995話 生き様が一心同体
【Raid Battle!】
【兎月舞う新緑の主】
【荒れ狂う魚尾砲】
【レイドバトル同時発生につき難易度が上昇します】
「はい、今日も元気にログイン!
変なおっさんに鉄鉱石の運搬を頼んだがきっちり届いているか確認しないとな!
盗まれてたらやり直しだから緊張の瞬間だな……」
腕を振り回しながらログインしてきた霧咲朱芽。
半ば盗まれている前提なのは本人のこれまでの人生経験からくるものだろうか?
性善説よりも性悪説に思考が偏っているのである。
トレジャーハンターとしての他者との疑心暗鬼な蹴落とし合いではさぞ有効に働いたであろうその思考が今回も当てはまるのか確認するために、まずは兎鰻レイドボスを探し出し激戦を繰り広げてそのまま死に戻りしていった。
「うーん、やっぱり包丁での戦闘経験値が少ないよな……
似たようなものはこれまでも使ってきたけど、これに特化してたわけじゃないからしばらくはログイン後のレイドボス戦で鍛えて行くしかないか!」
兎鰻レイドボスとの戦いの反省をしながらリスポーン後の草原エリアを闊歩していきながら目的地へと向かう。
我が物顔で草原エリアを歩く霧咲朱芽を見た他のプレイヤーたちは色々思うことがあるのか複雑そうな表情を浮かべていたが、知ってか知らずにかそのまま平然と歩いていき【鍛冶士】の鍛冶場へとたどり着いた。
そして恒例のように家屋への無断侵入を試み、最奥にいる【鍛冶士】と目があったのだ。
「また許可も取らずに入ってきたな!!!
お前は声をかけるということも知らんのか!!!」
「建物は侵入するもの……それが俺の流儀だ!
異論は認めないぞ!」
常識を異なる常識で切り倒す論法で無理矢理話を進めていき、有無を言わせずさらに詰め寄っていった。
まるで詐欺師の論法だが、平然とそれを使いこなす霧咲朱芽の精神性は一般的ではないということになる。
「……まあいい、一旦置いておこう!!!
それよりも手押し屋台のあいつはお前の差し金か!!!???
大量の鉄鉱石を何度もここに運び込んできたぞ!!!」
「ああ、そうだ。
偶然見つけた伝手だったが存分に利用させてもらったぞ!
もちろん対価は支払ってあるからクリーンな関係だ。
俺が販売品の野菜を切り分けるってことで話をつけてきたからな!」
「ふむ、道理だな!!!
お前の言動はたまに理解できないことがあるが、今回は筋が通っている!!!
いいだろう、これを使って調理器具を作ってやろう!!!
これだけ素材を用意したお前の執念に乗ってやろうじゃないか!!!」
自身の腕を見込まれて大量の素材を用意された【鍛冶士】は両手の拳を握り締め、ガッツポーズをしながら熱意を燃やし始めた。
依頼人の人柄はどうあれ、依頼そのものは真っ当なものであるため忌避感もなく素直に燃えることが出来たのであろう。
『暑苦しい』という言葉が似合うほど熱意を全身から放ち始めた【鍛冶士】はさっそくと言わんばかりに鉄鉱石の精錬を始めたようだ。
「ふーん、炉とかも完備してるのか。
これだけの設備をよくもまぁすぐに作り上げられたよな……?
専門職ってそういうものなんだろうか……」
ボソリと疑問を呟く霧咲朱芽であったが、自分では分からないジャンルのことについては深く突っ込む気はないようであくまでも独り言に留めていた。
【鍛冶士】にもその言葉は届いていたがあえて触れず作業を進めていく。
そしてしばらくすると……
「よし、インゴットの完成だ!!!
これで好きな鉄調理器具が作れるぞ!!!
改めて要望を教えてくれ!!!
優先順さえ教えてくれたら鉄材が尽きるまで順番に作ってやろう!!!
鉄血サービスだ!!!」
「……?
そこは出血サービスだろ?
まぁ、作ってくれるならそんな細かいことはいいけどな。
とりあえず、鍋、フライパン、おたま、トング、鉄板、鉄網辺りだ!
鉄材じゃなくても作れるものもあるが、料理の雰囲気を形作るならここも素材を統一しておきたいからな!
木材でもおたまとかトングは後々作りたいところだ」
料理へ対する拘りを見せる霧咲朱芽。
全力で楽しみたいからこそ譲れないものもあるというわけである。
食卓を囲むのに視覚的にもある程度統一感があれば味わいも変わってくることを意識しているのであろう。
「ふむ、随分と簡単な造形のものばかりだがそれでいいのか!!!
ワシならばもう少し凝ったものを作り上げることも可能だぞ!!!」
「急に随分と親切になったじゃないか?
でもまずは簡単なものだけで料理をしたくてな!
器具を拘るのはもちろんだが、シンプルな機能のもので自分がどれだけ出来るのかも挑戦したいからだ!
その証拠に俺が依頼したやつは複雑な構造を必要としないものばかりになってるはず」
霧咲朱芽と【鍛冶士】はお互いの心のうちを少し明かしていき心の壁が氷解していくのを感じ取っていた。
拘りがあり、それに向かって突き進む生き様が似たようなもの……それこそ一心同体である錯覚すら覚えているに違いない。
「……なるほどな!!!
分かった!!!
その分これらを完璧に仕上げてやるから待っていろ!!!
明日またここに来い!!!
それまでに完成させておくぞ!!!」
「タスカルタスカル……」
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