994話 採掘と屋台の配送業者
【Raid Battle!】
【兎月舞う新緑の主】
【荒れ狂う魚尾砲】
【レイドバトル同時発生につき難易度が上昇します】
「はい、今日も元気にログイン!
前は【検証】から情報を聞き出したはいいものの、岩山エリアとやらの具体的な場所を聞きそびれたので場所の特定で時間を費やして終わってしまったな……
まぁ、今日は本格的な鉄鉱石ゲットの作業をするぞ!」
そのように霧咲朱芽は自分の行動方針を固めていたが……
【#ЖЖ####【Ж】!!!】
偶然他のプレイヤーが近くで戦っていたため兎鰻レイドボスによって放たれた極太レーザーの流れ弾によって灰となり死に戻りすることとなってしまった……
「くそっ、ログインして早々にあの極太レーザーをくらうとか運悪すぎだろっ!?
これはまさにコラテラルダメージだな……
結果的に移動の時間短縮出来たからいいものの、この俺を巻き込みやがって!
今戦ってたやつ今度会ったら絶対キルしてやるからな!」
普段自分がしていることを棚に上げて怒りの感情を隠そうともしない霧咲朱芽だったが、元々兎鰻レイドボスにキルされて死に戻りする予定であったためすぐに溜飲が下がっていったようである。
そんな霧咲朱芽は草原エリアを脱し岩山エリアへと赴いていた。
そこは無骨な岩が盛り上がって剣のように形成された山であり、頂上に向かうにつれて勾配が急となりまるで登る者の心臓を貫くかの如く強靭なスタミナが必要となってくる。
「これを整備して誰でも登れるようにしようとしている【検証】も凄いよな……
俺はわざわざ地形を変えてまで山登りしようと思わないし、ああいうやつがこれからもこのゲームで指導者として活躍するんだろうよ。
……プレイヤーキラーの俺には縁の無さそうな話だけどな!」
そのように自嘲しながらも霧咲朱芽は【検証】青年から聞き出した目的の鉄鉱石がある洞穴へと足を踏み入れていた。
「上まで登らなくても手に入るのは助かるな……
この洞穴ははじめからあったらしいし、プレイヤーはまずここで資源を手に入れろ! ってことなんだろうけどこの急勾配の岩山を登れといわれたら命が幾つあっても足りなかっただろうからな!
俺は大人しく麓で採掘ライフを謳歌するぞ~!」
霧咲朱芽はチュートリアル武器の包丁を振りかざし洞穴の岩壁を殴り始めた。
本来であれば刃こぼれするであろう包丁であるが、ウインドウ画面にある申し訳程度のヘルプで「チュートリアル武器は一部の例外を除いて壊れない」とされているため霧咲朱芽は強気に振りかざしているのだ。
「くそっ、やっぱり固いな……
とはいえ、現時点で俺が包丁よりも頑丈な採掘道具を手に入れることは出来ないからな……
調理器具を作るための鉄鉱石を手に入れるための採掘道具を作るための鉄鉱石が必要になる……そんな堂々巡りをしている暇なんてないしな!」
そうして時間をかけて掘り進めていくと……
「これだな!
トレジャーハンターとしての鑑識眼がここで活きてくるとは思わなかったが、案外なんとかなるもんだな。
ただ、鉄を生成できる量を考えたらこれだけじゃ到底足りないか……」
一喜一憂しつつも何だかんだ楽しみながら採掘をしている霧咲朱芽。
現実でも似たようなことをする機会は多いようであるが、今は装備が整っていない……いわば『縛りプレイ』をしている感覚に近いようでこれはこれで楽しめているようだ。
「……あっ、そういえば採掘した鉄鉱石を運ぶ方法を考えてなかったな!?」
「それなら私の出番ですな!」
「えっ、誰!?」
採掘をしていた霧咲朱芽の後ろから現れたのは手押し屋台を連れている商売気のありそうな中年男性である。
「私はこのゲームで野菜屋のロールプレイをしたいと思っている普通の男ですな!
そしてチュートリアル武器は手押し屋台……これで店は始められても野菜を切り分けて販売できないことに気づいて、急いで包丁を作るための鉄鉱石を採りに来たのですな!」
「ふーん、俺たち案外似た者同士だな。
俺は料理系生産プレイヤーとして活動するためのフライパンと鍋を作るための鉄が欲しくてな。
……おっ、それならこういうのはどうだ?
しばらく俺が野菜を切り分けてやるよ、俺のチュートリアル武器は偶然にもこの包丁だ!」
「それは僥倖ですな!
……それで私が支払う対価はいかほどに?」
自然な流れで商談のようになっているが、この二人は楽しみながらこのやりとりを行っている。
お互いに求めていたものが手に入りそうだからなおのことテンションが上がっているのだろう。
「対価は俺が採掘した鉄鉱石を草原エリアの【鍛冶士】の鍛冶場まで運んでくれよ。
掘ったはいいものの、運ぶ手段が無くて困ってたんだよ……
その手押し屋台なら手で岩を運ぶより都合が良さそうだしな!」
「それは名案ですな!
それでは何往復かするですな!」
表情を明るくした商売気のある男性は既に採掘を終えていた鉄鉱石を積み込み、さっそく草原エリアへと向かって走り出していった。
それを見届けた霧咲朱芽はというと……
「最悪盗まれてたらキルしに行って賠償をふっかけるか!
それはそれで元は取れそうだしどっちに転んでも美味しい話だな!」
ろくでもないことを考えていたのであった。
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