971話 【8ターン目】夢幻の茨
くっ、何度も何度も……っ!?
聖剣を振る剣圧だけで見えざる刃を飛ばすことを再現してくる【ランゼルート】。
同じ場所に留まっているだけでは恰好の標的となってしまうのでルル様の漆黒の翼で飛翔し続けたり、自らの足で駆け抜けたりしてまともに攻撃に付き合わないようにして攻撃の隙を窺っていた。
だが、【ランゼルート】自身は普通に聖剣を振っているだけに過ぎないのであいつの動きで隙ができることはごく稀だ。
……でも動き回った甲斐あってか一瞬だけ【ランゼルート】の視界に入り込むことができた。
この好機を逃せば戦いにならないので確実に仕留めさせてもらうぞ!!!
スキル発動!【堕枝深淵】!
重ねてスキル発動!【堕枝深淵】!!
俺は詠唱破棄しつつも【堕枝深淵】を2つ同時に重ねてスキルを発動していく。
今の俺はルル様の深淵細胞を2つ重ねた状態のため同じ深淵スキルを発動できるわけである。
まずはいつも使っているタイプの黒い茨を右翼から生み出し【ランゼルート】へと向かわせていく。
「しまった!?
でも、その黒い茨はもう見飽きたよ!
はあああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
【ランゼルート】はワンテンポ遅れた状態で聖剣を振るい先程までと同じように俺の黒い茨を切り裂いていく。
重ねている分黒い茨の強度も増しているはずなのだが、これまで同様にバターでも切るかのようにあっさり切られてしまった。
……ちょっと自信が無くなってくる光景だな……
「今の奇襲は見事なものだったけど君が深淵の力の使い手だったことが足を引っ張ったね?
これが聖獣や天子、機戒や深海、森人の力であったら迎撃しきれなかったかもしれないよ?」
まるで俺を窘めるかのようにそう言い放った【ランゼルート】だったが俺にはそうは思えない。
確かにそれらの力であれば【ランゼルート】の【正義】の権能の影響を受けず攻撃を通せたかもしれないが、あいつには上位解放した【勇者鎧アンチノミー】と【勇者聖剣パラドクス】があるからな……
結局は切り裂かれていたかもしれないし、鎧を貫通させることができなかったかもしれない。
それに……
『迎撃しきれていないのは今この時……
深淵の力を受けていても起きているんだからなっ!』
「何っ!?
茨が高速再生している……だとっ!?」
【ランゼルート】が驚いているのはさっき切り捨てたはずの【堕枝深淵】の黒い茨たちが急速に再生し始めているからだ!
今俺が放った黒い茨はもちろんのこと、その前にしつこいほど放ち続けた茨や触手たちも呼応するように一斉にその姿を取り戻していく。
これが【夢幻】の力の一端の超解釈だ!
ファンタジーガスを操る【風船飛行士】の感覚を思い出し力の行使をしているので非常にイメージしやすい。
なにせあの気持ち悪い光景を再現してやればいいんだからな!
誰もが対面したくないひとりでに再生する姿は実に奇妙で、誰もが違和感と嫌悪感を示していたので嫌われることが仕事のプレイヤーキラーである俺には珍しく流用しやすい姿だった。
「切っても切っても再生していく……
君がしつこいほど僕に黒い茨や触手を伸ばしてきていたのはこれが狙いだったからなのか!?
でも、これなら再生が追いつく前に君を仕留めればいいだけ……僕に勝つにはまだまだ攻撃力が足りないよっ!」
【ランゼルート】の言うように高速再生している黒い茨はこれまでと違い、その圧倒的物量によって聖剣による攻撃を遮断しはじめたがその一方で【ランゼルート】に届いた黒い茨は数えるほどしかない。
【ランゼルート】も斬撃を飛ばして一刀両断してきているのでこれで……ここまでしてようやくまともな戦いを演じれるようになっただけである。
……つまり、ここが本当のスタートラインってわけだな!
なんとも度しがたい相手だ……
「それは僕から見た君の方も同じだけどね。
まさかここに来てこんな大がかりな仕掛けを残していたなんて想像も出来なかったよ。
完全に悪あがきをしているようにしか見えなかったからね……
でも、この攻撃に対する切り札を僕が残しているのを君もよく知っているよね?
忘れたとは言わせないよ」
まさか……とうとうアレを使ってくるのか!?
前回【ランゼルート】と戦った次元戦争で見せつけられた圧倒的力……【上位権限】レイドボスである【ガルザヴォーク】を葬り去った最強の一撃がっ!?
「そうさ、かつて深淵の竜を滅ぼしたこの一撃でこの黒い茨たちもろとも君も終わらせてあげよう!!
流石に欠片も残らないように消し飛ばしてしまえば高速再生もされないだろうからね?
スキル発動!【必殺名技】!
ああ聖剣よ……わかっているとも!
共に今度こそ仇敵【包丁戦士】を滅する時!
早く門を開きにいこう!
そしてもう一度お前の力を見せてくれ!
【聖突破魔剣】っっっ!!!!!」
そして、【ランゼルート】は自らが持つ聖剣に語りかけたあと、スキルによって聖剣から神々しく光輝く聖なる光線を発し始めた。
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