964話 【7ターン目】翼による翻弄
スキル発動!【竜鱗図冊】!
俺は巻物から竜鱗を出現させて、それを身に纏っていく。
チュートリアル武器や、身体にみっちりと鱗が貼り付いていくと最後には背中から漆黒の竜翼を突き出し【ランゼルート】へと見せつけていく。
……まあ、奥の手はまだ温存出来そうだしこれで様子見だ。
勝負どころまで【深淵纏縛】は温存して、【ランゼルート】の意表を突きにいかないとまともに勝ち目はないからな!
「その翼、その鱗……実に禍々しい!
どす黒く濁ったその黒色は、まるであの【ガルザヴォーク】を彷彿させる邪悪さがひしひしと伝わってくるよ。
やはり君は危険な存在のようだからここで仕留めさせてもらおう!」
俺の竜フォームは邪悪竜人に性質がかなり近寄っているらしい。
俺と瓜二つの【フェイ】や【フランベルジェナイト】が自然とそうなっていたように、俺も深淵の力を受け入れているからこそ聖獣からかけ離れたものになったのだろう。
だからこそ目の前にいる【ランゼルート】は俺に対して酷く警戒心を持っているわけだ。なにせこいつの宿敵【ガルザヴォーク】は深淵の竜だから今の俺の姿と共通点が多いからな!
そんな【ランゼルート】が聖剣で俺を切り裂こうとしてくるが、今の俺にはさっきまでと違い翼がある!
翼の推進力を使い螺旋階段の吹き抜け部分まで飛翔し、その斬撃を回避することに成功した。
はっはっはっ、流石に空中にいる相手に聖剣でダメージは与えられないだろ!
いい気味だ!
俺は高笑いしながらさっそく【ランゼルート】にマウントをとりにいったが、この男の表情には悔しさというものが一切現れていなかった。
……なんだ? この状況でそんな表情をするなんて……?
そう、【ランゼルート】は口角を上げてニヤリと笑みを浮かべていたのだ!
不味いっ!?
何が起こるか分からないが俺の直感がこのままでは身の危険があると警笛を鳴らしている。
俺はその感覚を信じ、今いる場所から急いで飛び去るとさっきまで俺がいた場所を【ランゼルート】が通り抜けながら聖剣を振っていた。
「くっ、外したか……」
あいつ、脚力だけで飛んできたぞ!?
この場所が螺旋階段で、吹き抜けを通り抜ければ向かい側に別の階段があるのでそこに着地を成功させたわけだがあれはおかしい。
身体スペックがほぼ一緒なのにあんな宙を飛ぶような真似を出来るのは、身体の使い方を誰よりも熟知した上で最適化したからだろう。
化け物かよ……
「そんな禍々しい姿をしている君に化け物呼ばわりされるのは心外だね。
これでも努力の賜物なんだけど」
何を言うか!
この俺の姿もどっちかといえば努力の賜物なんだぞ!
自分の次元のマッピングをしないとここまで力をつけてくれないからな……
……まぁ、姿が禍々しいのは認めてやろう。
化け物じみたお前に対抗するにはそれ相応の力を出さないと一瞬で命が刈り取られそうだからな。
化け物には化け物をぶつけるしかないのだ!
そうして俺たちは会話を打ち切り再び剣戟を交えていく。
上空から俺が包丁で切りかかるのを【ランゼルート】が振り払い、今度は【ランゼルート】が返す刃で俺の胴を真っ二つにしようとしてきた。
並みのやつならここで即死していることだろうが、生憎俺はそんなに安い女じゃない!
翼を翻し空中で回転することで【ランゼルート】の聖剣の軌道から間一髪回避していく。
ただ、このまま回避で終わるのは味気ないので、この回転を活かすために包丁を外に突き出したまま【ランゼルート】へと突撃をしかけていった。
「まるでハリネズミみたいだね。
でも、そんな曲芸が僕に通用するとでも?」
俺が回転によって増強させた運動エネルギーをものともせず、【ランゼルート】は聖剣を横向きに添えるだけで俺の一撃を受け止めてきた。
俺の包丁の腹を使った受け流しが柔を技だとすれば、この聖剣による受け止めは剛の技……
つまり俺の勢いをやり過ごすのではなく相殺させているんだな。
非力な俺では真似できない芸当だ。
「君が僕に勝てるかどうかは別として、非力を自称するには力を持ちすぎじゃないかな?
次元天子に上位権限……様々なものをその手で勝ち取ってきているんだからね。
スタンスの違いはあれ、君と僕は似たような推移を辿りつつある。
だからこそ、君を非力だとは思ってはいないよ。
ただ、それ以上に僕の力が上回っているからこそ勝利を確信しているのさ!」
【ランゼルート】め……はじめは激昂していたが、戦っているうちに頭が冷えてきたのか?
俺の言葉尻から色々探ったり、突いたりしてくるようになったな。
直情的であるからこそ、その処理方法もある程度は心得ているわけか。
それに、今回はまだ【アイシア】が存命なのもあってあちら側に余力が残されているのも要因の一つだろう。
やっぱり残りの二人を……少なくとも【アイシア】だけでも撃破しておかないと揺さぶりも効果が薄そうだ……
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