984話 生涯の武器と爆弾魔少女
昨日は2話更新しています。
まだ前の話を読んでいないかたはそちらからどうぞ!
「うーん、どれも悩ましいが俺がこのゲームをやろうとした理由は仮想現実で料理がしたいからだからな……
武器として包丁を手に入れると調達しないといけないものが減るから楽になるか?
いや、むしろ包丁は別で手に入れた方がいいのか悩むよな……
モンスターと戦うことになるなら鏨だと投擲しながら戦う暗器スタイルの戦いかたかハンマーを併用して近距離で打ち込む近距離接近型、縄標だと前衛寄りの中距離スタイル、包丁なら短いリーチで速攻を仕掛ける軽戦士スタイルになりそうだ。
どれでも戦えるからこそ悩ましい!
脳内スキャンされたからこそ俺が出来ること、やりたいことが詰め込まれたんだろうな」
ちなみに鏨は鋭い刃を持っており、反対側をハンマーで叩くことでコンクリートを削ったり岩や金属を削ったりするものだ。
トレジャーハンターとして探索しているときに使うことがある道具の一つだ。
縄鏢は、鏢と呼ばれる棒手裏剣状の刃物に3–5mの縄がついた武器である。
この道具自体はトレジャーハンターとして使うことがないはずだが、霧咲朱芽は長縄の扱いに長けているためその応用で利用できると思ったのであろう。
包丁については説明を省略。
調理器具の刃物である。
「やっぱり先立つものが手に入るに越したこと無いな!
うん、俺の初期武器は包丁に決定だ!」
そうして宙に浮かんでいた包丁に手を伸ばし、包丁を光の中から引っ張り出した!
すると、まるで身体の一部になったかのような錯覚を覚え手の中でしっくりと馴染んできたような様子を霧咲朱芽は見せていた。
「これは驚いたな……
まさか武器の握り心地まで最適化されるとは……
市販のものと違って俺の手にしっくりくる!
これが最新鋭のVR技術ってやつなのか!?
多分脳内だけじゃなくてアバターの細部までスキャンしているんだろうが外的な身体だけじゃなくて動きの癖まで読み取ってる気がする。
なにせ包丁をこんな角度で振り下ろすやつは現実にはそうそういないだろうし……」
そうして霧咲朱芽は包丁の素振りをしているようであるが、袈裟斬りや逆風など様々な斬撃を織り混ぜて身体を動かしているのにも関わらず擦れること無く手の中で馴染んでいる包丁の構造に興味を示しているようである。
そのようにして時間を過ごしていると規定の時間が過ぎ全員の初期武器選択が終わったのか、プレイヤーたちの脳内に再び声が響き渡り始めた。
【やや遅かったような気がしますが全員が無事にチュートリアル武器の選択を終えたようですね】
【今回の武器はゲーム規約に基づいた上でそれぞれに合う武器が選ばれたと思いますが、それでも合わなかった者については諦めてゲーム内で別のものを探すといいでしょう】
【……もっとも、あなたたちがチュートリアル武器を使いこなせないことは致命的だと思いますが、この言葉はこの先に進んでから意味を噛み締めるといいでしょう】
武器の選択を終えたプレイヤーたちの今選んだ武器の大切さを謎の声が説いているが、霧咲朱芽はその物言いに疑問を抱いているようで……
「なんか偉そうな物言いだな!?
さっきまで普通のチュートリアルガイダンスみたいだだったのに辛辣というか上から目線というか……
いや、俺の気のせいかもしれないが何か引っ掛かるんだよな……」
そんな先への予感にも思われることを呟きながらも霧咲朱芽はこの場ではそれ以上考えることなく、謎の声の言葉の続きを待つことにしたようだ。
【それではこれからプレイヤー同士の接触を解禁します】
【これまで姿だけ見えていた他のプレイヤーたちに声をかけることも、触ることも可能になります】
【また、プレイヤーネームについてはこの期間中に設定しておいてください】
【設定せずこのチュートリアル空間から出てしまいますと強制的にプレイヤーネームが【ナナシ】に設定されます】
【ちなみに、プレイヤーネームは今後特殊な事情がない限りは一切変更不可能です】
【プレイヤーネームが決まりましたらウインドウ画面を操作することで自由にチュートリアル空間を抜けてフィールドに繰り出すことか可能になります】
【このチュートリアル空間から抜け出しフィールドで出た後はこのチュートリアル空間に戻ることが出来ませんので、まず安全に交流したい場合にはここでゆっくり腰を落ち着かせるのも手でしょう】
【弱き者は群れることで絶対的力に抗うことになりますからね】
そしてその言葉を最後に謎の声は口を閉じ、喋ることが無くなったようだ。
また、それと同時にプレイヤーたちが移動を始め他のプレイヤーに声をかけ始めていく。
その中で真っ先に動き出した低い身長のわりに胸の大きな黒髪サイドツインの少女が大声で自己紹介を始めた。
「みなさーん!
私は【ボマード】です!
このゲームで人気者になりたいので応援お願いしますよ~!」
そんな無邪気な声に周りのプレイヤーたちは微笑ましげな表情を浮かべて手を振っていたが、その途端にボマードと名乗った少女がバタリと地面に倒れ込んでしまった。
「……っ!?」
その突然の事態に周りのプレイヤーたちは驚愕の表情を顔に浮かべる他なかった……