952話 【2ターン目】頭脳担当
【2ターン目】
【行動を選択してください】
【使用可能コマンド「自陣強化」「ターン終了」】
【使用不可コマンド「攻撃」「ユニーク」】
【ユニット【包丁戦士】】
【ユニット【釣竿剣士】】
ターン開始のアナウンスと共に俺と【ランゼルート】の視界を遮るようにぼやかしが入っていく。
どうやら毎ターン終了後にトークタイムを挟みつつ、一定時間後自動的に次のターンが始まるようだ。
あの短い間に相手の動向を予測して自分たちをどのように強化していくのか方針を決めるらしい。
まだ心理戦がメインだが、戦闘が混ざってくると相手に判断を狂わされることが出てくるだろう。
戦闘で身体を動かしたりしていると頭に血が登ってしまうからな!
「【包丁戦士】さんは冷静なようでいつも頭に血が登っていますよね?
だからいつも変な行動をしているのだと思ってましたけど……」
お前、そんな風に俺を見ていたのか?
「当然ですよ、生産プレイヤーなら!
包丁次元の生産プレイヤーたちの中も皆同じように思っていますよ。
周知の事実というわけです!」
なんという誤解だ……
俺はいつも冷静沈着じゃないか……!
まあ、他のやつらにどう思われていようと俺はいつも通り動くだけだけどな。
そんなことを話しつつも俺は次のコマンドについて思案し、【釣竿剣士】はルールブックを読み漁っていっている。
【釣竿剣士】を呼び出した時には考えていなかったが、人数が増えれば同時並行で作業を進められるのがメリットだな。
下手すると戦力以外にも作業員としてプレイヤーを呼び出す選択も悪くないかもしれない。
……もっとも、【ランゼルート】に対抗するのに戦力以外で呼ぶほどの価値があるプレイヤーなんて一握りしか居ないけどな!
「……【検証班長】さん呼びますか?
作戦立案に適したプレイヤーでこれ以上の逸材はいないと思いますけど……」
【検証班長】はジョブ【パイロット】なのでリソースを2ポイント使うことになる。
1ポイントで呼び出した【釣竿剣士】と比較すると……ちょっと心許ない気もするなぁ?
頭脳担当として呼びたい気持ちは山々だが、スキルを使えない【検証班長】は戦闘に一切介入できないのである程度盤面が揃って余裕が出てきてからか、逆にこれ以上どうしようもない時に呼ぶことになるだろう。
「それなら別の頭脳要員を呼べばいいですよね?
生産プレイヤーなら正規品を用意できない時は代替品で急場を凌ぐものです!
ちょうど、うってつけのプレイヤーが包丁次元にはいますからね」
【釣竿剣士】がウインドウ画面を指で操作し俺にその人物を紹介してきた。
……なるほど、考えは面白いがコイツが俺に力を貸してくれるか微妙じゃないか?
少し不安なんだが……
「多分大丈夫ですよ。
この前のユニーククエストでの戦いで完膚なきままに勝利した【包丁戦士】さんの要望であれば渋々聞いてもらえると思います」
根拠は?
そこまで具体的に言えるならそれ相応の理由があるんじゃないか?
俺は議論に幕を下ろすべく【釣竿剣士】に問いかけた。
ここで俺が納得できるような理由が出てきたならそれに従うのも吝かではないが……?
「当然ですよ、生産プレイヤーなら!」
……余計に信用しにくい理由付けだな。
だが、自信満々な【釣竿剣士】の様子を見ていると不思議と大丈夫なように思えてきた。
よしっ、その案乗ってやろうじゃないか!
「自陣強化」!そして「召喚」!
現れよ!【風船飛行士】!
俺がコマンド選択を終えると、頭にバンダナを巻いた赤髪のちょっとチャラめな男が出てきた。
「ちょっwww
まさかオレを呼ぶとはwww
これまでの因縁から考えてその選択はアリエーヌwww」
この鬱陶しい喋り方のチャラ男は包丁次元の東のトッププレイヤー【風船飛行士】だ。
こんな喋り方だが頭脳労働に関しては一級品、【検証班長】よりワンランク劣るレベルだ。
その分並列思考を得意としているので状況把握とその場の対応を任せられる人材だな!
あと、ability持ちなのでスキルを解放してなくても動けるのがメリットでもある。
こいつは種族転生で竜人になっているから召喚に2ポイント必要だったが、これは必要経費だろう!
「おぅふwww
そこまで言うのなら力を貸してやってもいいンゴねぇwww
今回の相手は特に強敵らしいからここでお前に恩を売ってやるwww」
まぁ、精々頑張ってくれ!
【検証班長】とお前で天秤にかけて選んだんだから、戦闘でも頭脳労働でもきっちり仕事をしてくれよ!
「その二択で外された【検証班長】可哀想過ワロタwww
あいつの気持ち考えてやれよwww
ユニーククエストであそこまで執着してたのにwww」
それこそ俺の知ったことか! って感じだな。
最善と思える選択肢を選ばなかった方がアイツも怒るだろう。
特に今回は負けられない戦いだから尚更だ。
「それならいいけど後でフォローしてやれよなwww
絶対アイツ拗ねてるぞwww」
【風船飛行士】がそんなことを言っているが無視して「ターン終了」のコマンドを選択していく。
リソースを使いきった俺たちにはこれ以上の行動は許されていないからな!
お互いに「ターン終了」したため【ランゼルート】が再び視界に戻ってくる……
すると、相手側には新たに1人増えていた。
聖剣次元の追加プレイヤーは赤色の髪に白いメッシュの入ったオールバックの高校生くらいの男だ。
羽のように何本かの布が重なった赤色のマントを羽織った……いわばアメコミNinjaだな!
「おっ、今回の相手はアイツらかー!
今日こそは派手に戦わせてくれよな!」
「あぁ、頼りにしてるよ。
相手は前に【アイシア】を倒した宿敵だから遠慮は不要さ!」
1ターン目で呼んでこなかったということは少なくとも種族転生済みかジョブは持っているため2ポイント以上必要だったに違いない。
あの姿は前に【ペグ忍者】と戦ったという【ラクヨウ】だろう。
【聖獣毛皮ξ】を使ってきたことから鳥獣人かその上位種族だと思うし、ジョブの有無が気になるところだ。
「そっちは三人になったみたいだけど、数を増やしただけで勝てると思わないことだね。
しかも風船に釣竿なんて戦闘向きじゃないチュートリアル武器の使い手なんて君の次元の程度も知れるものだ」
……言ってくれるじゃないか!
こちとらネタ武器使いでも必死にやってるんだ、勝手に蔑まれても困るなぁ!
「それなら戦いで証明してもらいたいものだね?
もっとも、僕の聖剣が敗れるとは思えないけど」
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