962話 【7ターン目】螺旋の黄金宮殿
本日2話目の更新となります。
前の話を読んでいないかたはそちらからどうぞ!
「攻撃」コマンドを選択した俺たちの視界が歪んでいき転送が終わると、そこは再び黄金宮殿内部。
再び転送されてきたわけだが、ここは物見部屋のようだ。
とは言っても、宮殿の外を見張るための場所のため他のプレイヤーの動向が分かるわけではない。
それ自体は残念ではあるが、窓の外にはさっきまで俺たちがいた宮殿の庭園が一望できるのでせっかくだから少し覗いてみるか!
庭園の形を見ると、この宮殿がある文字を象ったような構造をしていることが分かったきた。
なんとなく予想はしていたが、本格的にこの黄金宮殿の主が誰なのか把握できたぞ!
この情報が何に使えるのか不明だが、フィールドの特徴を把握しておくのは悪いことではないだろうからな!
俺の本業でも似たようなことがよく言われているので、今回の転送位置は対戦相手から遠かったもののそんなに悪い引きじゃなかったと言えるだろう。
……とはいえ、そろそろこの部屋から動かないとせっかくの「攻撃」コマンド時間が無駄になることになる。
さっさと移動を開始することにしよう!
物見部屋を出ると螺旋階段がありそこを下っていく形となったが……
誰かいるな!
上からだと死角になる場所……おそらくは柱か何かの裏に誰かが潜んでいるようだ。
まだそこまで近くないようだが螺旋階段のどこかに潜んでいるらしい。
おおかた螺旋階段を登ってくる最中に俺が部屋から出てくる音を聞いて慌てて隠れたのだろう!
螺旋階段は構造上吹き抜けにならざるを得ないので音も響き渡ってしまうのは仕方ないことだ。
隠れている気配は息づかいからして男……か?
まだ距離があるので確定ではないが階段を上がるときに使った体力の関係で呼吸が激しくなっているのでやや聞き分けやすい。
現在、この次元戦争にいる男プレイヤーは味方だと【風船飛行士】、敵だと【ランゼルート】と【ラクヨウ】の三名だ。
つまり敵である可能性は確率的に考えて充分に高いと言えるだろう。
【風船飛行士】なら文句無し、【ラクヨウ】なら適当にあしらって逃げる、【ランゼルート】なら今後のことを考えてここで仕留めたいところだが……
「ようやく君と戦場で再会できたね」
……どうやら今回の俺の運勢は凶だったらしい。
俺の前に現れたのは金髪に赤いメッシュの入った髪で、銀色に輝く鎧を着込んだ青年……つまり聖剣次元のMVPプレイヤーである【ランゼルート】だった!
ここにきてようやくMVPプレイヤー同士の戦いになるわけか。
「ここまで君の仲間たちと剣を交えたわけだけど、正直なところ肩透かしもいいところだったよ。
僕を倒した君が率いる仲間なのだからもう少し手応えがあると思っていたからね」
【ランゼルート】は初手で俺を煽りにきたようだ。
わざわざ呼ぶような仲間を愚弄されて怒るのはふつうの普通の感覚だが……
まあ、俺としては別にどうでもいい。
あいつらは味方でもあるが、敵でもあるからな!
【ランゼルート】と比べれば誰でも……それこそ俺でも型落ちした性能しかないのは歴然だ。
その煽りはむしろ今さら感すらある。
……それに、【ランゼルート】の仲間も俺からしてみたら肩透かしだったぞ?
この次元戦争の影響でスキルやスペックが制限されているとはいえ俺にあっさり負けそうになっていたからな!
ふははは、お前がせっかく呼んだ最愛の【アイシア】も俺が傷物にしてやったぞ!
煽りには煽りで対抗していくのが俺だ。
前回も【ランゼルート】も煽った記憶がある。
そして煽られた【ランゼルート】は案の定……
「【アイシア】を侮辱するのは許さないよ!
あんなに健気で逞しい娘にその物言いは看過できない!!!!」
激昂しながら聖剣を鞘から抜き放ち俺に切りかかってきた。
この勇者はどうも仲間のことになると直情的になりやすいようだ。
そこを利用してやればこいつの演算能力にデバフをかけたような状態になるのでさっそく利用させてもらった。
【ランゼルート】の聖剣をいなすべく俺は腰に提げていた包丁を構え、そのまま包丁の腹を使って受け流していく。
ヴッ……スペックが制限されてるのになんて重い一撃なんだ!?
まるでレイドボスの攻撃を受け止めたみたいに重いんだが、運動能力強化コマンドを使っていたにしてもこれは異常じゃないか!?
もしや俺の深度引き継ぎのように、【ランゼルート】もある程度のステータスを称号の効果で最低限保持したままだったのかもしれない。
そりゃ毎ターン「攻撃」コマンドを惜しげもなく連発できるわけだ!
そんな【ランゼルート】の剣戟を受け流しながら俺はどうやって攻勢に出ようか思案していくこととなった……
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