996話 生産にかける熱意
【Raid Battle!】
【兎月舞う新緑の主】
【荒れ狂う魚尾砲】
【レイドバトル同時発生につき難易度が上昇します】
「はい、今日も元気にログイン!
さ~て、【鍛冶士】のやつちゃんと調理器具完成させてるだろうな?
これで何も出来てなかったらただじゃおかないぞ!」
そう言いながら拳を突き上げてログインしてきた霧咲朱芽。
とうとう目的のものが手に入るかもしれないという期待からか心なしか頬の筋肉が緩んでいるようにも見える。
だがそれを隠そうとしていないことから本人は気づいておらず無意識にそうなっているのだ。
そんな浮かれた気分で樹都エリアを歩いていれば当然兎鰻レイドボスと出くわすわけで……
「ぐわぁっ!?
くそっ、今日は突進でやられたな……
でも、物理攻撃が多いからパターンさえ覚え込めば長期戦にすることくらいは出来そうな気がしてきたぞ!
……まぁ、そこから倒す手段は思いつかないけどな」
そう自嘲しながら草原エリアを歩き、昨日に引き続き【鍛冶士】の鍛冶場へと赴いていた。
「ガハハ!!!
待っていたぞ【包丁】!!!」
「おん?
何か今日ははじめからご機嫌だな!
正直暑苦しいが、それよりもあれだ!
さっさと依頼したブツが完成してるか見せてくれ!」
「ワシ自慢の生産物だ!!!
この出来をじっくり見るがいい!!!」
そう言って筋肉隆々の胸を張りながら差し出してきたのは霧咲朱芽が事前に依頼していた鍋、フライパン、おたま、鉄板、鉄網であった。
それぞれ欠けも歪みもなくシンプルながら精巧に作られており、生産アイテム作り環境としてはとても劣悪なゲーム初期とは思えない見事な出来であると誰もが感嘆するほどのものである。
そして、その感想は霧咲朱芽も例外ではなく……
「うおっ!?
これお前が作ったのかよ!?
この鍋の弧線、フライパンの持ちやすさ、おたまもどの角度からでも掬いやすくなってるし、鉄板は文句のつけようがないくらい平坦、そして鉄網は焼き跡が綺麗になるように調整されてるぞ!?
俺から聞いた用途、そして俺自身の身体の特徴を厳密に把握してなかったらこれは作れないが……
まさかここまで凄いものを作り上げるとはな。
他意なく素直に感心したぞ」
このように両手放しに喜んでいた。
若干の対抗心を燃やしていたはずの相手である【鍛冶士】の作品であってもその感情を消し飛ばしてしまうような完成度の高さという証明となったのだ。
「あとはお前の料理の腕を見せてもらうだけだ!!!
ワシがここまで誠心誠意力を込めて作り上げた調理器具でどのような料理を作り上げるのか楽しみにしているぞ!!!」
「ああ任せておけ!
俺は料理のプロではないが、それでも一通りの調理については齧ってるからレベルの低いものにはならないだろうさ。
全国を飛び回って色々な味に触れてきた俺の実力……存分に見せてやろう!
……それに、これだけの完成度の調理器具を用意してもらったんだからなおのこと半端なものは出せないからな!」
【鍛冶士】と言葉を酌み交わしそう約束した霧咲朱芽。
想定していた以上のものを見せられてしまい引っ込みがつかなくなったというのもあるだろうが、それ以上に【鍛冶士】の実力に敬意を表したという点が一番大きいのだろう。
それは元々実力を見くびっていた自分自身に対する反省やけじめのような面もあるに違いない。
直接口頭では伝えていないものの、真摯に向かい合う態度でそれを示していた。
「とりあえずこれからこの鍛冶場に食材を運び込むから待ってろよ!
ただ、色々なところに食材を隠してるから今日はそれを運びいれるだけで終わりそうだから実際に作るのは明日以降だな!」
霧咲朱芽がそう伝えると【鍛冶士】は不思議そうに首を傾げて質問をし始めた。
「何故わざわざ分散させたのだ!!!
一ヶ所に集めた方が効率的で都合がいいだろう!!!
現に集め直すのに時間がかかると言っておるくらいだからな!!!」
そんな【鍛冶士】の問いかけに対して霧咲朱芽は……
「俺はプレイヤーキラーだからな!
多くのプレイヤーたちに恨まれつつあるから食材を備蓄していても仕返しとして俺の不在時に盗みに来るんだよな……
常時見張るわけにもいかないし、固定の拠点を作らずに信頼できそうなやつに預けたり誰も来なさそうなところに隠しているってわけだ。
理にかなってるだろ?」
「そもそもプレイヤーキルをしなければいいだけの話だが、お前は言っても聞かないだろうからな!!!
それなら今後はワシの鍛冶場で幾つか食材を預かってやろう!!!
ここには火種もあるし料理をするのにちょうどいいだろうからな!!!」
「マジか!?
これは助かるな……
お前の鍛冶場からモノを盗もうなんて輩はそんなにいないだろうし、今後は安心して食材が集められるぞ~!」
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