970話 【8ターン目】勇者見参!
……と考えているところだったが俺が行動を起こす前に【ランゼルート】が先に新たな動きを見せてきた。
「このままでは僕の方が有利といえどもジリ貧だね。
これ以上の長期戦は僕の望むところではないからここで切り札を使わせてもらうよ!
『ユニーク』コマンド起動!」
【ランゼルート】は覚悟を決めた顔でウインドウ画面を操作し、この次元戦争最大のワイルドカード……『ユニーク』コマンドを呼び出し起動しはじめた。
解き放たれた『ユニーク』コマンドによって【ランゼルート】の身体が光輝きはじめ、前に戦ったときのような威圧感を放ちはじめた。
これは……潜在的な力の解放だろうか?
俺の脳内では目の前の【ランゼルート】を相手にしない方がいいという警笛が鳴り響いているような幻聴さえ聞こえてくるほど急激に力を増してきたのだ!
「僕の『ユニーク』コマンドはこのターンだけ『勇者』系統の【上位権限】を全て解禁するというものさ!
そう、例えばこんな風にね!
スキル発動!【勇者見参】!」
姿は変わらなかったが感じられる力の流れからすると、【権限顕現】スキル……いや、スキルの名前の法則から考えると【深淵纏縛】のようなその上位のスキルか!
こいつは元々【勇者】の力を常時垂れ流していたが、スキルで出力を上乗せしてリミッターを外してきたのだろう。
このスキルは前に説明していたが底辺種族の最上位ジョブ『勇者』が本領を発揮するための下準備ということだった。
つまり、この後の展開は……
「あの戦いの最中で説明したことをよく覚えていたね、この【勇者】の力によって僕は【上位権限】を最大限に行使することが出来る!
【上位権限】発動!【他次元スキル】ー【名称公開】ー【修練防具上位解放】ー【勇者鎧アンチノミー】!
【上位権限】発動!【他次元スキル】ー【真名解放】ー【修練武器上位解放】ー【勇者聖剣パラドクス】! 」
【ランゼルート】はスキルを発動し、聖剣や鎧の姿を変えていく。
聖剣は宝玉が埋め込まれた黄金色と銀色が入り雑じった刀身へと変化し、鎧も同様の配色となった。
そして、背中には翼が生えてきて1つ、また1つとその枚数を増やしていく。
これが【ランゼルート】最大の脅威……全ての次元の【名前に関するスキル】を自由自在に操れるのだ!
しかもチュートリアル武器やチュートリアル防具を上位解放することすらも出来るというぶっ壊れ具合である。
【名称公開】はお馴染み包丁次元のスキルで、【真名解放】は蛇腹剣次元のスキルだ。
特にチュートリアル武器の上位解放は蛇腹剣次元のMVPプレイヤーのパジャマロリ……【マキ】が使ってきていたのでその恐ろしさを何度も実感させられている。
他のMVPプレイヤーたちと比べて戦闘技術など一歩劣る【マキ】が他の次元と渡り合えていたのは、蛇腹剣を大規模強化して戦えていたことが一つの要因であるのは間違いないからな!
そんな強力なスキルを元々最強格の【ランゼルート】が使えば鬼に金棒! 向かうところ敵なしだったのも頷けるものである。
「そんな悠長なことを言っている余裕があるのかな?
速攻で決着をつけるためにさらに攻撃力を上げていくよ!
【上位権限】発動!【他次元スキル】ー【名勝宣言】!」
【【ランゼルート】の【名勝宣言】】
【【ランゼルート】のオブザーバーの数に応じて攻撃力が伸長した】
【ランゼルート】はさらに【名前に関するスキル】……【名勝宣言】を繰り出してきた。
これはギアフリィ率いるパイルバンカー次元のスキルだ。
オブザーバーが何を指し示すのか不明だが、言葉の意味をそのまま捉えるなら『傍聴者』。
つまり少なくとも【ランゼルート】に興味のあるやつが多いほうが良い効果を生み出すに違いない。
【正義】を掲げる大多数に所属する【ランゼルート】であればその『傍聴人』の数も多いことだろうよ。
「知名度に応じて能力が下がる君の次元のスキル【名称公開】とは真逆のものだよね。
だからこそこの場ではこのスキルが活きるのさ!」
【ランゼルート】はそういって聖剣を振るうと、刃が何かに当たったわけでもないのに俺の触手が千切れていってしまった……
まさか剣圧のみで俺の触手を切り裂いたとでも言うのか!?
それがまかり通るなら、まるで通常攻撃が【フィレオ】と同等ということになってしまうではないか!
そして、切り裂いたのは俺の触手だけではなく俺の脇腹にも深く斬撃痕が刻み込まれてしまった……
この威力……俺はあと何回の斬撃に耐えることができるだろうか?
攻撃の受け流しは得意な方だが流石にこれは規格外、辛うじて直撃を免れるのが精一杯だぞ!!!
「そんなに時間はかけてられないからね。
お望み通りあと数回の命にしてあげよう!」
これは……不味いですね……
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