988話 逆ハーレムリベンジ
「「なんでお前がここに!?」」
声をハモらせながら対照的な二人が互いに問いかけていく。
その様子を端から見ている【検証】青年は蚊帳の外になっているため少々気の毒ではあるが、それどころではない二人がそのことに気がつく様子もなく話を進めていくこととなった。
「俺はこの【検証】と一緒に樹都エリアの調査をしてるんだ。
……とは言っても建物の中は見ての通りもぬけの殻、今のところ成果なしだがな!」
「ワシはお前とはじめに会ったときと同じように生産アイテムの素材採取をしておるのだ!!!
プレイヤーとして活動するならば地道に素材を集めておかないと何も出来ないからな!!!
今日のところは木の枝や廃材を集めておるぞ!!!」
「お前も生産メインのプレイヤーか!
俺もそんな感じでやろうと思ってるし関わることもありそうだな。
1日に何度も会うのは奇妙な縁だと思って繋ぐか、あるいは断ち切るかだが……」
「ふん、ワシを満足させるようなものを見せてくれなければな!!!
こう見えてワシは鍛冶の真似事ができる!!!
お前がそれ相応のモノを見せてくれたのならば力を貸してやらんこともない!!!
……お前にそれが出来るかは知らんがな!!!」
少しだけ棘のある口調で言い放ったガチムチ中年プレイヤー。
初対面で粗雑に飛ばされたことを遺憾に思っているのか、若干当たりが強いように感じられるのは無理もない話である。
「よし、そこまで言うのなら俺の包丁捌きでも見せてやろうじゃないか!
今から兎鰻レイドボスに挑んでくるから見てろよな!
メッタメタのギッタギタにしてやるから恐れ戦くといいぞ!」
売り言葉に買い言葉、霧咲朱芽は自分の力を見せるべく意気揚々と樹木の建物から出ていってしまったようである。
それを見送る【検証】青年とガチムチ中年プレイヤー。
残された二人は戦闘力に自信があるわけでもないため、建物の二階にあった窓から霧咲朱芽が歩く姿を眺めることとなった。
「【包丁さん】大丈夫ですかね……
いくら腕に自信があったとしてもあのレイドボスに一人で勝てるとは到底思えないんですけど」
「【包丁さん】……?
それがあいつの名前か!!!」
「そうですね、偽名ですけど。
どうやらこのゲームでは登録した名前を名乗るとバグのようなものが起きて身体が思うように動かなくなるみたいです。
あなたも気をつけてください。
……あっ、ボクのことは【検証】と呼んでください」
「ワシは……そうだな……【鍛冶師】と呼んでくれ!!!
さっき鍛冶をやると言ったばかりだから覚えやすいだろう!!!」
そんなほのぼのとした雰囲気で自己紹介をしている二人とは別の場所。
そこでは霧咲朱芽が遠巻きに兎鰻レイドボスの様子を窺っていた。
樹木の建物の陰に隠れながらその姿を覗き見る形となっているが、見つかるのも時間の問題であろう。
「……あっ、また誰かやられてるし!?
遠巻きに見てもデカイからプレイヤーを蹂躙している姿が映えるな……
それに挙動一つ一つが不気味というか、兎部分と鰻部分が全く別の動きをしてるぞ!?」
意気揚々と【鍛冶士】や【検証】青年の元を去ったのと対照的に、戦地に赴きつつも戦いを挑む前に兎鰻レイドボスの動向を探っているのである。
「遺跡とかに眠ってた変な生き物を突破する時もまずは様子見が最適解だったからな……
これは現実じゃなくてゲームだからその経験則が通用するか分からないが悪い手ではないはず!」
そうしてじっくりと動きを観察していたところ、視線を感じたのか兎鰻レイドボスが霧咲朱芽の方へと駆け寄り始めてきた。
「不味い不味い不味いっ!?
まだ行動パターンが全く読めてないのに戦闘が始まってしまうぞ!?
……こうなったら仕方ない、ぶっつけ本番だがリベンジマッチといこうじゃないか!」
不足の事態に若干慌てていた霧咲朱芽であったがすぐに冷静さを取り戻し包丁をぎゅっと握り締めていく。
「くらえっ!!」
まず先手を取ったのはなんと意外、霧咲朱芽である。
身体能力の差があるにも関わらず相手の動きの隙を突いて包丁の刃を兎鰻レイドボスの身体へと突き立てたのだ!
……だが。
「はっ!?
包丁の刃が通らないってまじかよ!?
そんなことある?」
霧咲朱芽は絶好のタイミングで攻撃を通したつもりだったのに、その攻撃がダメージに繋がらなかったことに驚きと落胆の表情を顔を浮かべていたが、その直後に兎鰻レイドボスの攻撃が迫ってきていることを見ていたので慌てて倒れ込み攻撃が当たる寸前のところで回避することに成功した。
しかし、その程度で攻撃が終わるほど甘い相手では無かったようで……?
「ぐわあっ……
くそっ、腹に風穴を空けられた!?
その爪、見た目以上に鋭いんだな……」
手痛い反撃を受けてしまった霧咲朱芽は身体を維持することが出来なくなり、そのまま光の粒子と化して死に戻りしていくこととなったのだ……
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