっていたため、もしこの場に他のプレイヤーがいれば思わず目を背けていたであろうことは想像に難くない。
「……周りに他のプレイヤーはいないみたいだが兎鰻レイドボスもいないっぽいな。
死に戻りで草原エリアにワープするか悩むところだがせっかく時間もありそうだし、草原エリアに徒歩で戻りながら見つけたプレイヤーを片っ端からヤっていくことにしよう!」
もはや愉快犯を越えた無差別行為を宣言しながら草原エリアへと足を動かしていく。
【検証】青年とマッピングを何度か繰り返したお陰で樹都エリアのどの位置にいるのか霧咲朱芽は把握できるようになっていたので、迷うことなく進んでいけるのだ。
……ただ、今の段階でそれを使いこなせているのは最高峰の頭脳を持つ【検証】青年と、トレジャーハンターとしてミチの場所を探索するのに慣れている霧咲朱芽くらいのため他のプレイヤーたちが活用できるようにまでには少々時間がかかるであろう。
そんな他のプレイヤーたちだからこそ樹都エリアで迷っていることも多く……
「おっ、さっそくいただき!
これでも喰らっておきな!」
「ぐあっ……っ!?
お前は【包丁】……噂通り戦士みたいに熟練し過ぎだろっ!?」
霧咲朱芽はチュートリアル武器と思われるハンガーを持った青髪の男の真横から心臓に刃を差し込んでいき、それを横に引き裂いて光の粒子へと変えていった。
「プレイヤーキラーが現れたぞ!?」
「あいつは……包丁戦士だな」
「に、逃げろ~」
「お、おい抜け駆けするなよ!
俺も逃げるぞ~」
霧咲朱芽の姿を認知したプレイヤーたちは自分達では敵わないと一目散に逃走を始めようとした。
現実での対人戦……それも野戦が経験が豊富な霧咲朱芽と、戦闘とは無関係の生活を送っていた人たちでは実力に開きがあるため賢明な判断と言える。
「こらこら、お前ら俺から逃げようとするなんざいい度胸じゃないか?
……けど、そんな隙だらけな背中ばっかり見せて逃げきれると思うなよ?」
だが、それは逃げることに長けた者の場合の話である。
無防備に動き回るだけでは格好の獲物でしかないため、逃げていくプレイヤーたちを一人、また一人と背中から包丁を突き刺して地面に打ち捨てそれを繰り返していく。
それを続けていく霧咲朱芽が通った後はまさに屍山血河、辺り一面には光の粒子が飛び回っておりこの場で多くのプレイヤーたちが死に戻りしていったことを明確に表していた。
「なんか蛍が飛んでるみたいで綺麗になったな~!
このゲームの醍醐味はこの光の粒子が織り成す光景って言われても納得できるくらいだぞ!
……流石に本筋の楽しみ方じゃないことくらいは分かってるけど止められないんだよなぁ」
そして、その光景を恍惚とした表情を浮かべながら眺め、木に身体を預けながらゆっくりしていると霧咲朱芽はふと思い出したように飛び跳ねて草原エリアへと走り出していった。
「よう、元気か!
俺が来たぞ!」
霧咲朱芽が突如として訪れたのはもはや馴染みの場所となりつつある【鍛冶士】の鍛冶場である。
「ガハハ!!!
今日はどうした!!!
まだ装備は完成してないぞ!!!」
「それは完成時期を聞いていたから知ってるが、俺がここに寄ったのはそんな用事じゃない。
ちょっと試したいことがあってな?」
「試したいことだと!!!
ワシに言ってみろ!!!
協力できることならば協力してやろう!!!」
霧咲朱芽が脈絡も言い出したことに対しても熱意を持って協力的な姿勢を示した【鍛冶士】であったが、その一方で霧咲朱芽はどこか悪戯をする前の子供のような悪どい表情を顔に浮かべこう切り出した。
「じゃあ俺のために死んでくれよ!」
「なんだとっ!!!???」
霧咲朱芽はその言葉だけ残し、【鍛冶士】の首を包丁で一閃することで頭部と胴体を完全に切り離し死に戻りさせていった。
【鍛冶士】は驚きこそ見せたものの、抵抗をする素振りなく包丁を受け入れて粒子を周囲に撒き散らしながらその場から消えていったのだ……
「あぁ、知り合いの死に際から放たれる光の粒子はどんなものだろうかと気になっていたがこれはこれは……なんとも格別だなっ!?
明らかに他と色も形も質も違う……そして何より俺好みっていうのがいい!
こんなことならもっと前からキルしてやれば良かった!
この焦がれるほどの感情はなんだろうか、俺はこの気持ちを抑えきれる自信がない! 何度だって何度だってこの光景を見たいし体験したい!
今までの時間をギュッと凝縮したような質の高い快感と感情が一気に降り注ぐのは森林浴でもしているかのような心地良ささえあるな!!!
あぁ……あぁ……あぁ……っ!!!」
壊れたとか壊れてなかったとか……
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