95話 最高の勝利とは
【Raid Battle!】
【荒れ狂う魚尾砲】
【最上級深淵適正者(贄)】
【レイドバトル同時発生につき難易度が上昇します】
はい、バニー服モードの【包丁戦士】だ。
このアナウンス、なんかよくわからないが俺はレイドボスとして扱われているらしい。
……いや、というより、俺が励起させた【Ж細胞】の方か。
俺の方は(贄)と表記されているから、多分スキル【深淵纏縛】のデメリットで生け贄になったんだろう。
でも、死に戻りしてないから今のところはいいが、この贄ってどんなことを指しているんだろう。
レイドボスの力をより多く取り入れたからか、本来吹き飛んでいて左腕しか残っていなかった四肢が、黒い布に覆われたような形で生えてきている。
……生えてきた部分からは尻尾と同じようにヌルヌルの粘液が垂れてきているが、ここまできたらそれくらいは些細なことだろう。
【深淵顕現権限】の派生スキルだからか、第二形態のジェーが反映された力を使えるようで、尻尾が2本あるってのがちょっと新鮮だな。
そして、頭にある取って付けたようなウサミミの付け根には、ギョロギョロと動く気味の悪い二つの眼球が、あたかもアクセサリーです、といった顔をしてついている。
控えめにいってグロい。
どう考えても中ボスみたいな見た目です、ありがとうございました。
俺、めちゃくちゃ不気味な姿になってしまっている……
「レイドボス化は流石に驚きましたが、先程のアナウンスを聞くところによると、かなり弱体化しているレイドボス……という扱いのようですね?
レイドボスにも優位に立てる私の釣竿一刀流なら太刀打ちできます!
そして、その力、時間制限があるみたいですからね?」
……そういえば、そんなアナウンスも流れていたな。
【消滅まで00:05:00】か……
つまり、後5分で【釣竿剣士】を片付ければいいってことだろ?
望むところだ!
とりあえず考える前に【魚尾砲撃】!
【#ЖЖ####【Ж】!!!】
俺は荒れ狂う雄叫びをあげ、スキルを発動した。
あっ、バニー服を着た俺のカットインが流れたな!
カットイン技は今までの俺達底辺種族で撃てたプレイヤーはいない。
だからどうした、という話ではあるが。
この試合でどれくらい放ったのか分からない尻尾からのレーザー攻撃を放つ。
だが、これは先程までのレーザーとは違う極太レーザーだ!
「片手では防げないとでも思いましたか?
これくらい生産プレイヤーなら防げて当然ですよ!
釣竿一刀流【渦潮】!」
片手で器用に釣竿を振り回し始めた【釣竿剣士】。
だが、さっきまでよりも圧倒的にスピードが遅い、そして、俺の攻撃はさっきまでよりもかなり強化されている。
そうなると……
「ふふふ、やりますね!
肌がちりちりと焦げていくのを感じますっ!」
大半のレーザーが千切りにされているので、【釣竿剣士】に届いた攻撃は少ない。
だが、確実にダメージを与えているのは間違いない。
肉が焼ける臭いが俺の方までプンプンしてきてるぜ!
まあ、このままのペースだと押しきれずにタイムアップだ。
つまり、俺が消滅して負けてしまうことになるだろう。
だからこそ、俺の新緑都市での戦いの経験を思い出して活かすときだ!
俺はジェーの何を見てきた?
戦い方、性質、名称、役割それらを想起して、一つの選択肢をとる。
あれならどうだ!
俺は尻尾を折り曲げ地面に押しつける。
次の瞬間、その尻尾を一気にピンと伸ばし飛び出すように【釣竿剣士】へと向かっていった。
この突進はよくジェーが使ってきてたから馴染みが深い。
まさか、俺が使うことになるなんてあの頃は思ってすらいなかったが……
だが、それだけじゃない、極太レーザーを後方に放ちブースターの代わりにしてさらに加速していく。
これは俺がさっき考案した加速方法だな。
さっきはルル様の羽と併用で使ったが、ジェーの力の制御が【深淵纏縛】によってより精密にできるようになったからこそ、加速スピードはアップしている。
安定性も増しているから、軌道のぶれも少ないぞ!
「は、はや……い!?
けど、防ぐだけならなんとか……」
いや、お前が防げるのはどれかな?
俺は【釣竿剣士】の目の前に来ると、尻尾を前に向け突き刺すように打ち込む。
尻尾の質感が金属のようになる性質を白虎ジェーが使っていたのを思い出したので見よう見まねでやってみたらできた。
釣竿に尻尾が当たるとゴリゴリと削れるような音が鳴り始めた。
そして、新たに生えた2本目の尻尾も同様に突きだして追撃を加える。
ちっ、これも防がれるか……
だが、次の策もあるぜ!
そして、その突きの先端から極太レーザーを放つ。
ゼロ距離から放たれる極太レーザーによって、【釣竿剣士】の【渦潮】を完全に停止させ、腹部に風穴をあけ、後方の客席まで直撃した。
あっ、5人くらい【モブ】逝ったな。
「ごふっ……
私の負けです……
現実の力を極めてもゲームではまた別の極まった力がある……そういうのをあなたから教われたので……
生産プレイヤー的には充分な収穫でした……よ……」
腹部の風穴から順に光の粒子となっていく【釣竿剣士】。
まあ、待てよ。
最後にこれを食べていけ、俺の自信作だ。
そう言ってポケットの中からガラス瓶を取り出し、その中身をレンゲにのせて【釣竿剣士】の口に運ぶ。
いわゆるあーん、ってやつだ。
百合百合しいだろ?
まあ、俺はなんか黒い瘴気に覆われてるし、【釣竿剣士】は右腕を失っていて腹部に風穴が空いてあるけどさ……
俺が食べさせてやったものを【釣竿剣士】はゆっくりと咀嚼し、ごくりと飲み込んだ。
「これは……濃厚な辛さと野菜の風味がマッチしていて、まるで砂漠でタップダンスを踊っているかのようです。
えっ、辛さの秘訣は……紫毒茄子?
それって猛毒ぅっ……うえっ……」
やったぜ。
野菜屋のおっちゃん、俺はあんたの力で勝利したぜ!
完全に勝利の押し売りだが、どうしても決勝戦でこの猛毒料理である紫毒茄子の麻婆茄子で勝ちたかった。
だって、決勝戦で毒殺なんてプレイヤーキラーとして最高の勝利じゃん?
俺はプレイヤーキラーだから、さいっっっこうに気持ちいい。
相手をなじるような勝利が出来て気持ちいい!!!
ああっ、最高だっ!
俺は満面の笑みを浮かべていることだろう。
この底辺種族【包丁戦士】、実は
もう、深淵種族なのでは?
私はそう思いました。(小並感)
【Bottom Down-Online Now loading……】
30話かけて書いてきた闘技場イベント編終了です!
この後は、ちょっと報酬関連が続きますよ!