986話 ドキドキっ!はじめてのレイドバトル
プレイヤーネームを決定し、とうとうチュートリアルを終えてフィールドへと繰り出した霧咲朱芽。
緑が萌える樹木が立ち並ぶ新緑都市の中にその華奢な両足が地面に降り立ったとき、その脳内に無機質なアナウンスが鳴り響き始めた。
【Raid Battle!】
【兎月舞う新緑の主】
【荒れ狂う魚尾砲】
【レイドバトル同時発生につき難易度が上昇します】
「……は!?」
突然の出来事に思わず口を開けながら呆けてしまっている霧咲朱芽であるが、そのようになっているのは霧咲朱芽だけではなく周りのプレイヤーたちも同様であった。
なぜなら……
「レイドバトル!?」
「ってことはあいつがレイドボス!?」
「ゲームが始まった瞬間にレイドバトルってバグじゃないのか?」
「いや待て、これはチュートリアルの一環であのレイドボスが見かけ倒しという可能性も……」
「二体というよりあれって一体に合体してるだろ!」
突っ込みどころが多かったからである。
すぐさま状況把握に努めようとしたプレイヤーたちが違和感に対して苦言を呈し始めたのだが、その視線の先にいるのは紫色の体色という見るからに危険な大型の兎型モンスターがプレイヤーたちへと敵意を向けながら現れている。
その大型兎には漆黒の尻尾が生えており、先端には鰻の顔のようなものがついていた。
奇妙な組み合わせの合成獣モンスターに無謀なプレイヤーが一目散に攻撃を仕掛け始めたのだが……
「ぐぇ……」
「動きえげつない……」
「もう何人も死んだわよ!?
どうなってるの!?」
兎と鰻の混ざりあったレイドボスは先陣を切ったプレイヤーたちを鎧袖一触。
鋭利な爪による斬撃と尻尾による鞭のような強烈な打撃がプレイヤーたちを同時に葬っていってしまった。
それもそれぞれ一撃である。
そして、散っていったプレイヤーたちは光の粒子を拡散させながらこの場から姿を消していった。
それを見た霧咲朱芽は身の危険を感じ、それと同時に脳内に警笛が鳴り始めた。
(あれはヤバい……っ!?
俺たちプレイヤーとは明らかに存在の格が違うって分かるからな……
これまで調査してきた遺跡にも変な生き物がいたりしたが、流石にこんな化け物は初めてだ。
流石はVRMMOのモンスター……容赦がないなっ!?)
後に霧咲朱芽が知ることになるがVRMMOのモンスターだから格が違うのではなく、このゲーム特有の特徴なのである。
そうして兎鰻レイドボスがプレイヤーたちを蹂躙している最中に端の方で何かを採取しているガタイのいいガチムチ中年プレイヤーが霧咲朱芽の目に入った。
何故急にそのプレイヤーに目を惹かれたのかは本人しか分からないことではあるが、この蹂躙ショーの中で採取に専念する姿が異質だったこと以外にも何らかの要因があったのであろう。
そして、ある程度プレイヤーがいなくなった頃そのガチムチ中年プレイヤーが兎鰻レイドボスの標的になってしまった。
少しだけ離れたところにいたそのプレイヤーはレイドボスの接近に気づいていないのか反応する素振りを見せずそのまま採取を続けている。
「流石にあの無害そうなおっさんを見捨てるのは後味が悪いか。
おらっ、おっさんは向こうへすっこんでろ!」
霧咲朱芽は全力でガチムチ中年プレイヤーを真横へと蹴り飛ばし兎鰻レイドボスの突撃軌道から回避させていった。
そして霧咲朱芽もそのまま前のめりに突っ込んでいき二人とも回避することに成功したのだった。
「なっ、何をする!!!
ワシはここで素材集めをしていたのだぞ!!!」
「ばーか、お前は今あのレイドボスに狙われていたんだぞ?
採取するにしてももっと周りに注意を向けておけよな!」
「ワシにそういうのは必要ないのだが……
と、とりあえず感謝はしておこう!!!
だが、ワシの採取の邪魔はしてくれるなよ!!!」
そのような会話をしてガチムチの中年は森の奥へと逃げ去っていった。
(やけに警戒心が強いおっさんだったけどそんなに俺が怖かったか?
俺は可憐な乙女だってのに、おかしなやつだ。
……さて、獲物を逃がしたってことはあの兎鰻レイドボスはさぞやお冠のことだろう。
本来の獲物がいなくなったのなら次に狙うのはその近くにいるやつか、その逃げる要因を作ったやつになる。
……そのどちらにも当てはまるのは、俺だ!)
案の定、霧咲朱芽が考えた通りに兎鰻レイドボスは身体の向きを変えてきた。
しかし近寄ってくる素振りを見せず、代わりに尻尾に力を込め始めた。
一見すると何をやっているのか分からないが……
「ゲームのお約束ならこういう時間の後には……必殺技が来る!?」
【#ЖЖ####【Ж】!!!】
何を意味しているのか分からない獰猛なる雄叫びがアナウンスとして眼前に表示され、それと同時にレイドボスの顔のカットインが流れてきている。
他のゲームでもよくある、必殺技を使ったときの特殊演出である。
兎鰻レイドボスの尻尾へ急速にエネルギーがたまっていく様子。
そして間もなくすると、尻尾から紫色の極太レーザーが戦闘場所全域に放出された。
尻尾から放たれる無尽蔵極太レーザーに霧咲朱芽はもちろんのこと、周りにいたプレイヤーたちも一斉に攻撃を受けてしまったのだ!
尻尾から放たれる無尽蔵極太レーザーに体を消されていくと身体が灰のような粒子となり、空中へ霧散していった。
ここから起きることといえばただ一つしかないだろう。
そう、所謂、死に戻りというものである。
一話のタイトルロゴを描いていただけました!
興味がある方はぜひ見てみてください!