990話 無断侵入と散る火花
【Raid Battle!】
【兎月舞う新緑の主】
【荒れ狂う魚尾砲】
【レイドバトル同時発生につき難易度が上昇します】
「はい、元気にログイン!
……って、ログイン地点ここで固定かよっ!?
まさか毎回レイドボスと強制的に戦わされるとは思わなかったな。
さっさと倒してしまわないと俺以外のプレイヤーも困るだろう……
それはそれで見応えのありそうな悪感情を観賞できるから俺としてはいいんだが、あの強さだと俺が観賞に 飽きてもしぶとく生きてそうなんだよな……
やっぱり俺が仕留めるべきか!」
霧咲朱芽はログインした直後に脳内に鳴り響いた無機質な声のアナウンスを聞いて兎鰻レイドボス討伐に尽力する決意を新たにしたようである。
このように決意をしている間にも、霧咲朱芽と同じようにログインしてきたプレイヤーたちが視界の先でレイドボスに次々とやられているのを見て悦に入っているのは一般的に考えると人格破綻していると言えるであろう。
本人もその自覚がありつつも治す気がないためたちが悪いのである。
そうして10分ほど眺めていると獲物となるプレイヤーが周りにいなくなったのか兎鰻レイドボスが移動を始めた。
運が悪いことにその進路には霧咲朱芽が隠れている物陰が明確に見えるのだ!
「ここから動いてもバレそうだし、動かなくても結局バレる……
これは八方塞がりってやつだな!
どうせ死ぬならこっちから仕掛けてやるよ!」
そんな言葉を吐き出し霧咲朱芽は包丁を片手に兎鰻レイドボスに目掛けて駆け出していった。
当然そのように大きく動けばレイドボスに見つかってしまい、レイドボス側も霧咲朱芽同様攻撃の姿勢で構え始める。
前足を屈めうつ伏せとなり力を溜めるのと代わりに、尻尾を前方に伸ばして牽制を行うというモンスターにしては隙のない体勢である。
「くっ、妙に知性的な構えをしやがって!
これでもくらえええぇぇぇぇぇ!!!」
霧咲朱芽は兎鰻レイドボスを仕留めるべく飛びかかり上から斜めに切り裂く斬撃……袈裟斬りを放つ。
並みのプレイヤー相手であればこの一撃の下瀕死に追い込むことが出来るほどの隙のない鋭い一撃である。
しかしながらプレイヤー相手に通用するとしてもそれがモンスター……それも格上のレイドボスに対して通用するかどうかは話が別だ。
「ぐぅっ!?
やっぱり昨日刃が通らなかったのは偶然じゃなかったか……」
包丁の刃を兎鰻レイドボスに触れさせたのはいいものの、そのまま弾かれてしまった霧咲朱芽は迎撃の姿勢を取っていたレイドボスの尻尾に胴体を貫かれそこからダメージの証拠である光の粒子が急激に漏れ出ていくのを見届けて死に戻りすることとなった……
「というわけで案の定死に戻り先は草原エリアか!
こうなると歩いて草原エリアまで来るよりはあのレイドボスにやられてワープしてくる方が効率が良さそうで泣けてくるぞ。
リスキルしてくるレイドボスに、死をワープとして利用するプレイヤー……既に限界極まったような構図だがこのままだとプレイヤー離れも早そうだし早々に決着をつけたいところだ!
……まぁ、倒す目処は全くついてないけど」
そんな呟きをしつつも草原エリアの様子を見て回る霧咲朱芽。
すると昨日には見当たらなかった簡易にしては立派な建物が建設されていることに気がついた。
「へー、こんな建物をすぐ建てられるやつがいるのか。
ちょっと興味あるし覗いてみるぞ!」
そうしてその建物の扉を思いっきり開け放ち、平然と無断侵入していく。
すると奥にいた人物がぎょっとした表情を顔に貼り付けて侵入者を凝視してあんぐりしていた。
「「あっ、お前は!?」!!」
侵入者である霧咲朱芽とその建物の主は顔を見合わせて驚きの声を上げていた。
「なんだお前は!!!
ワシの鍛冶場に侵入するなら、せめて入る時くらいはノックくらいせんか!!!」
「まさかお前の鍛冶場だったとはな……
昨日の今日で随分と立派なやつを建てたじゃないか!
鍛冶の真似事をするって聞いていたが建築も出来るなんて見込みありだな」
そう、霧咲朱芽が何度も遭遇しているガチムチの中年プレイヤー……【鍛冶士】である。
無断侵入をした霧咲朱芽であったが【鍛冶士】の技術の高さに評価を見直したような言葉を投げかけていた。
それもそのはず、霧咲朱芽の中で【鍛冶士】はレイドボスがいるなかで無謀にも採取をしていた変人という扱いになっていたので初期評価が低かったのである。
「わ、ワシを誉めても何も出ないぞ!!!
……だが、ワシの技術を評価したその姿勢と出会ったばかりのワシを助けようとした慈愛の心、そしてこの世界に降り立ったばかりのプレイヤーにしては高い練度の戦闘を披露したお前をワシも評価しよう!!!
ワシのことは【鍛冶士】と呼ぶといい!!!
鍛冶や生産アイテムの製造くらいなら請け負ってやろう!!!
素材はお前の持ち込みだがな!!!」
(慈愛の心……?
そんなものはないけど勝手に勘違いしてくれたのならヨシっ!)
「Win-Winの関係ってやつだな。
いいじゃん、乗ってやるよ!
あと一応俺は料理系生産プレイヤーとしてのんびり料理に勤しむつもりだから今度お前にもご馳走してやるぞ、首を長くして待っているんだな!」
「……戦闘がメインではないのか!!!
面白い、ワシの舌を唸らせる料理を持ってこれたならばお前の依頼を優先して生産アイテムの製造をしてやろう!!!
長い時を生きて肥えたワシの味覚にかなうものが本当に作れるのならな!!!」
こうして火花を散らしつつも協力関係となった霧咲朱芽と【鍛冶士】。
溝が埋まるのはまだ先のようである……
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