987話 検証と再会
【Bottom Down-Online Now loading……】
「くそっ!?
あんな必殺技使ってくるなんて流石に卑怯だろ……」
死に戻りし別の場所……一面が緑の草原に転移してきた霧咲朱芽。
そこには霧咲朱芽以外にも多くのプレイヤーが溢れており、それは誰一人あの兎鰻レイドボスに敵わなかったことを示していた。
「レイドボスがいない平和そうなところに死に戻りしてきたのは良かったが、こんなにプレイヤーが一ヶ所に集まってよくサーバーが落ちてないよな……
専門じゃないから分からないが、普通は処理が重くなったりするもんだろ」
ゲームバランスの悪さに一通り文句を言い終えた霧咲朱芽はこのゲームの違和感について呟き始めた。
「そもそもあのチュートリアル空間の時点で人が多かったし今さら感があるけど」
「確かにそうですよね。
ボクもその辺り違和感を感じていました」
そんな霧咲朱芽の呟きに突然反応してきたのはチュートリアル空間での騒動を収めようとしていた痩せ型の青年である。
「お前は……?」
「ボクの名前は……ってこの流れで名乗ると不味いんですよ」
「ああ、そうだったな。
俺は持ってるチュートリアル武器が包丁だから【包丁さん】とでも呼んでくれ」
「それならボクの呼び名は【検証】にしましょうか。
チュートリアル武器はビーカーや三角フラスコの実験検証道具セットみたいなのと、ボク自身がこのゲームで検証班のようなことをやろうと思っているからね」
【検証】と名乗った青年はそう言い放つと一呼吸置いてから再び霧咲朱芽へと語りかけ始めた。
「では【包丁さん】。
違和感について気がついた聡明なあなたとボクでこれから簡単に、あの兎鰻レイドボスや樹都エリアの調査と検証をしてみませんか?
とりあえずお試しで今日だけでもどうですか?」
「樹都エリア?
俺たちがチュートリアル空間から出てきてすぐ放り出されたあの場所のことか?」
「そうですね。
エリアの名前も分からなかったので仮でそう呼ぼうと思います、何かしら呼び名がないと不便ですからね……
……それでどうします?」
【検証】青年の申し出に腕を組んで頭を捻りながら考える霧咲朱芽。
少し考えてみた後口を開き【検証】青年へと返答をし始めた。
「他の場所の散策と悩んでみたが、今日のところはお前と一緒に行動するのも悪くない!
どっちにしても遊び方も自由そうだしな!」
(本当は食材とか集めたかったんだが、料理するのは明日からでも遅くないだろう……)
「そう言っていただけると助かります。
チュートリアル空間での動きを見るに荒事にも慣れている様子でしたから護衛も頼みたいです。
あの兎鰻レイドボスもレイドボスですから、ゲームのお約束事として周りに取り巻きのモンスターもいるでしょうしその辺りも確認したいですね」
「そういえば見なかったな?
何せレイドボスが現れてからほぼ即死に近かったし、確認する余裕がなかっただけかもしれないがこれは色々と知っておかないといけないことが多いな……」
「……あ、掲示板にここから樹都エリアに向かう道筋が上がってきました。
どうやら西の方角に歩いていくと樹都エリアに到達するようです。
さっそく向かってみましょう!」
(ん? 掲示板機能とかあるのか……?)
霧咲朱芽はウインドウ画面を弄り【検証】青年の言っていた掲示板を見つけ、樹都エリアに向かいすがら眺めていくのであった……
【Raid Battle!】
【兎月舞う新緑の主】
【荒れ狂う魚尾砲】
【レイドバトル同時発生につき難易度が上昇します】
「さて、やって来ましたね。
外から入ればレイドアナウンスが流れてもすぐに兎鰻レイドボスが現れるわけではないことが分かったのはさっそく進歩です。
今のうちにマッピングをしていきましょう」
「雑魚モンスターが徘徊してる気配は無さそうだな……
あのレイドボスにビビって隠れてるのか知らないが、お陰でスムーズに探索が出来そうだ。
あいつに見つかる前に樹木の建物の中を調べるぞ!」
そうして建物の中を物色し始めた二人であったが特にめぼしいものはなく、傷んでいる箇所こそ少ないもののただの廃墟であることが判明した。
「レイドボスさえいなくなれば拠点にも使えそうですね。
……居なくなってくれたらですけど」
「このままだといつ襲われるか分からないし、そうなると拠点どころじゃないからな……
その悲願を達成するためにもまずは情報集めからだ!」
「そうですね。
知は力なり! ボクの戦闘力は皆無ですが戦えるプレイヤーたちのために土台を整えるのがボクの役目だと思っています!」
「役割理論ってやつだな。
得意分野で役立とうとするのはいい心意気じゃないか!」
少女のような見た目の霧咲朱芽に褒められた【検証】青年は赤面し、人差し指で頭を掻きながら照れていた。
そんな【検証】青年を横目に霧咲朱芽は急に入口周辺を警戒し始めた。
「……何か来るぞ」
「兎鰻レイドボス……ですか?」
「いや、足音からすると人型だな。
プレイヤーにしては妙な気配だが……」
そうして二人は固唾を呑みながらチュートリアル武器を構えて入口に警戒心を飛ばしていく。
姿を見せたその人物の顔を見ると霧咲朱芽とその人物はお互いに指を突き付け合って大声を上げていて驚きを隠せないようであった。
「「あっ、お前は!?」」
二人の前に現れたのは霧咲朱芽が初めての死に戻りする前に助けたガチムチの中年の男性プレイヤーだったのだ!